2章-16
七日目、ついに痕跡を見つけた。
マーキングの為に巨体を擦り付けたのだろうか、何本かの木が折れている。
巨大な足跡も真新しく、俺には分からないがユレーナには何か感じることがあったのだろう。
キッと先を見据え、ゆっくりと注意深く進んでいく。
うしろを追うオレも緊張してきた。
ユレーナが急に立ち止まり辺りを見回した後、
目を瞑り気配を探っているのかじっと集中している。
「ヨウ様、やはり誰かにつけられているようです。巧みに気配を消していますが、間違いないでしょう」
「え?そうなの?なんで俺達を尾行する必要があるの?」
「おそらくパイア討伐を確認する為だと思います。王都を出てからずっとですので」
「じゃあ、ハンターギルドの人って事か。こんな事よくあるの?」
「高ランクの討伐依頼は初めてなので分かりません、低ランクの依頼はそもそも一緒に行動しますし…」
「そっか。まぁ魔法さえ使わなければいいんだし、この際尾行は無視してパイアに集中しよう。居るんだよね?近くに」
「ええ、確実にいます。血の臭いがするので獣でも喰らったのでしょう」
用心して進むこと一時間程、遠くに白い巨体が揺れている。
遠目でよく分からないが、おそらくまた獣を喰らっているのだろう。
少しずつ、少しずつ、近付いていく。
途中斧の刺さった木があった。
容易に目視できる位置でユレーナが止まる。
息を整え、振り返り軽く頷いてきた。
「ユレーナ、せめて付与魔法だけでもさせて。絶対光らないようにするから」
「それは…はい。願ってもない事です。お願いしてもいいですか?」
「もちろん。絶対無事で戻ってくるんだよ」
「ヨウ様は安全な所まで下がってください」
あまり近くにいるとユレーナの足を引っ張る事になるから、言われた通り離れよう。
何かの拍子にこっちに攻撃がきたら一撃で死んじゃうからね、俺の場合。
ユレーナの肩に手を置き、決闘の時と同じ様に敏捷の付与魔法を唱える。
魔法を掛けられたユレーナは少し顔を赤くしたが、剣に目をやった直後硬直した。
「ヨウ様…剣が…」
ん?剣がどうしたのだろう?
別になんの異常も無いように見えるけど。
「剣が…今一瞬光りました…」
「ええっ!?…じゃあマナが通るっていうのは本当だったってこと!?」
「間違いありません!これは!!なんと素晴らしい!!もう勝利は確定しました!!行ってきます!!」
ユレーナは駆け出し一気にパイアに迫る!
ちょうど後ろを向いた格好のパイアは、食事に夢中のようでまだユレーナに気付いていない。
そのままの勢いでパイアの右後ろ足を切り付け、剣を振り抜く。
骨までは届かなかったのか切断には至らなかったが、血しぶきが舞い上がった。
振り向きざまにパイアの牙が襲いかかってくるが、素早さの上がっているユレーナはそれを難なく躱す。
正面に向き直ったパイアは怒り心頭といった様子で鼻息も荒く、咀嚼中だった細長いモノを飲み込みユレーナを睨みつけている。
ユレーナは再び地を蹴りパイアの鼻っ面目掛けて剣を薙ぐと、鼻が横一文字に切り裂かれ鮮血が飛び散った。
パイアは痛みにもだえ鳴き叫びながらユレーナに突進する!
それを紙一重で躱したユレーナは、すぐ側を通る巨体めがけ数度切りつけるも浅い傷がつくばかり。
パイアはユレーナのスピードについていけないようだ。
一旦離れ呼吸を整えて、今度はパイアの右側に回り込み、手負いの右後ろ足へ再度斬撃を放つが、やはり切り飛ばすに至らない。
その時、森の奥から木の薙ぎ倒される音が聞こえてきた。
ユレーナはパイアから距離を取り、音のする方を睨んでいる。
飛び出してきたのは…フォレストボアだ!
まずい!思わず木陰から飛び出しそうになるのをぐっと堪えて状況を見守る。
パイアの鳴き声を聞きつけたのか、ユレーナを見つけるとそのまま突進してきた。
パイアの方をちらりと振り向いたユレーナはフォレストボアに向かって駆け出す。
次の瞬間、フォレストボアの首が宙を飛んでいた。
うそっ!昨日は切れなかったのに!
しかしその間にパイアはユレーナに迫り牙を突き立てた!
…かに見えたが間一髪剣の腹で受けたようで、後ろに弾き飛ばされるが、それ程のダメージには見えない。
再びパイアに向き直り、剣を構える。
少しのにらみ合いの後、パイアが前掻きをして突進の態勢をとった。
ユレーナは動かない、突進を待っているのか?
案の定、先に動いたのはパイアで、ユレーナ目掛け大口を開けて突っ込んでくる。
それに合わせたユレーナは高く飛び上がり、パイアの眉間に剣を突き立てた!
深々と刺さった剣は脳に届いたのか、突進の勢いを無くしたパイアは、ユレーナもろとも土埃を上げて地面に倒れ伏した。
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