1章-10
ドアが開いたと思ったらそんな事を言いながら誰かが入ってきた。
と思ったら俺を掴んでいた男を一発で叩きのめした。
ひぇぇ、強い!
「は?」
若旦那は対応出来ていない。
現状が把握できないのは俺も同じだけど!
対応出来たのはアグーラさんとイレーナさんだけ。
「「ユレーナ!?」」
どこかで聞き覚えが…
あっ!イレーナさんの妹だ!
髪の長さが違うから一瞬分からなかったけど、よく見ると顔そっくりじゃん!胸も!
魔物討伐に行ってたんじゃなかったっけ?
あぁ帰ってきたんだ。
でも本当に強いな、ハンター。
確かCランクって話だったと思うけど、こんな強いなら更に上のランクの人ってどれだけ強いの…
「イレーナさんの妹か…ちっ、今日は日が悪かったか。爺さん覚えてろ!」
そう捨て台詞を吐いて、倒れている男を蹴飛ばす。
「いつまで寝てる!さっさと帰るぞ!」
男は慌てて起き上がり若旦那の後に続いて店を出て行く。
ちらっとこっちを見て軽く会釈した気がした。
あの人、絶対根はいい人だろ…
そんな事より今はユレーナさんだ。
「ユレーナ!いつ帰ってきてたの!」
「いつも何も今だよ。それよりこの爺さんどこで拾ってきたの?いつの間に家族??」
おふ、言い方が若干ひどい。
まぁ拾ってもらったようなものだから反論はしない。
それに家族っていうのは言い過ぎじゃないかな。
さっきはアグーラさんが場のノリで言ってくれたみたいだけど。
庭師、的な扱いかな?
ひとまず落ち着いて話をしようとなったので、今日は店をしめてダイニングでお茶を飲みながら話をする事になった。
これまでのいきさつを話しつつユレーナさんは俺をチラチラ見てくる。
何だろう?もしかして俺に惚れ…るわけはないな、おじいさんだから。
話が一区切りしたところで、俺もアグーラさんに気になったことを聞いてみる。
「あの若旦那が言っていたポーションの質が上がってるっていうのはご存知だったのですか?」
「ああ、あの事か。はい、気付いていました。ヨウさんの作る生薬?でしたか、ここ最近精製すると淡く光るようになったのです。もっともすぐに光はなくなるのでもっと確信をもってから確認を、と思ってはいたのですが…」
「淡く光るというのは魔法使うときみたいに?」
「え?魔法を使うところを見たことがないので同じかどうかは分かりませんが…魔法ポーションは淡く光っていますね」
うっ、いかん、墓穴を掘ったか?
バレていませんように!
でも魔法ポーションも光るってことはおそらくマナを含んでいるからだろう。
となると俺の作った生薬もマナを含んでいることになる。
おかしい。
さっきも考えたが俺は特に何もしていない。
土づくり、腐葉土、天日干し、乾燥、ぐらいかな、やったことと言えば。
どれも誰でも出来ることだし、むしろポーション屋なら当たり前と言ってもいいだろう。
…あ!いやもう一つやったな。
「土を持ってきた」か。
そう、俺やシルから出てるマナに当たり続けている土だ、マナを含んでいても不思議ではない。
薬草たちはその土からマナを吸い上げたんだ。
なんて凄いんだ俺の薬草たち!
そう思い至った直後、衝撃の一言がユレーナさんから発せられた。
「爺さん、魔法使えるだろ」
カキーン!
