1章-11

「うおおおっ!すげーー!どこだここ!ホントに魔法使った!すげーよ爺さん!!」


家に着いた途端、ユレーナさん大興奮。

目がきらきら、足がじたばた、胸がゆさゆさ。

目に毒です…いや逆だな、眼福です!

しかし騒がしい。

ほらシルが出てきちゃった。


「なになに!?なんの騒ぎ!?ってニンゲンいるじゃん!なんで!?ちょっとヨウ!説明しなさい!」


「うおーーー!妖精…、じゃない!妖霊?いや精霊様か!?知り合いなのか爺さん!すげーな!すげーよ爺さん!」


あかん、この人興奮マックスや…

アグーラさんの所に居たときはそんな風に見えなかったのに、これが素なのか。


「シル、ごめん。実はこの人に魔法使えることがバレちゃって…連れていけってうるさいからつれて来ちゃった!てへぺろ」


「えーーーーー!だから気を付けてって言ったじゃない!バカっ!!」


スパーン!


はい、ハリセン登場です。

久しぶりだなー、これ食らうの。


「気を付けてはいたよ!この人、ユレーナさんっていうんだけど、マナが見えるみたいでさ、それでバレちゃったみたい。」


「なにそれ!?めっちゃ気になる!ちょっとユレーナさん!あれ?この人ポーション屋にいた…」


「うん、イレーナさんの双子の妹さんです」


「あ、それで顔が似てるのね、体も。ああそれよりも、私のことはどう見えるの!?マナが見えるんでしょ!?」


「はい!見えますよ!精霊様はマナの塊のような感じです!」


「きゃーー!やっぱりあたしはマナの塊かぁ!

才能あると思ってたんだよねぇ!ヨークラム様の元で修行してマナが濃厚になった感じもしてたしー!」


「ヨークラム様の元で修行を!?素晴らしいです!是非私にも修行をつけていただきたいです!」


「ふふーん、あなた分かってるわね!いいわ!邪悪な気配も見えないし妹弟子ということにしてあげる!」


「はい!ありがとうございます!お姉様!!」


くわっ!!!


うおっ、シルの目が3倍くらい大きくなった!


「妹よ!家を案内するわ、ついてきて!」


「はい!!!」


だめだ、二人のテンションについていけない。

なんで意気投合するんだ。

どうしてこうなった…


その後、数時間に渡り二人の話し合いが続き、蚊帳の外だった俺には結果だけが告げられた。


「正式にユレーナをヨウの弟子にするわ!正確にはヨークラム様の弟子とは言えないけど、彼女は納得済みよ!」


いやユレーナさんが納得するも何もおれが納得していないんですが…

こういう時、男ってダメだよね。

反対とか考えるのも怖くてできない。

ただ受け入れるのみ。


「はい、分かりました…」


「師匠!これからよろしくお願いします!」


「えと、師匠はやめませんかユレーナさん…」


「ではヨウ様と!私のことはどうぞ呼び捨てにしてください!」


ちらっとシルを見るが満足そうに頷いている。

ああ、もう何を言っても無駄なやつ。

まさかユレーナさんを世界樹再生に付き合わせることになろうとは。

でもそうなると、解決しないといけない問題が出てくる。


「あの、ユレーナ?アグーラさんとイレーナさんに挨拶をした方がいいと思うのですが…地上げ屋の件も解決していませんし」


「そうですね、二人には別れの挨拶だけすればいいとは思いますが、地上げ屋の件は…若旦那を消しますか?」


「いやいや何それ!こわっ!だめだよ!ちゃんと穏便に解決させようよ!ってなんで別れの挨拶なの!?」


「え?世界樹を再生させるんですよね?じゃあ世界樹の所に行く必要がありますよ。いつまでも家にいるわけにはいきませんので、出発は早い方がいいかと。」


お、おっしゃるとおり…

でも待って!

俺帰還魔法あるからわざわざお別れしなくてもいい気がするんですけど!


「あの、帰還魔法あるから、すぐ帰れるよ?」


「あ、そうでしたね!じゃあ実家は報告だけにしましょう。地上げ屋についてはヨウ様に手を出したのです。相応の報いは必要ですし、今更穏便にというのも難しいと思うのですが」


