序章2

植物図鑑を片手に山を歩く少年がいる。

一人だ。

別に友だちがいないわけではない、ただ植物が好きで友だちといる時間よりも、こうしてまだ見ぬ植物を探している方が純粋に楽しめただけのことである。

一人っ子だが親とも仲がよく(と言っても母は3年前に病気で他界したが)寂しさはない。


今年高校に入学し、今日は夏休み最終日。

高校最初の夏休みだからキャッキャッウフフなことがあるかもと淡い期待をしたが、フツメン植物オタクな彼には特に何も起こらず今の植物散策に至る。


「まぁ、楽しいからいいんだけど!」


わざわざ声に出して自分に言い聞かせるあたり残念な感じがするが、高校生である。

普通だ。

実際、植物散策は楽しく心踊る。

おいしいものは持ち帰って父と二人で食べることも楽しみのひとつだ。

もはやライフワークであった。


「ん?あれなんだ?見たことないぞ?」

彼がみつけたのは淡く光るキノコのように見える何か、いやキノコか。


なにかに導かれるように取りに行こうとするが、生えているのは道からはずれた勾配のある斜面の木の根本。

一瞬躊躇したがやはり知識欲がうずく。



大丈夫、一歩一歩注意していけば。

すぐそこにあるのだから。



少年は自分に言い聞かせるように心の中でそう思い、一歩を踏み出す。


が、滑った。


落ち葉の上を歩くことの危険性は充分分かっていたはずなのに!

盛大に尻餅をついてそのまま落ちていくが目は光るキノコを捉えて離さない。

いい感じにキノコに近付くように滑落していっているのが分かり手を伸ばす。


「もうちょっと…こっ、あっ、とうっ!」


キノコに一番近付いたとき、限界まで手を伸ばし何とか手が届き、滑落の勢いのままもぎ取った。


「よっしっっ!」


と心の中でガッツポーズをした直後、キノコが光ったかと思うとあっという間に光が溢れ出し少年はその光に包まれていった。

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