第十四話 これが大人ってもんだゼ!


 金曜日の放課後。

 学校の生徒たちはみんな、中間試験が終わった解放感に包まれていた。

 颯太と早苗、涼子と政彦も、例に漏れず。

「終わったゼ~~~っ!」

「あー 終わったねー」

「ね~、終わったね~」

「終わったなー」

 テストは月曜日と火曜日で、水曜日と木曜日は普通の授業で、金曜日の今日はテストの返却だった。

 しかも月曜日はカレンダーでも代休日であり、実質三連休。

 という週末でもあって、気分はいつも以上に開放的なのである。

「あー まーくんどうだった?」

「フ…誰に訊いてるんだ?」

 気取って答えるあたり、赤点は免れたらしい政彦だ。

「上泉くんはー?」

「まあまあかな。思った以上ではあったけど」

 颯太は割と上位に位置することが多く、早苗は中の中という平均が定位置。

「まあ、俺らの中で トップは篠田だろ?」

「あー その自信はあるかなー」

「フ…オレ様のおかげだゼ!」

「すまんマジで何の事かわからん」

 親友のボケが雑すぎて、乗れない颯太だ。

「あー それはそーと、まーくんどーだったー?」

 涼子が政彦に、確認の問いかけ。

「ああ、親の許可は取ってあるゼっ!」

「おー 凄いな」

「ホント津村くんー」

「バッチリだ!」

 片目閉じで、サムズアップな政彦である。

「それじゃあ、お菓子とか色々、こっちで買ってくよ」

「おーサンキュー親友よ! プリン買ってプリンー」

「きっとヌるくなるけど、絶対食べろよ」

「おうさっ!」

 実は先日、中間試験が終わったらなにかパーっと遊びたい。

 という話になって、四人は金曜日の夜、政彦の家へ集まる事となった。

「俺、政彦の家いくの初めてだけどさ。日本家屋なんだっけ?」

「まーなー。ひいお爺ちゃんが建てた家らしいけどなー」

 幼馴染の涼子曰く「マンガに出てきそうな庭付き壁有り日本家屋」だという。

 そして今夜は、庭の一角でバーベキューをする事になったのだ。

「政彦って、地味にお坊ちゃんだったんだなー」

「フ…この隠しきれない高貴な雰囲気…!」

「あー それは無いかなー」

「調子に乗りまして御座いました 涼子お嬢様」

 と、庶民な幼馴染みに頭を垂れる政彦だ。

「それじゃ、帰ったらすぐに政彦ん家、言っていい?」

「オーライオーライ! カムカムキャットだゼ!」

 とりあえず「ゼ!」にハマっているらしい政彦に突っ込む事もなく、四人は帰宅して着替える為にも、一旦解散となった。


 一時間ほど後、颯太は早苗と待ち合わせをして、駅前のスーパーで買い出しなどをしつつ、政彦の家へ。

「バーベキューの食材って、政彦の家で用意してくれるんだっけ」

「そーそー、有難いよねー。私たちは、食べたいお菓子とか買って行けばいいんだってー♪」

 颯太が両手にドリンク類の入った袋を下げて、早苗も軽いお菓子類の袋を抱え、向かったのは涼子の家。

「私、涼子ちゃんの家なら 知ってるからー」

「政彦ん家、隣だっけ?」

「だって聞いてるけどー」

 駅から住宅街へと歩いて来ると、やたら大きな一角にたどり着く。

「日本家屋なデカい塀だなー。ここが政彦の家かな?」

「みたいだねー。あっちが涼子ちゃん家ー」

 長い日本式の塀が終わると、一軒家が建っている。

 表札を見ると「篠田」と書かれていた。

「って事は、やっぱりこの塀が、政彦ん家かー」

 長い塀には出入口らしきものは見当たらず、颯太と早苗は、周囲を歩いて一周してみる。

「お、門がある」

 二回ほど角を曲がって、どうやら正門へ到着。

 瓦まで乗っている大きな木製の門は、太い柱の間が、分厚そうな扉で閉じられていた。

「まじで、立派な家だなー」

「ねー。なんか 映画の世界だよねー」

 木製の門は金属の枠で立派な造りで、扉だけでも、高さ二メートルを超えてそうだ。

