第十五話 秘密は秘密だから秘密であって!


 バーベキューが始まると、母屋から自室にいた祖父と祖母も、庭へ顔を見せた。

「あ、こんばんは。おじゃましてます。上泉といいます」

「こんばんは、おじゃましてます。折原です」

 まるで隣に引っ越してきた若いカップルのような二人が挨拶をすると、政彦の祖父母は、ニコやかな挨拶を返してくれる。

「おお、何かニギヤカだと思ったら」

「まーくんのお友達ね。ようこそ」

「じーちゃんばーちゃん、こっち座ってー」

 政彦の母もやって来て、今夜はみんなでバーベキューである。

「親父さんは?」

「父ちゃん、今夜はかなり遅いと思うよー」

 政彦の父親は忙しい社長さんらしく、今夜も、海外の取引先との食事会だという。

「すごいんだねー。津村くんの家ってー」

「ここまでお坊ちゃんだとは、想像も出来なかったなー」

「フ…身分を隠すのも、エッルィートの嗜みなのサ…」

「あー まーくん色々とバレてるよー」

 気取り過ぎた口調を指摘する礼子だ。

 友達と家族でのバーベキューを楽しんで、颯太たちが片付けを担当。

「洗い物は、私たちがするからー」

「あー 上泉くん、まーくんの面倒 みてあげてねー」

「了解ー」

「ホワィ半人前?」

 学生たちが片付けを終えて、これからが本番である。


 みんなで政彦の部屋へ通されると、そこは広い和室だった。

 十二畳敷きの個室は、襖を潜ると天上も高く、まるで旅館のようである。

 部屋には、いわゆる勉強机などはなく、懐かしい感じの低い机が並んで置かれていた。

 ベッドはなく、押し入れに布団が畳んであるらしい。

「うわー、部屋 畳かー。すごいなー」

「ねー。旅館っぽいー♪」

「あー すごく綺麗だし、畳の匂いとか 落ち着くよねー」

 友達の絶賛に、政彦も少し、くすぐったそうだ。

「まあでも、逆にベッドとか置かせてもらえないから、りょっこの部屋のベッドとか、羨ましかったりもするんだけどなー」

「ベッドかー」

 颯太の部屋もベッドだけど、畳の香りと比べてしまうと、やはり羨ましく感じたり。

「ささ、適当に座ってけれ」

 部屋の真ん中に、大きなちゃぶ台と座布団が四枚、敷かれている。

「失礼しまーす」

「え、いま?」

 颯太のわかりづらいボケを素早く拾いつつ、政彦は座布団二枚で、いきなりゴロ寝。

 ちゃぶ台を挟んだ対面で位置する、颯太と政彦。

 颯太の隣の座布団に早苗が座り、政彦のゴロ寝によって座布団を占拠された涼子が、政彦の頭の上へと、着座姿勢。

「あー なんか座布団、硬いし高いしー」

「すみませーん、いま どきまーす」

 路上駐車を注意された運転手のように、政彦は転がった身を起こし直した。

 部屋の片隅の机には、勉強しているらしい空気は全く無し。

 並べられている同じ机には、デスクトップのパソコンが乗せられていて、そちらにはプリンターなども接続されていたりと、使用感が満載である。

「政彦、けっこう豪華にパソコン 揃えてるんだなー」

「じいちゃんのお下がりだけどな」

「えー、お父さんとかじゃなくてー?」

「うん じいちゃん」

「あー まーくんのお爺ちゃん、昔から新しい物好きだもんねー」

 去年、お爺さんがパソコンを買い替えたので、古いパソコンを政彦が譲り受けたらしい。

「って、まだ新型だろ それ。すごいなー」

「じいちゃんがほぼ毎年 買い替えてるからなー。オレも、ほぼ毎年、一年前のヤツに自動更新されてるなー」

 なかなか豪勢な話だ。

「あー だから毎年、まーくんのパソコンのメモリーには、まーくんが集めたHな写真が引き継がれて、増えてるんだよねー」

「へー」

「そうなんだー」

「なぜ知ってる?」

 余計な秘密がバレて、いらぬ恥を味わわされている政彦である。

 パソコンの後ろには、ブックスタンドに挟まれた本が数冊、見える。

 法律関係とか、税金関係とか、著作権関係とか。

「なんか 難しい本、並んでるんだなー」

「フ…知性を隠すのも–」

「あー カバーと中身は違うから」

「へー」

「そうなんだー」

「だからなぜに知っている?」

