2章-17

勝った!ユレーナは無事か!?

土埃でまだよく前が見えないが、とにかく近付き闇雲にユレーナを探す。


「ユレーナ!ユレーナ!!」


呼んでも返事がない。


やがて埃が静まり視界が戻ると、ユレーナが地面に倒れているのが見えた。


「ユレーナ!」


慌てて駆け寄りユレーナを助け起こすと、気がついたようだ。


「いたた、ヨウ様?パイアは?」


「はぁ良かった…パイアは無事倒してるよ。あのデカいのが見当たらないだろう?」


魔物は死ぬと消えるからね。

ユレーナが普通に受け答えしてくれた事で、本当に無事なのだと分かり、落ち着いた。

所々擦り傷があり血が滲んでいるが、大きな怪我はないようだ。


「いま回復魔法をかけるね。光らないようにするからさ」


「すみません、助かります」


「マイナーヒール」


額や肘膝にあった擦り傷がスーッと消えていく。

傷が残らなくてよかった。


「あ、聖剣が!…あぁ、そんなまた光が…」


回復魔法に反応したのか、聖剣…、わりと敏感なやつだな。

そのうち本当に聖剣扱いされちゃうんじゃないか、この剣。


「また必要になったら魔法掛けるから。いつも光ってるより、いざって時に光った方が聖剣っぽくていいと思うよ」


「そう、ですね!その通りです!ヨウ様!」


元気になったユレーナは、早速立ち上がって魔石を探し始めた。


戻ってきたユレーナの手にあったのは、拳大の白っぽい魔石だ。

大きい!

ウッドマンの時は、小指の先程度の大きさだったから、パイアの魔石がどれほど大きいか分かるだろう。


「すごい!こんなの売ったらいくらになるの!?」


「想像もつきません…このような魔石を見たのは初めてです」


「これはシルにいいお土産ができた!きっと喜んでくれるよね!?」


「ええ!シル姉様の喜ぶ顔が目に浮かぶようですね!」


ウッキウキの二人は、近付いてくる人影に気付くのが遅れた。


パチパチパチ。


反射的に音のする方を見ると、例の受付嬢が手を叩いてこちらへ歩いてくる。


「お見事ですぅ、ユレーナ様ぁ。パイア単独討伐ぅ、しかと見届けましたぁ」


尾行してきたのはこの人だったのか…

こんな感じでも優秀な諜報員なんだろうな、ユレーナも感づいてはいたけど確証は持てなかったみたいだし。


「あなたが見届け人ってこと?」


「そうですよぉ。高ランクの依頼はぁ、下手に近付くと足手まといになっちゃうのでぇ、隠れてましたぁ」


あらま、そういう事か。

隠れてコソコソ探ってたんじゃなくて、自分の身を守る為と、足を引っ張らないようにする為に隠れてたのか。

かわいいところあるじゃん。


「じゃああたしは一足先に帰りますねぇ。ばいばいでぇす」


言うだけ言って去ってゆく受付嬢。

きっと報告とか色々あるのだろう、大変だなギルドの職員も。


「そういえば魔石は一つだけ?途中のフォレストボアの分はなかった?」


「ああ、そういえば。夢中だったので忘れてました」


たたたっとユレーナは駆けていき、戦ったと思われる場所を探し始めた。

俺もついて行って一緒に探すが、フィールドワークみたいで意外と楽しい。

結局、思ってたより奥に、白みがかった灰色の魔石がコロリと一つ転がっていた。


目的は達成したのでここに残る理由はもう無い、とっとと帰ろう。

一直線に帰れば四日もあれば王都に着くだろう。

帰りは監視もないので、疲労回復魔法も使いつつ、少しペースを上げて歩いた。

魔物も俺が魔法でサクッと倒して進む。


夜、野営中にふとユレーナに聞かれた。


「ヨウ様ならパイルは一撃でしたか?」


「いやー、さすがに低級魔法じゃ一撃とはいかないんじゃないかな?中級か上級なら可能なんだろうけど、今のマナ制御レベルなら多分マナが足りないよ」


「おお、では私はお役に立てたのですね!」


「役に立ったも何も、今回うまくいってるのは全部ユレーナのおかげだよ?ホントありがとうね」


「いえ、そんな、私は…」


ユレーナの顔が赤く染まる。

魔法を見て興奮している時より、こっちの方が断然かわいい。

自然と手が伸び、ユレーナの頭をヨシヨシと撫でてしまう。


「あ、ごめん!つい…」


自分の行いに気付いて慌てて手を引っ込めたが、ユレーナは不服そうな顔である。

ぶーっと片方の頬を膨らませて俺を睨んでいる。

女性に対して失礼なことをしてしまったと思い、気まずくなってごろんと横になる。


気がついたら朝になっていた。

なぜかユレーナが腕枕で眠っている。


「うわっ!え!?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、ユレーナを起こしてしまったようだ。


「ヨウ様?どうしました?」


綺麗な顔がすぐ目の前にある事に驚き、二の句が継げない。

俺の動揺を知ってか知らずか、ユレーナはニヨニヨと頬を緩ませてからゆっくりと立ち上がり伸びをする。


「さぁ!ご褒美も頂きましたし、今日からまた頑張れそうです!行きましょう、ヨウ様!」


なぜか朝から上機嫌なユレーナ。

わざわざ水を差すこともない、ご褒美が何かなんて聞かないでおこう。


そして帰り道は順調に進み、無事王都の門を潜り、ハンターギルドへと帰り着いた。


一階では既に話が広まっているのかざわついていて、いつぞやの短髪の女性ハンターが話しかけてきた。


「ユレーナ様、凄いですね!Aランク単独討伐おめでとうございます!異例のスピードでの昇格なので、ギルド中その話で持ちきりですよ!