俺が連れ去られそうになったのはいいとして、確かに最初に手を出したのは向こうだよね。

イレーナさんにちょっかいも出してるし。

でもせっかく売り上げを上げて影響力も出てきたのに、最終的に武力で解決したんじゃ今までなんのために頑張ったのか…


「過程よりも結果です。実家が困るようにならなければいいのですから」


ああ、そういう考え方もあるか。

過程を重視するのは自己満足かもしれない。

自分がしてきたことが無駄になるのが嫌なだけだ。

実際に困ってるのはアグーラさん達で、問題が解決するなら薬草にこだわる必要はない。

それに改良した薬草畑も全く無駄になる訳じゃない。

現に今も効果が上がって評判も上々なんだから。


「仕方ない…か。でも最終的にどうするかアグーラさん達に確認しよう。もしもアグーラさんたちが怖がらないなら今からもう一度会いたいけどどうかな、ユレーナ。」


「おお!喜ぶと思います!私がヨウ様を探しに行ったのも二人に探してくるよう言われたからですから!」


そうだったのか…

二人にはお世話になったのに一方的すぎた。

拒絶されるのが怖かったっていうのは、勝手な言い訳だよね。

ちゃんと謝ろう。


「よし!じゃあ挨拶、じゃなくて報告と相談に行こう!シル、行ってくるよ!ユレーナ、つかまって!」


「はい!!」


「いってらっしゃい!ヨウ!」


「リターン!!」


二人の姿がかき消える…



着いたのは薬草畑。

ここはイメージしやすい、なんだったらさっきの家よりも。


「さすがです!ヨウ様!一瞬で実家に着きましたね!」


「う、うん、そういう魔法だからね…」


やはり魔法を使うとテンションがおかしくなるな…

騒がしくしてるとドタドタと走る音がする。


バンッ!!


ドアが勢いよく開けられアグーラさんとイレーナさんが飛び出してくる。


「「ヨウさん!」」


よかった、と呟きながら二人が抱き締めてくる。

ああ、本当に申し訳無いことをした。

こんなに心から心配してくれる人を、自分勝手な考えで傷付けてしまうところだった。

あのまま俺が帰ってこなかったら、きっと二人は自分達を責めただろう。

どうして止められなかったのか。

どうしてすぐに笑って何てことないと言えなかったのか。

二人はそういう人だ。


「突然飛び出してすみませんでした。ご心配をおかけしたようで…」


「ほんとよ!ヨウさん!どれだけ心配したか!

ってどうして薬草畑に??それにユレーナも?」


「イレーナ、魔法だよ!私ヨウ様の家に行ってきて弟子になったぞ!これから世界樹再生しに行ってくる!」


ユレーナ、それ何言ってるか絶対分からない。

100%伝わらない自信あるわ。

突拍子なさすぎる。


「ええと、詳しく説明するので、ダイニングをお借りしても?」


そのまま四人はダイニングに移動して、事の顛末を二人に話した。

全部話した俺は隠し事もなくなりスッキリ。

二人も心のわだかまりが取れてスッキリ。

一人だけ魔法を何回も体験して興奮。

弟子にしたくだりでは、さすがに二人の開いた口が塞がらなかったが、イレーナさんだけはすぐに、魔法ずっと憧れてたもんね、と納得していた。


「それで地上げ屋の件なのですが、もうユレーナさんにお願いして、手を出せないようにコテンパンにしてもらおうと考えたのですが…」


「それには及ばないよ、ヨウさん。ポーションの質が上がってウチの影響力も強くなってる。これからハンター達にも売り込みに行くつもりだし、そのうちウチを潰すなんてできなくなるよ」


…なんだ、また空回りしちゃったか。

俺がなんとかしなきゃって、ただの思い上がりだった。

独りよがりの親切の押し付けなんて救えないよね。

結局何も出来なかった。

どんどん自己嫌悪の気持ちが強くなってきて、同時に自信もしおしおと萎んでいく。


「ヨウさん、ありがとう。ヨウさんの薬草畑のおかげです。毎日本当にありがとうございました。もう、ウチは大丈夫です」


「ホントよ、全部ヨウさんのおかげ!ありがとう!ヨウさんは私達の恩人よ!」


え…

……

ああ…俺ちゃんと役に立てたんだ。

無力じゃなかった。

今までやったことは無駄じゃなかった!

過程を見てくれていた人がいた!


「こちらこそ、ありがとう、ございます。」


目から涙がこぼれ落ちるが、拭く事ができない。

この世界にようやく受け入れてもらえた気がした。

シルには悪いけど、家族を感じれたのはこの場所だった。

もちろんシルのいる場所が嫌いなんじゃない。

ここが好きなんだ。



それから他愛のない話を少ししてから帰ることにした。

ユレーナさんは明日からしばらく実家を離れることになる。

積もる話もあるだろう。

明日は俺がここに迎えにくることになっている。

そして一緒に食事をしてから、世界樹のある王都に向けて出発することになる。


これからは二人旅になる。

シルはシルで忙しそうだから、多分また留守番するって言い出すんじゃないかな。

帰ったらまた相談してみよう。


薬草畑で帰還魔法のイメージを整えながら考える。

こんな俺でほんとに世界樹の再生なんてできるのだろうか…

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