 颯太が、法律関係の書籍を取り出して表紙を捲ったら、中身はいわゆる青年コミック。

「おー 女子には見せられないエロマンガかー」

「本当だー」

 と、早苗も涼子も覗き込む。

「あー アタシもたまに 読んでるよー」

「色々と突っ込みた過ぎてっ!」

 クラスメイトの女子や幼馴染みの女子にエロマンガを見られる恥ずかしさで、政彦は顔が真っ赤である。

「たしか この作家さんって、普通に可愛いイラストとか、描いてるよな?」

 女の子が可愛いくて、背景も綺麗なエロマンガ。

 颯太の認識では。この女性作家はエロマンガだけでなく、一般企業のイメージポスターなども手掛ける、マンガ好きの間では有名な作家先生らしい。

「そーなんですよ颯太さん! オレはこの先生のイラストが好きでっ、個人的に応援してるからっ、だからこのエロマンガも買ってるんですよっ!」

 と、拳を振るって力説。

「あー 本が乗ってる机の引き出しとか、開けないであげてねー。違う先生のHな漫画が隠してあるから」

「へー」

「そうなんだー」

「秘密は秘密だから秘密であって!」

 泣きたい表情の政彦だ。

「ま、そんなどうでもいい情報より、政彦が用意するって言ってたゲーム やろうぜ」

「おうさっ!」

 話題が逸れて、嬉しそうな政彦が用意したのは、隣の部屋だった。

 襖を開けるともう一室あって、大きなテレビと、いくつものゲーム機本体が、ゴチャゴチャに接続してある。

 最新ハードの五代目から、超最初期のアンテナ端子接続器まで、市販のゲーム機はほぼ網羅されている感じだ。

「これも じいちゃんのお下がりサ!」

「長彦のお爺さん、マジで凄いな」

「私、全然 解らないー」

「フ…オレ様にお任せOKサっ!」

 様々なゲーム機とソフトの中から、政彦がオススメを選ぶ。

「まずはこのっ、天狗が暴れるシューティングっ!」

「えらくマニアックだなー」

「続いてこのっ、七つの傷を持つ拳法家のアクションゲームっ!」

「あー まーくん なんか好きだったよねー」

「更にはこのっ、女の子のお人形さんがアクションする横スクロールゲームっ!」

「私 知らないー」

 どれも最初期の家庭ゲーム機のゲームソフトばかりで、しかも。

「みんなネタゲーじゃないか」

「ネタゲーに知らぬ者なし!」

 いま早苗が知らないと言ったばかりだけど、ソコは気にしないらしい。

「まあ、俺もプレイしてみたいけど」

 というワケで四人は、暴れる天狗のゲームで、スコア勝負をする事になった。

 負けた人は、颯太たちが購入してきた激辛スナックを、口いっぱいに頬張る事と決定。

「颯太よ、まさかとは思うが…このオレに勝てるつもりか?」

「男に二言は無いぜ。っていうか、ハンデ背負って戦う方が、格好良くね?」

「あー たしかに そういう男子はポイント高いかも」

「オレ様は目を閉じて戦ってやるぜぇっ!」

「もうゲームプレイじゃないだろ それ」

 女子にはハンデの点数を上乗せして、四人が交代でプレイ。

 結果、トップは早苗で、二位は颯太、三位は涼子で、ドンジリは政彦。

「優勝した~」

「敗北しました~」

「俺も、政彦には勝てて良かった」

「あー アタシもー」

「って言うかみんな、ゲームに慣れるの早すぎだーっ!」

 と泣きながら、政彦は激辛スナックを、口いっぱいに放り込んだ。

「うげええっ、辛いいいいっ!」

 辛味成分が舌に張り付いて、涙が出そうな政彦。

「あー 可哀そうだから 付き合ってあげるよー」

 言いながら、涼子もスナック菓子を口に入れる。

「まー、じゃあしょーがないかー」

「じゃー私もー」

 結局、みんなで激辛スナックを頬張って、甘くないお菓子を一気に消費しきった。

「友ひょ…お前へたひのひゅうりょう…舌とこころにひみるれ…」

「って言うか、付き合ってくれた女子たちに感謝だよなー」

「「えへへ~♪」」


                      ~第十五話 終わり~

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