それでこんなに騒がしいのか、凄いことをやってのけたんだな、ユレーナは。

改めてユレーナの強さを再認識しつつ、二階へ上がる。


「おお!神速のユレーナ様の凱旋だぞ!」


ディンクさんが大声を張り上げ、拍手しだすと、仕事中だったスタッフは手を止めて口々におめでとうございます、と言いつつ手をたたいている。


ユレーナは顔を赤くしながらぺこりと頭を下げた。

そしてディンクさんの手招きに応じ、俺と共に奥の一室へと進む。


「いやーおめでとう、ホントに討伐しちゃったね!これで今日からユレーナちゃんもAランクだよ!」


「ありがとうございます」


「もっと喜ぼうよ!なんだったらお酒も用意するからさ、ぐぐっとやって意識飛ばしちゃっても俺が介抱してあ…」


カチャリ。


ユレーナがおもむろに剣に手をかけると、ディンクさんは急に静かになった。


「コホン。ヨウ殿もお疲れさまでした。ご無事でなによりです」


「あ、ありがとう。ディンク殿も相変わらずじゃの…」


「いやぁそれほどでも!」


「誉めておらんのじゃが…」


「それよりも約束は果たしてますよ!例のお貴族様にはもう面会予約を取っています、と言ってもあちらさんは待たせるのも仕事の内なので、十日待てとは言われましたが…」


「十日も?」


「結構偉い方でしてね…まぁ二日前にその返事を頂いているのであと八日ですね」


「骨を折っていただき感謝しますじゃ。それまではゆっくりできそうですな」


「そうですね。家の方もいつでも入れるようになっています。特にお荷物なければこのまま案内させますがどうします?」


「出来ればそうしてもらいたい。ユレーナ構わんかの?」


「ヨウ様がお望みでしたらそうしましょう」


「では後で案内の者をお付けします。八日後の朝ギルドに来てください、顔つなぎのためオレも行くので。あ、討伐報酬だけ先にお渡ししておきますね」


ジャラっと持ち重りのする音を出して、机の上に袋が置かれた。


「討伐報酬?」


「ああ、ヨウ殿はハンターではないのでご存知ないですね。ギルド依頼達成時には報酬が出ます。通常は複数で任務にあたるので頭割りされ微々たるものですが、今回は単独討伐なので独り占めですよ。金貨40枚あります」


おお!再びお金持ちになれた!

剣を新調したときはどうなるかと思ったけど、ユレーナ様々だな。

これからは宿代も掛からなくなるし、このお金はシルに渡そうかな?

あ、でもシルには魔石のお土産の方が喜んで貰えそうだ、喜ぶシルの顔が早く見たい。


その後、討伐の時の話で一盛り上がりしてから部屋を出た。

部屋の前にはスタッフが待機していて、これから家へ案内してくれるという。

素直について行くが、一階はまだ騒がしく、ユレーナは通り過ぎ様にバシバシ肩を叩かれている。

あれ、俺がやられたら骨折しそう…


ギルドの建物を出て、大通りから一本路地に入った先の並びに、目当ての家があった。

スタッフから鍵を渡され中へと入ると、家具が一通り揃っていてすぐに住める状態になっている。

一階は大部屋、二階は二部屋に分かれているので、2LDKになるのかな?


ひとまず荷物を下ろして一休みする。

スタッフはすぐに帰って行った、仕事が待っているのだろう。


「ユレーナ、買い出しに行かない?お茶を飲みたいんだ」


「それでしたら私が行きますので、ヨウ様はどうぞ休んでいてください。ここのところ歩き通しでお疲れでしょう」


クタクタだったから、正直すごく助かる。

申し訳ないがここはお言葉に甘えさせてもらおう。

俺はただ座っているのも暇なので、帰還魔法の為にこの部屋のイメージを頭に叩き込む。

あまり内装をいじらないようにしよう、記憶し直すのが大変だ。


暫くするとユレーナが色々買って戻ってきた。

大きい家具はあっても細々とした物や消耗品が無かったからね。

ユレーナは早速お茶を入れてくれた。

お茶と言っても紅茶に近い。

緑茶が飲みたい…チャノキ生えてないかなぁ。


当初の計画通り、王都に拠点ができた。

そこで思い付いたことをユレーナに聞いてみた。


「ねぇユレーナ、モクロ達をここに呼んだらダメかな?情報を集めるにしてもロイスより王都の方がいい気がするんだけど…」


「住み慣れた街から離すのはどうでしょうか…まぁ本人達に聞いて、来たいと言うなら受け入れるくらいでいいのではないですか?情報についてはその通りだと思いますので」


「そっか、それもそうだね。じゃあ早速明日行って気持ちを聞いてみよう。その後にシルに報告に行けばいいかな」


明日から数日間は休みみたいなものなので、必要な用事だけ済ませて、あとはゆっくりと過ごすつもりだ。

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