1章-1

周りは真っ白、何もない。

いや何も見えない?いや、やっぱり何もない。さっきまであった地面も木も空もない。

地に足が着かないとはこんなにも不安になるものなのかと初めて思う。

こういうのは聞いたことがある、死後の世界というやつだ。

と、いうことは…


「俺、あのまま死んじゃったのか?」


珍しいキノコ欲しさに目がくらみ父さんひとりを残して死んでしまった自分が情けない…

明日から学校で、2学期こそ彼女を作ると心に決めていたのに叶わずじまいだ。



『いやいや、君死んでないよ』


激しく落ち込んだ時に聞こえたその声に驚いたが、死後の世界といえば神様の登場だ。きっと神様が慰めてくれているんだろう。


「いいんですよ、やり残したことはいっぱいあるけど、死には抗えない?そうでしょ?」


『君、達観してるけど、ホントに死んでないからね?足あるでしょ?』


言われてあわてて確認すると、確かにある。

が、別に足があるから死んでないとは言い切れないんじゃないか?と思う。


新種の植物を発見するのが夢だった俺は少し疑り深い。見たことのない植物を見つけたとき、本当に見たことないか?近種はなんだ?それとは違うのか?どう違う?など考え込んで小一時間は自問自答する事が可能なくらいだ。


それにしても今の状況が飲み込めない。

そもそも…


「この声、しゃべっているの誰ですか?」


周りは真っ白で何もないが声だけは聞こえてくる。しわがれたおじいちゃんの声っぽい。


『ようやくまともにしゃべれるようになったかの?ワシはヨークラム、全ての魔法を習得した大賢者じゃ。』


「魔法?」


うわー残念な人だ…いや神様か。

ってゆーか神様なのに大賢者とかどうゆうこと??神様は神様で全知全能で崇められてエッヘンな尊き御方じゃないの???

頭の中でグルグル疑問が渦巻く。


『うむ、すっかり混乱しとるようじゃの。まだ時間があるようじゃし、説明してやるとするかの。』


なんだかエラそうな態度に一瞬イラッとしつつ状況が分からないのは事実なので、さっさと説明していただくことにする。


「すみません、お願いします。」


相手は神様っぽいしね、一応下手にでておこう。

世渡りは上手な方だ、と思う。


『まずは自己紹介じゃな、ワシの名はヨークラムという。』


「知ってます」


『………』


「ごめんなさい、続けてください。あ、ちなみに俺は小倉洋といいます」


世渡り上手ではないかもしれないと思い直して、自分の名前も伝えておく。

お互い名前知っておかないと不便だろうから。

その辺を分かっているあたりやっぱり俺って世渡り上手なんじゃ…と考え出したところでヨークラムさんがまた話し出す。


『ウォッホン!では続けるぞ。ここは魂の回廊と言われておる。じゃから今ここにいるワシとお主は魂の存在ということじゃな。』


……

………


「うそつき!さっきは死んでないって言ったくせに!!うわーーマジ死んだかーーー」


絶望である。

上げて落とされるとはまさにこの事か。

できれば体験したくなかったが何事も経験だという父さんの格言は真理かもしれない。


『いちいち話しの腰を折るでない!死んでないと言ったじゃろうが!いい加減話を聞かんと怒るぞ!』


怒気をはらみだしたその声にビビった訳ではない。ないが…


「ごめんなさい!すみません!ちゃんと話を聞きます!」


ピッと姿勢を正して聞く態勢をとる。

なにせ俺は世渡り上手。

相手を怒らせるのはよくない。

下手に下手に。


『はぁはぁ…。よいか、この魂の回廊は、魂を入れ替える為の通り道みたいなものじゃ。つまり、ワシとお主の魂を入れ替えるためのな。』


このじじい声、さらっととんでもないこと言いやがった…

魂を入れ替える??そんな事できるの??いやいやそこじゃない、俺とじじいの魂入れ替えちゃったら俺どうなるの?俺がじじいっぽいのになる??えっ?いやなんですけど!!


「お断りします」


『だが断る』


「はーーーーっ!?」


『いや、もう繋がっちゃっとるでしょ、ワシとお主。じゃからそこは諦めて話しの続きしてもいいかの?』


なんということでしょう!

決定事項とか…人生終了のお知らせだよ!

死んだ母さんに顔向けできないよ!

父さんよりも年上になっちゃうよ!


「はぁぁぁぁあ、続きをどうぞ」


盛大に溜め息をついたら気持ちが落ち着いてきた。諦めの境地かもしれない。

16歳にして悟りを開いた気分だね。


『さっきと比べるとえらい落ち着き様じゃな。まぁいいわぃ。なぜワシとお主の魂を入れ替えるかと言うとじゃな、ワシの世界にお主の知識が必要だからじゃ。』


「知識??」


『左様。お主植物に詳しかろう?実はワシの世界には世界樹という樹が何本かあるんじゃが、これが全部枯れようとしている。世界樹は魔法や生活に必要なマナを放出するから、枯れてしまってはワシ等は生きてゆけん。』


なんということでしょう!(2回目)

枯れそうな木があって、俺の知識で蘇らせる…その木は俺の知らない世界樹ときた!

