1章-3
一通りの魔法の使い方を教わったらすっかり夜になっていたみたいだ。
ヨークラムさんが言ってたけど、家事全般は本当にシルが全部してくれた。
異世界メシはおいしかった、すごく。
野菜とキノコのはいったスープだけだったけど、体の芯からあったまった。
お風呂は無いみたい、というかこの世界にお風呂という概念がないっぽい。
フランスみたいな感じかな?香水で匂いをごまかすっていう。想像だけど。
取りあえず今日は覚えたての生活魔法でタオルをぬらして体を拭いた。
魔法チョー便利。
これ禁止されたら今まで魔法使ってた人は怒っただろうな、きっと。戦争起きたかもな。今度シルに聞いてみよう、世界樹が枯れたのと何か関係あるかもしれないし。
「ヨウ、明日はどうするの?街に行ってみる?」
「そうだね、生きた情報も必要だし行ってみようかな。でも午前中はシルに話しを聞きたい、世界樹のことについて。」
「あ、そっか。肝心の世界樹についてまだ話せてなかったね。オッケー、じゃあ明日は午前中は世界樹講義で、午後は街に顔を出しに行きましょ!」
そうして明日の予定が決まり、熱いお茶をすする。あーおいしい。
なんだか好みまで70歳の体に引っ張られてる気がする。
早く若返りたいなー。
16歳の体が懐かしくなってきた。
悲しくならないうちに寝よう。
次の日、朝から俺はみっちり世界樹について教え込まれた。
どうやら世界樹はこの世界のいろんな場所に生えているらしい。
その場所については地理、そして歴史も分からないと把握出来ないため、そちらの勉強も並行しておこなった。
それでわかったこと。
ここはアルスランド王国という国で、王都に世界樹がある。その他にもカバリア王国、サンミュルム皇国、タリル帝国にそれぞれ一本、聖樹教国に2本存在しており、聖樹教国首都の1本を除き、ほぼ同じくらい枯れているらしい。あと、この世界には大小30程の国があるという。
数十年に一度の間隔で新しい場所に世界樹らしき木が生えたらしいが、その若木を求めて戦争が起こり、勝者が持ち帰った若木は全て枯れてしまったようだ。
各国は世界樹の再生を目指しつつ、マナを消費しないよう世界規模で魔法禁止令がしかれた。
そして魔法ではなく、魔石を使用した魔導具が開発され、一般に普及しているという。
魔法が禁止されて、よく戦争や反乱に直結しなかったなと素直に思う。平和に慣れた俺にとっては安心できる歴史の1コマだった。
思っていたより勉強が長引き、少し遅めの昼食をとった後、いよいよ街に出ることにした。
「今日はヨウにこの世界に慣れしてほしいからあたしは幻影魔法で姿を消しておくけど、ちゃんと隣にいるし会話もできるから安心してね。あ、でも人前であたしと話すと独り言を言う怪しいジジイになるから気をつけてね!」
安心させようとしているのか不安にさせようとしているのかどっちだ!
そもそも知らない街で独りで彷徨く老人は徘徊老人といって通報案件ではないだろうか。
キョロキョロしちゃいそうだから、おのぼりさん扱いされればいいんだけど…不安だ。
とにかく今日は街に出て、この世界に慣れることが目標である。
できれば食料も買っておきたい。
ほんとは植物探索したいけど、魔物への対抗手段が無い今、冒険は自重するべきだよね。
そして家を一歩でた瞬間、わかってはいたがそこには異世界が広がっていた…
「ふおぉぉぉっ、なにあの木!?あの下草はセンマイ?いやいやここは異世界!でも見た目は完全にシダ植物!たまらないぃぃ!!」
「ひぃぃぃ、ヨウが壊れたぁぁぁ!!」
「こうしちゃいられない!早速観察しなきゃ!」
と足を踏み出すがすすまない。
あれ?
