1章-2
ぱちり。
熟睡したあとのすごくいい目覚めのように目がぱっちり覚めた。
すごく気分がいい。
別に不眠症だった訳じゃないけど、ここまで気持ちのいい目覚めはそうそうない気がする。
そして見慣れないこの光景…
家の中なのは分かるけど、電化製品にあふれた元の世界との違いに素直に驚く。
基本木製だ。
なんと気持ちのよい事だろう。
今座っているこの椅子も年季が入っていそうなのにスベスベで座り心地がとてもいい。
そうして椅子をスベスベしていたら目の前をチョウチョが…チョウチョ??
「気がついた?もうお師匠様じゃなくなってるよね?自分のこと、今の状況わかる?」
「チョウチョがしゃべったぁぁぁあ!」
絶叫した直後にスパーンと頭をはたかれた。
あれ?体のサイズのわりに衝撃でかくない?普通に痛いよ?チョウチョなのに?
「痛いです…」
「そりゃ魔法使ってるからね~、ってあたしはチョウチョじゃない!精霊よ、精霊。風の精霊シルフィーユ!ヨークラム様の弟子よ!」
なるほど、魔法が使える世界だったね。オーケーもう大丈夫、ファンタジーだと思えば魔法、精霊なんでもこいだ。あとはきっとスキルがあったりドラゴンがいたり魔王と勇者とかね。
にしても目の前のチョウチョだと思っていたのが精霊とは。確かによく見ると羽がチョウチョっぽいだけで体は女の子だ。女の子?いや子っていうかこの体型はなんというかグラマーで大人の女性?これは確かめねば…
ぷにっ
「あんっ、ってどこ触ってんのよぉぉっっ!!」
どんがらがっしゃーん!
さっきの数倍の威力で俺は吹き飛ばされた。後悔はしていない、本物だった。
しかしこの威力は死ねる、魔法恐るべし。
でもちょっと待てよ?世界樹が枯れかけてるから魔法使うためのマナが足りないんじゃなかったっけ??
「ごめんなさい!つい素敵だったので…でも魔法、使えるんですね。マナが足りてないと聞いていたんですが…」
「あら、ちゃんと状況分かってるじゃない。ヨークラム様もしっかり伝えてくれてさすがね。そうよ、今は世界樹が枯れかけてるからマナは枯渇しているわ。でもあたしは別ね、高位の精霊だから。」
「精霊に高位とかあるんですか?」
「もちろんあるわ。精霊族は一番下から、精、妖精、妖霊、精霊、精獣の順ね。それぞれのランクにも低位から高位まであるから結構序列にうるさかったりするのよ。」
なるほど、わりと細かく分かれてるんだ。
さっきは精霊って言ってたから上から二つ目か、かなりえらい方っぽいな。
あまり調子に乗らない方がいいかもしれない。
「そうなんですね。それでシルフィーユさん、どうして精霊だと今のマナ不足の状況で魔法が使えるんです?」
「それは、あたしがマナを放出する側だからよ。ちなみにあなたも放出する側だったりするわ。あなたの体はちょっと特殊だから普通の人間とは違うのよ。あ、これ内緒だから他の人に言ったりしちゃだめだからね。」
衝撃的事実!
マナを出すのは世界樹だけじゃなかった!
精霊からマナが出てるのもびっくりだけど、まさか自分からも出ているとは…あれ待てよ?
「内緒なのはわかりましたが、俺からもマナ出てるんですか?ヨークラムさんはマナ不足だから若返りの魔法は使えないって言ってましたけど」
「生活魔法くらいなら自分から出るマナでなんとかなるわ。普通の人はそうはいかないから世界中で生活魔法すら禁止されている状況ね。ちなみに若返りの魔法は大量のマナを消費するから、さすがにあたしやあなたから出る微量のマナじゃ賄えないわ。大魔法はそこにあるみたいな魔晶石に少しずつマナを貯めてから使うのよ。」
そう言って彼女は部屋の隅に置いてある人の身長ほどもある水晶を指差した。
これはかなりでかい。
色はクリスタルみたいな半透明っぽいけど、黒い。ただ黒いっていうより漆黒っていえるくらい黒い。近づいて触ってみるが質感はクリスタルそのものみたいだ。ちなみに重そうだから持ち上げようとは思わない。
「今は黒いでしょ?それはヨークラム様が転魂薬を作るために魔晶石のマナを使い切って空っぽだから。逆にマナが貯まるとだんだん白っぽくなって、完全に真っ白になると満タンってわけね。」
うん、わかりやすい。
ということはこの魔晶石にマナを貯めれば若返りの魔法が使えるから、当面はそのマナ貯金をめざせばいいかな?世界樹を蘇らせるにしてもいつまでもおじいちゃんじゃ嫌だからね。
「魔晶石にマナを貯めるにはどうすればいいんです?」
「そうね、自分から出てるマナだけでこの魔晶石に貯めるとなると、ざっと300年はかかるわね。お師匠様がそうだったから。」
さ、さ、300年!?
ヨークラムさん一体何歳だったんだ…
「他にも貯め方はあるわよ、魔物を倒して魔石を手に入れてこの魔晶石に押し付ける。あとはこの魔晶石の近くで別の魔晶石を割るとか、ね。」
うへー、やっぱりいるのか、魔物。
そりゃファンタジーの定番だもんな、魔法、魔石、魔物。
俺産マナだけで貯めるのは事実上不可能だから魔物倒すしかないな。
でも魔物倒すのに魔法が必要で、魔法使うのにマナが必要で、マナを使うために魔物の魔石が必要で…
「魔物ってどうやって倒すんですか?あと魔晶石はどこにありますか?」
「あなたせっかちねー。その前にいい加減あなたの名前教えてもらえる?」
しまった、まだ名乗ってなかった。
これはポイント下がるやつだな、何のポイントかは知らないけど。
世渡り上手が聞いて呆れるね。
「すみません、小倉洋といいます。これから宜しくお願いします。」
「そう、ヨウね!面倒だからあたしに敬語はいらないわ、一応あたしは弟子って立場だし、シルって呼んで。
それでなんだったかしら。
そうそう、魔物の倒し方ね。ハンターなら単純に武器でってなるけど、ヨウの場合は罠で動けなくして魔法で倒すのが一番簡単だと思うわ。初歩的な魔法なら今のマナ濃度でもヨウなら使えるはずよ。ただし!さっきも言ったけど人前で魔法は使っちゃだめよ」
ハンターか…たぶんよくある冒険者みたいな感じだな、きっとギルドとかもあるんだ。
でもまぁ罠ならなんとかなるかな、ツタを使った罠なら遊び半分で作ったことあるし。実際に使った訳じゃないから有効かどうかはあやしいけど。うん、残念だけど植物探索は後回しだ。若返りが先。
「じゃあ初歩的な魔法とか生活魔法の使い方を教わった方がいいですよね?あ、いいかな?教えてくれる?」
「オッケー!ヨークラム様の体だからすぐに使えるわ。魔晶石についてはまた今度ね。そうそう手に入るものじゃないから当面気にしなくて大丈夫よ。」
それから俺は辺りが暗くなるまでシルに魔法の使い方を教わった。
やっぱりというかなんというかシルはスパルタだった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます