2章-18
次の朝は、早起きして動き出す。
「じゃあロイスに行ってくる」
今日はユレーナはお留守番。
モクロ達がこっちに来ることになったら、一緒に跳ばないといけないから人数の節約だ。
危ないことはしないようにと何度も念を押された。
ロイスに着くとリリアが一番に飛びついてきた。
頭を撫でると、ぎしぎしと髪が鳴る。
不思議に思って屈んで全身を見ると、前に買った服ではなく、また襤褸を纏っている。
臭いが、そんな事よりも!
「リリア、モクロは?ほかの皆は?前に買った服はどうしたの?」
リリアは、ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら何度も謝った。
違う、泣かせたいんじゃない、謝って欲しいんじゃない、理由が知りたいんだ。
妹などいなかった俺は小さい子のあやし方なんて分からない。
「大丈夫、大丈夫だから…モクロはどこにいったか分かる?」
「もうすぐ、もどる、とおもう」
「そう、教えてくれてありがとう。じゃあ戻ってくるまで、ここで待っててもいいかな?」
リリアはぶんぶんと首を縦に振り、しがみついてくる。
しばらく背中をぽんぽんしながら座って待っていると、すーすー寝息が聞こえてきた。
ああそうか、寂しかったのか。
自分が幼かった頃の記憶を思い出し、納得した。
リリアの心はギリギリだったのかもしれない。
もう少し来るのが遅かったら…
「頼ることを覚えてしまったら生きていけない、か」
ぽつりと呟き、その言葉の重さを初めて実感した。
一時間くらい経った頃、モクロが戻ってきた。
「え?ヨウ様?ははっ、ホントにヨウ様だ!見ろ!俺は嘘つきじゃなかった!ヨウ様も嘘つきじゃなかった!!」
「お帰り、モクロ。何があったか教えてくれる?」
「ああ…楽しいもんじゃないけどな」
リリアを起こさないよう、声を顰めて話を聞くと、あれから数日は真面目に働いたが、長くは続かなかったらしい。
俺から貰ったお金も底をついて子供たちの仲が険悪になり、俺が戻ってくるかどうかで意見が対立。
結果、俺がもう戻ってこないと考えた子達は、ここを出て新しい住処に移ったという。
俺を信じて残ったのはモクロとリリア。
とことん頼られてやるって言ったのは誰だ。
余計な期待をさせて放置して、つらい思いをさせてしまった責任は俺にある。
そう…責任だ。いま気付いた。
これが責任ということか。
だったら責任を取ろう!
俺はリリアを優しく起こし、二人を見据えて声を掛ける。
「モクロ、リリア、俺と一緒に来ないか?この街にはもう戻ることはないかもしれないけど…」
「いく!わたしいく!ヨウさまといたい!」
「なら俺も行く…この街に未練はないよ」
モクロは本当に色々あったのだろう、複雑な表情だが、やがて頭を振り俺を見る。
「よし。じゃあ俺の家に行こう!ほら、掴まって!いくよ!」
王都の家に着くと、ユレーナが桶に水を張って待ちかまえていた。
再び襤褸をまとうことになった二人の姿を見て、早速布をざぶざぶやり始めた。
「ユレーナ、よく分かったね…お願いします」
「時間がかかっていたので、予想はつきました」
特別勘が鋭いのか、この世界の標準なのかは分からないが、とにかく手間が省けて助かった。
すぐに二人は襤褸を引っ剥がされ、布でゴシゴシこすられていく。
桶の水はすぐに真っ黒になり何度も換えなくてはいけないが、そこは自分達で換えてくれた。
実はこの家、上水完備なのだ。
近くの井戸からひいているらしい。
王都の一軒家は大抵このタイプだが、集合住宅はやはり井戸から汲まないといけないようだ。
その間に俺はお湯を沸かしておく。
暖かいお茶でも飲めば、少しは心にゆとりができるだろう。
小綺麗になった二人は、普通の子供服を着ていた。
これもユレーナが用意してくれていたみたいだ。
万能過ぎだろう…
俺が淹れたお茶を皆で飲みながら、これからのことを話し合う。
「それじゃあ、これからなんだけど、まずリリア、家事出来そうかな?」
まだ働けそうにないリリアが、家のことをしてもらえると非常に助かる。
ユレーナの手が空けば、ギルドの依頼でお金を稼ぐことも出来るし、俺が出掛けるときの護衛も頼みやすくなる。
「が、がんばります!」
「ありがとう、無理はしなくていいからね。次はモクロ、君は引き続き情報集めと、光るものの捜索ね」
「わかった!ってそう言えばロイスの街で拾った情報はもういらないか?」
「ん?そこはちゃんとやってくれてたのか。嬉しいな、聞かせてくれる?」
「ああ!えっと、砂糖と胡椒の値段が上がってるらしい。それから最近になって小麦も」
モンドさんの言ってた相場通りだな…小麦が上がってるのはパイア被害の関係かな?
「それから、キールの街から魔法ポーションっていうのが一杯来てすぐに王都に運ばれていった」
あー、チェロキー商会だったかな?あそこが量産を開始したんだろう、あとでアグーラさんの所に寄って聞いてみよう。
「あとはロイスの領主が魔族を捕まえて王都に送ったって噂もあった」
「魔族!?この辺りにいるの?」
「さあ?オイラには何のことかさっぱりだ!」
「基本的に魔族は自分の国から出ることはありません。ただ体内の魔晶石からマナが供給されるので子供でも魔法が使えてしまいます。普通は生活魔法だけでですが、稀に転移魔法を使ってしまう子がいると聞いたことがあります」
「転移魔法か…行ったことが無いところに行ける魔法だよね?なんでそんな危険な魔法を…」
「子供のやることですからね、おそらく興味本位でしょう」
それで人の街に出てきて捕まっちゃったかもしれないって事か。
ん?どうして捕まえる必要があるんだ?
「ユレーナ、どうして魔族を捕まえるの?」
「奴隷、でしょうか。人を奴隷にするのは世界法律で禁止されています、魔法と同じ扱いですね。ですが魔族については対象外です。奴隷が認められています。まぁさっき言ったとおり母国から出てこないので滅多にいませんが。」
「じゃあ、さっき聞いた捕まった魔族は子供の可能性が高くて、奴隷になってるってこと!?」
「まぁ噂が真実であれば、そうかもしれませんね」
やはりこういう事に関してはユレーナは淡白だ、俺はそうそう割り切れない。
常識が違うと言ってしまえばそれまでだけど…
それでもなんとかしたいと思ってしまう。
「モクロ、悪いけどその捕まった魔族の情報を優先でお願いできないかな?」
「わかった!でもどうやったらその情報集められるの?」
…
目が泳いで行き着いた先はユレーナ。
ユレーナはため息をついて話し出した。
「魔族って考えるから難しいんだ。奴隷の噂話を集めればいい」
「奴隷だな、わかった!」
俺の指示が良くなったんですね、わかります。
ユレーナができる子でよかった。
「ユレーナ、フォローありがとう」
「いえ、ギルドでは情報収集の依頼もあるので、その経験があっただけで…」
ユレーナが少し赤くなって言い訳している。
さて、とりあえずこんなところかな。
王都に慣れて貰わないといけないから、ご飯の買い出しがてら皆で街を歩いて回ろう。
腹が減っては戦はできぬとも言うしね。
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