「ちょっと焦ったじゃない!どこ行くのよ!家から離れて魔物に襲われても知らないわよ!」
あぁ、シルが止めてたのか…
しかしこの衝動どうしたらいいの!?魔物に襲われるなんて恐ろしすぎるよ?よし、天秤にかけてみて…
うん、ちょっとだけ命の方が重かった。
「ごめん、少し落ち着いた。植物見るとどうもテンションあがっちゃって…てへぺろ」
「舌だしてふざけないでくれる?本気で焦ったんだから!いい!?今日は真っ直ぐ街に行くの。わかった?」
シルさん目が、目が光っててとても恐いです…
ちぇっ、まぁ仕方ないかな。魔物と戦うなんて考えられないし、命をかけて探索するのもね。
ここは大人しく言うことをきいておこう。
「よし、それじゃあ街に行こうか」
と、断腸の思いで街へ向けて歩き出したものの、体感30分もせずに足取りが重くなる。
70歳の体、恐るべし。
家から街道っぽい広い道に出るのに、休み休みしたとは言え1時間くらいかかった。
道端の草を観察したい衝動も抑えた。
それでもこんなに時間がかかるとは…
息も絶え絶えになりながら姿の見えないシルに愚痴ってみる。
「シル、なんで、こんな、遠い、所に、家、建てたの…」
「お師匠様は人とあまり交わりたくなかったから、街から少しでも離れたかったのよ。とはいえなんでも自給自足できるわけじゃないから、買い出しに行ける距離じゃなきゃだめだしね。まぁ家には幻影魔法が掛かってるからそもそも誰かが来ることはないし、結界魔法も張ってあるから魔物に襲われることもないわ。」
おおー、あの家そんな魔法が掛かってたんだ。
だから家から離れたら危ないって言ってたのか。やるなぁヨークラム様、さすが大賢者。
取りあえず家の中は安全地帯ということが判明して安心できた。
問題はこの体の体力の無さと、街までの距離かな。もうかなりつらい。
実は話の途中から道端の岩に腰掛けているが疲れが全然取れない。
「確かあと2時間くらいかかるんだよね?このペースだと倍はかかるよ?日が暮れちゃうよ?ヨークラム様はどうやってこの道を往復してたの?」
この先の道のりに絶望しかけてそう聞いてみる。
「あら、お師匠様は家から出てないわよ?ずっと魔晶石にマナを貯めてたから出れなかったって言った方がいいかしら?まぁ帰還魔法があるからどこ行ってもすぐに帰ってこれるけど。だから本当に必要なときはあたしが人化魔法で人になって買い出しに行ってたわ。あたしだと色々オマケしてもらえるしね♪」
あー、シルはナイスバディだから、きっと人の姿でもそのままなんだろうな。
柔らかかったn…がふっ
「いまエッチなこと考えたでしょ!顔で分かるのよ!ジジイのくせに色ぼけしちゃって!」
誤解だ!頭はたかれるような想像はしてない!
したかな?うん、ちょっとはした。ごめんなさい。でも誤解だよ!俺は16歳なんだ!そういうことに敏感な年頃なんだよ!分かってくれよ!
見た目に騙されないで!
「と、とにかく早く行かなきゃ日が暮れちゃうけど、この体じゃ厳しいよ。」
「まったく…じゃあ昨日教えた疲労回復の魔法を使ってもいいわ。何回も言うけど人前ではぜぇったい使っちゃだめだからね!」
そう言えば昨日そんな魔法も教えてもらったな。詰め込み教育の悪いところだね、もう忘れてたよ!あ、でも年のせいかな?
うん、きっとそうだね。
「エナジーヒール!」
パァァァと淡い光に包まれさっきまでの疲労感がスッと消えていった。
すげー、やっぱりすげー!魔法!
昨日練習したときはそんなに疲れてなかったんだな、こんなに実感なかったし。
しかし魔法使うとマナが光るんだよね、俺の場合自分自身が。こりゃばれるわ。ほんとに人前では使わないようにしないと魔法禁止されたこの世界では即通報だろう。罰則が何かは知らないけど。
それから疲れるたびにエナジーヒールを唱えながら(ちゃんと周りに人がいないことは確認した)順調に街への道を進んでいく。
自分産マナがあるのって素晴らしい!
結局1時間ちょっとで街の入口が見えてきた。
わりとこじんまりした街なのかな?街が見える距離なのに人通りがほとんどない。
まぁおかげで魔法使いながら来れたんだけどね。
さぁ初めての異世界街だ!
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