空気が凍るってこういう事を言うんだね。
もう見事にユレーナさん以外固まった。
魔法は禁止されている。
魔法を使えば罰せられる。
魔法は犯罪。
全ては世界樹を守るため。
100年以上も前に定められた世界のルールだ。
だから魔法使いは存在しない。
それなのに。
目の前にいる老人が魔法使い疑惑。
アグーラさんとイレーナさんの顔だけが、ギギギっと効果音が聞こえてくるぐらい不自然に俺を見る。
ああ、これ終わったな。
警察に突き出されるやつや。
警察があるか分からないけど、似た組織は必ず存在するだろう。
黙って俯くしかない俺は、覚悟を決める。
せめて言い訳ぐらいは聞いて欲しい。
「すみません、隠し通す自信はあったのですが…でもこの家で魔法は使っていません。薬草たちにも。幸か不幸かマナが混入したようです。申し訳ありません。」
ここでペコリとお辞儀をひとつ。
息を吸い込み、さらに続ける。
「魔法は私自身から出るマナを使うので、世界樹に影響はありません。私は世界樹を再生する使命がありますので、ここで捕まるわけにはいかないのです。どうか見逃してください!」
言うやいなや家の中を突っ切り、店を飛び出す。
目が潤んで前がよく見えないが、ここ最近毎日通った道だ。体が覚えている。
この体じゃ走ってもせいぜいが早歩き程度だけど、それでもゆっくり歩くなんてできない。
一気に街の外まで出た。
息切れがひどい。きっと顔もひどいことになっているだろう。
父親とケンカして家を飛び出した時よりも心がつらい。
どうしてこうなった?
なにがいけなかった?
どこで失敗した?
こんな事になるなら街になんか行かなきゃよかった。
シルとふたりで頑張れば、いまごろもっと世界樹再生に近づけていたかもしれない。
一度だけもう来ることがないであろう街を振り返り、木陰へと移動する。
…
だめだ、うまくマナを感じ取れない。
帰還魔法が使えないや。
木の根本に座り込みぼーっとする。
「まぁこんなもんだよね、俺じゃ」
「何がこんなもんなんだ、爺さん?」
うおっ!独り言に返事が!
焦って振り向くとそこにはイレーナさんが…違ったユレーナさんがいた。
「急に出て行くからびっくりしたよ。そういうつもりで言ったんじゃ無かったんだ、悪かった。」
え?え?なにが?どゆこと?
「私は小さい頃から少しだけマナを感じ取る事ができるんだ。それで爺さんからマナの気配がしたから確認したかっただけなんだ。まぁあの二人はマジでビックリしてたけどな!ハハッ」
カマ掛けたっこと!?
笑い事じゃないし!
イレーナさんと性格が違いすぎる!
なんて人だ!
さっきまでの暗い感じどうするの!
「それで?爺さん、どのくらい魔法使えるの?」
「はぁ…たぶん全部使えます」
「え?」
「あ、正確には大魔法は使えません。自分産マナだけでは足りないので」
「え?」
「え?」
二人を沈黙が包み込む。
前にもこんな事があった気がする。
双子ダナー。
「いやいや、全部っておかしいだろ?え?爺さんぼけてるの?」
「いいえ?この際言いますけど俺ホントは16歳ですよ。転魂とか言う魔法でこの世界のヨークラムっていう神だか大賢者だかのこの体の持ち主と魂を入れ替えました。」
再び沈黙が…ってもういいか。
さすがに展開の早さについて来れないようだ。
「よ、ヨークラムってカバリアの英雄?まだ生きていたのか!?」
「あ、よく知っていますね。そのヨークラムさんですよ、この体。」
ユレーナさんがプルプルしている。
おしっこでも我慢しているのだろうか。
いかん、下ネタはいかんぞ。
ユレーナさんのせいというか、お陰というか、落ち着けたのでマナのコントロールも大丈夫そうだ。
「もういいですか?俺は帰ります。もう会うことはないでしょう。アグーラさんとイレーナさんにお世話になりましたとお伝えください。」
ペコリとお辞儀して距離を取る。
さすがに目の前で魔法を使うわけにはいかないので別の木陰を目指す。
「待て待て!私も行く!今から魔法を使うんだろ?頼むから私も連れて行ってくれ!!」
ぐあっ!
いきなり後ろから抱きつかれた!
あ、当たってますよ、ユレーナさん…
しゅ、集中力が途切れる。
お、重い。
「あ、今失礼な事考えただろ!許してやるから私を連れていけ!」
なんて横暴な人だ!
こんな綺麗なのに態度が悪すぎる。
もうヤケクソになってやる。
練習したから二人くらいなら跳べるし!
「分かりましたよ!連れて行けばいいんでしょ!?いきますよ、リターン!」
二人の姿がその場からかき消える…
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