 使い込まれた感じな程よい黒光りが、歴史を感じさせてもいた。

「あれだなー。政彦、本当にお坊ちゃんだったんだなー」

「親しみやすいのにねー」

 などと話しつつ、呼び鈴的なスイッチを探していたら、扉の横の小さな戸が開けられた。

「あー いらっしゃーい」

「あ、涼子ちゃ~ん」

「そんなところに 出入口があるんだ」

 そういえば、時代劇なんかでもこういう出入口から出入りしてたっけ。

 とか、颯太は思い出す。

「あー 早かったねー。さ、入ってー」

 幼馴染みであり、子供の頃から家族ぐるみの付き合いだから、涼子は母屋に向かって「早苗と上泉くん来たー」と声をかけて、二人を敷地内へと通してくれる。

 颯太も早苗も初めての家なので、涼子に頼んで、政彦の母親に挨拶をさせて貰った。

「お邪魔します。上泉といいます。お世話になります」

「折原です。うるさくしませんのでー」

「あらあら、にぎやかにしてくれていいのよ」

 と微笑む和服の母は、おしとやかで優しい雰囲気の女性だった。

 敷地内は広く、家というかお屋敷は、二階建ての日本家屋。

 時代劇などで庄屋さんとかお代官様とかが住んでいそうな、どこか懐かしい感じが、心に響く。

 庭も綺麗に手入れをされていて、松の木や池なども、綺麗に整えられていた。

 わりと感受性の豊かな颯太は、昼下がりな晴れた空と白い雲と、控えめだけど堂々とした日本家屋の風景に、魅入られてもいた。

「なんか…本当に綺麗な家だなー」

「ねー」

 颯太も早苗も、つい惚けてしまう。

「あー なんか早苗と上泉くん、住宅展示場に来た新婚さんみたいだねー」

「あははー そーかなー」

「こんな立派にな家とか、きっと落ち着かない俺は庶民派です」

 と、それぞれの感想である。

 三人が母屋の周りを廻って裏庭へ来ると、政彦がバーベキューの準備をしていた。

「おーよく来たな親友たちよ! 炭焼くまで時間かかるから、適当に地べたで座っててくれぃっ!」

「そしてそのまま、政彦の部屋で腰を下ろすのか」

「あー まーくんの部屋なら遠慮なく」

「お客様、どうぞこちらへ」

 と政彦に言われながら、デッキチェアへと案内をされた。

「こっちも、適当に用意するよー」

 テーブルの上に買い物袋を置いて、お菓子やドリンクを準備する。

 颯太が袋から出した商品を、早苗がテキパキと並べてゆく。

「おう友よ! プリンはプリン?」

「本気だとは思わなかったけどなー」

 一応、買ってきたけど、バーベキューが終わってデザートを食べる頃には、常温になってしまっているだろう。

「いいのか?」

「ふ…プリンは、今食うっ!」

「そりゃ ヌるくなるよりはマシだろうけどなー」

 政彦はバーベキューの炭の火具合をチェックしながら、まだ冷えているプリンを楽しみ始める。

「火を見ながら、その報酬を戴く…これが大人ってモンだゼ!」

「あー まーくんなかなか火が点かないっぽいけどー」

「えーなんでー?」

 バーベキューのコンロの中では、黒い炭が黒いままで、燃え尽きたマッチを傍らに、くすぶっている。

「着火剤なのにナゼに点かない?」

「着火剤しか入れてないのか。古新聞、あるか?」

「あ、私が貰ってくるよー」

 颯太が遠目で覗き込んで、早苗が母屋から古新聞を貰ってきて、二人で炭の下に敷いて、あらためて着火。

「お、点いた」

「やったねー」

 そんな二人の、息の合った感じを、涼子はニヤニヤしながら見ている。

 報酬のプリンだけ食べて着火には役立たなかった政彦。

「政彦 プリン美味いか?」

「ありがとうございます。颯太様 早苗様」

 などと弄られる幼馴染みを、涼子はニヤニヤしながら見ていた。


                        ~第十四話 終わり~

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