第十三話 停電ですヨ


 颯太と早苗も許へ、政彦と涼子がやってきて、みんなで暫くプールを楽しむ。

「あー 早苗、そんな特技があったんだー」

「まーねー♪」

 早苗の水中変顔に、親友が食いつく。

「あー アタシにも今度 見せてー」

「いーよー」

 幼馴染のマネをして、政彦も食いつく。

「アタシにも今度 見せてー」

「考えちゃうかな」

「閲覧の自由を保障セヨ!」

 政彦による自由への戦いは続く。

「俺 少し休憩ー」

「あ、私もー」

 二人してプールから上がろうとしたら、政彦が挑戦状を叩き付けて来た。

「フっ、軟弱者どもめっ! これしきのプールで音を上げおったわい!」

「あー アタシも喉 乾いちゃったー」

「裏切りのプールサイド!」

 四人はシートへと戻る。


「何か 買ってこようか?」

 男子二人が買い出しに出ようとしたら、女子たちが手を上げる。

「あ、私が買ってくるよー」

「あー ならあたしも、行こうかなー」

 ビキニの女子が買い出しに行ってくれるという。

「でもアレじゃん? 俺、勝負で負けて オゴりでしょ?」

 少なくとも、早苗に二階のオゴりが確定している。

「んーでもアレ、今度 学校の帰りとかでもいーよ。買い出しくらいは私たちで行くー」

「いいの?」

「まー、ズルして勝ったようなモノだからー」

「なんと自覚あり」

「まーねー♪」

 楽しそうな早苗である。

 女子たちに買い出しを任せて、男子二人はシートで留守番。

「颯太ー、日焼け止めオイル 塗ってー」

「了承の返事が貰えると ナゼ思った?」

「たとえ1パーセントの勝機しかなくとも、全てを掛けて戦うのが漢ってモンだゼ!」

「足の裏でいいなら 塗ってやらんこともなくもない」

「おお斬新んっ!」

 お互い、なんとなく引いたら負けみたいな空気なので、颯太は渋々オイルを塗る事になってしまった。

 颯太がオイルの瓶を手に取ると、政彦は無駄にセクシーな感じでうつ伏せになる。

「ブラ紐はもうないわよ?」

「あったら頭を踏んづけてるなー」

 とかバカな会話をしつつ、颯太は政彦の右足首をムンズと掴んで、その足の裏にオイルを垂らして、プロレス技の如く足の裏を背中へと曲げた。

「あ痛たたたたたたたっ! 脚がっ、ヘシ折れるぅ~っ!」

「足の裏でいいと言っただろうが」

「まさかっ、オレ様のっ、足の裏っ、とはあああああっ!」

 男子二人がプロレスみたいな事をしていると、女子二人が帰ってきた。

「お待たせしました~。氷メロンのお客様~」

「あー まーくんたち、珍しいオイルの塗り方してるねー」

 早苗は氷メロンと氷イチゴをカップで手にして、涼子はコーラとアイスティーを手にしている。

「えー、津村くんって変わった塗り方 するんだねー」

「なー、俺もついさっき 初めて知ったんだ」

「あー 幼馴染のあたしも、いま初めて知ったよー」

「驚愕の真実っ!」

 あくまで負けずに乗っかる政彦だった。

「はい、氷メロ–ひやっ!」

 颯太の聴聞を手渡そうと屈んだ拍子に、早苗の目の前を、トンボが飛び退る。

 驚いて転びそうな早苗の姿が、颯太には妙に、スローモーションのように感じた。

「早苗っ!」

 とにかく早苗を助けなければ。

 膝を突いたオイル塗りな姿勢のままで、身体が動く。

 瞬間に、意識が感じた事。

 やばい。

 折原転ぶ。

 支えなきゃ。

 どう支える?

 相手は水着の女の子。

 胸に触ったらやっぱマズい。

 頭も逆に危ない。

 腕を掴める自身ない。

 お腹も内臓破裂とかしそう。

 脚では店頭を免れない。

 そんな色々が一瞬で過ぎりながら、無意識に両腕が伸ばされる。

 そして、颯太の両腕は。

「キャッチっ!」

「はわっ!」

 早苗の両脇。

 赤ちゃんを「高い高い」するときに持ち上げるような位置で、少女の転倒を不正手急いた。

 しかし姿勢は安定していなかったので、颯太はゆっくりとだけど背後へと転がって、その上にビキニの早苗が重なってくる。

「っと…」

「…っ!」

 颯太の身体がクッションになって、早苗は怪我をする事なく、ただ転げた。

「だ、大事腰部か?」

「う、うん。ごめん、ありがと–」

「あー 早苗むねむね」

「え…ひゃあっ!」

 涼子に指摘されて胸元を確かめたら、颯太の掌で水着の脇が引っ張られてカップがズレて、白い乳房が零れ出ていた。

 涼子の指摘と早苗の視線を無意識に追っていた颯太は、早苗のバストを間近で見てしまう。

「うわっ、ごっ、ごめんっ!」

「えっあっ、う、うん!」

 早苗は素早くかき氷をシートへ置くと、慌ててビキニトップを戻す。

「あー 早苗、危なかったねー」

「ま、まーねぇ…チラ」

 颯太をチラと見る早苗。

「あ、あーその…スマンかった」

 正直な颯太だ。

「ま、まあそれはー。上泉くん、助けてくれたんだしー」

 怪我もしていないし怒ってもいないようなので、ホっとした颯太だ。

 安堵した空気の中で、政彦の声。

「んー? プールの監視係さーん。なんか 屋外なのに停電ですヨ」

「あー 緊急事態だったからねー」

 うつ伏せのまま顔を向けている政彦の両目は、涼子が両手に持つジュースのカップで、塞がれていた。

 面積の小さい底面が両目に充てられていて、プラスチック製の蓋の隙間から、コーラとアイスティーが溢れ出している。

「おお政彦、そんなに悲しいか」

「左右で違う色の涙を流せる特技?」

「フてん初披露だゼ!」

 そんな感じで、四人はお昼過ぎまでプールを楽しんだ。


 帰りのバス乗り場で、やっぱり気にしている颯太。

「あ、あのさ、折原…さっきはその…ごめん」

「んーん。もう気にしなくてもいーよー」

「あ、うん」

 怒っていないとはいえ、やはりあらためて謝罪していた颯太だ。

「まぁでも~、上泉くんで良かったかな~」

「?」

①見られちゃっても許せる相手 → 異性確定

②見られても気にならない相手 → 弟と同じ

 どっちだろう。

 とか考えると、複雑な気分だ。

「まあ、それ以上に 驚かされちゃったし」


「? 何かあったっけ?」

 颯太の素直な疑問に、早苗はニコっと微笑む。

「なんでもな~い♪」


                        ~第十三話 終わり~

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