これは天の導きに違いない!

知らない植物ほど興奮するものはない!

鼻血が出そうだ!


「やります!やります!世界樹蘇らせます!」


『お主、植物の話になると食いつきがハンパないのぅ…まぁその気になってくれたのならありがたい。お主はワシに、ワシはお主になるということじゃがかまわんのじゃな?』


ヨークラムさんが聞いてくるが、1つ気になっていた事を聞いておく。


「ちなみにヨークラム様は何歳ですか?体がヨボヨボだと困るのですが…」


『当然の疑問じゃな。ワシの体はおそらく70歳くらいじゃろう。もともと老化しにくい体じゃし、若返りの魔法も使っておるから正確な年なんぞそもそも分からんわ。カッカッカ!』


70歳がヨボヨボの範疇だと思うのは俺だけか?

いやいや、70歳って!

ウチの爺ちゃんより…は若いか。

爺ちゃん元気だからなー、今も元気にしてるかなー、顔見せなきゃまた突然押し掛けてきそうだしなー、って今は爺ちゃんは置いとこう。

というかまた気になるワードあったよね?


「若返りの魔法、使えるんですか?」


『全ての魔法を習得したと言うたじゃろう。使えるぞい。ただし魔法を使うためのマナが足りんのじゃ、世界樹が枯れそうじゃからな。まぁマナの補充に関しては別の方法があるが、これは追々じゃな。』


70歳の体になったとしても若返りの魔法がある、ただし現状マナが足りず魔法が使えない、とこういう事か。あれ?なんだかニワトリが先か卵が先かみたいな感じ?でもマナについては他に方法があるみたいだから大丈夫なのかな。それより現在の体について確かめておく必要があるな。


「一応聞いておきますが、今元気なんですよね?持病とかありますか?」


『ないの、いたって健康じゃ。弟子もおるから家事全般はまかせてよいぞ。さっき言ったマナの補充についても後で弟子に聞くといい。』


良かった、入れ替わったとたん肺炎でした、腰痛で動けません、とかだったら孤独死一直線だもんね。弟子もいるっていってたし一安心だね。

こっちの疑問はそれくらい?細かいことはお弟子さんに聞けばいいかな。あとは…


「分かりました、取りあえず俺がおじいちゃんになって世界樹を元気にすればいいってことですね?」


『まぁざっくり言うとそういうことじゃ。物わかりがいいの。』


物分かりが良いというのだろうか?細かいことは考えても無駄な状況だからノリで決めちゃったみたいなところあるな…でも世界樹見たいし!異世界だったら知らない植物ありまくりだし!もうよだれでちゃうし!

でも最後に1つだけ確認しなきゃ。


「俺の体はどうなるの?」


『ワシが使う。(そもそも甘酸っぱい青春ライフに憧れて転魂を目指したのじゃからな)』


「いま何か邪な事考えませんでした?」


『考えておらんよ』(キリッ)


「う、嘘臭い…でも俺の体なんですから変なことしないで下さいよ?俺の世界、法律とか厳しいし学校にも規則あるし」


『問題ない、ワシは大賢者じゃからな!じゃあもういいかの?よっこらせ』


パァァァ

目の前が一瞬まぶしくなって目を閉じた。

少しして光は収まったみたいで恐る恐る目を開けてみると、目の前に一枚の紙がふよふよ浮いている。なんてファンタジー!


「これは?」


『契約書じゃ。ちゃんと同意の上の魂の入れ替えという証じゃな。さすがにそれがないとワシもいざという時(ワシの)身を守れんからの。(キリッ)

じゃそこに手形をバーンと押してくれるか?』


わりとちゃんとした手続き踏むんだなーと考えつつバーンと手形を押した。

押してしまった。

すぐに契約書が光の塊となって消えていく。


ちょっと待て。俺契約書の内容読んだか?いや読んでない。流されてそのまま手形バーンて…


「あの、手形押してからなんなんですが、さっきの契約書もいっかい出してもらえませんか?よく読んでなかったので。」


『いかん、もう時間がないようじゃ!ではな、少年!いや洋君!ワシはおなごと宜しくやるから君も頑張るんじゃぞ!』


盛大にごまかしやがった!おなご!?

っていうか俺の体光り出した!

しかもなんか体が引っ張られてる気がする!

なんであっさり信じちゃったの俺!

いったいどんな契約だったのーーー!?

めっちゃ気になるーーーーーーーー!!!


そんな事を絶叫しながら意識が遠のいていく…

 


『悪いようにはせんよ、主神にバレないようにしないといかんからの…』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る