第十二話 なんか 勝てる気しないわ


 夏前の土曜日。

 真夏日が続いている事もあって、夏休み前だけど市民プールがオープンしていて、颯太たちはいつもの四人でプールに来ていた。

 男子である颯太と政彦は先に着替え終わっていて、プールサイドで、女子二人を待っている。

「見ろ颯太よ。ビキニ天国とはこの地の事よ!」

「カップルばっかだし、家族連れも多いけどな」

 政彦の言う通り、確かにビキニ率は高いけれど、なんだかそういう女性たちはカップルっぽい男性と連れ立っている。

 ママさんや女性のグループは、ビキニよりもワンピースの方が断然多いと見えた。

「彼女持ちは帰れ帰れ!」

「ビキニの彼女も一緒に帰っちゃうんじゃね?」

 正しい颯太の返しに、政彦は絶望の涙を禁じ得ないようだった。

「あー まーくん、またバカなこと言ってるー」

 笑いながら、水着姿の涼子と早苗がやってきた。

「お待たせー」

 涼子は赤系の花柄ビキニで、早苗は水色の涼し気なカラーのビキニ。

「「おおおっ! セイっ!」」

 女子たちのビキニ姿に感激しながら、男子二人はクロスカウンターのように、お互いの顔面にパンチ。

「うわどうしたの?」

 女子に振り向くと、男子二人は鼻血を流している。

「女子の水着に対して、鼻血を以て返答とするのが漢よ!」

「って事らしいぜ」

「えーそーなのー?」

「あー まーくんはそうだろうねー。付き合わされる上泉くんも大変だー」

 男子たちのアホな認識に、女子たちは呆れて笑った。


 プールサイドには、テーブル席の他にも人工芝の休憩スペースがあって、家族連れなどはレジャーシートを敷いて、くつろいでいる。

 颯太たちもシートを持ち込んでいたので、芝の一角に広げてスペースを確保。

 少し狭いけど四人分は転がれるシートに、涼子がうつ伏せで寝転がって、日焼け止めのオイルを政彦に手渡す。

「あー まーくん塗って」

 オイルを受け取った政彦は、不敵な笑みだ。

「ふ…オレ様のぉ、超絶ぅ、オイル塗りハンドテクニックぅっ! たまげさせてやるぜええっ!」

「あー うん」

 幼馴染みの宣言を特に拾う事もなく、涼子は信頼しきった感じで瞼を閉じる。

 ビキニの白い背中が起伏を魅せて、年頃の男子には堪らない光景が展開されていた。

 しかし涼子は、市民プールでは当然であるが、ビキニの紐を解くつもりはない様子。

「ブラ紐解放戦線による抵抗運動が勃発!」

 ビキニトップの背中の紐を解いて。と、隣の颯太の肩を組みながら、政彦が懇願している。

「志は同じくすれど、国際社会の評価を懸念し、穏健派が台頭」

 と社会的な常識を解きながら、颯太は政彦の腕を取り除く。

「戦線崩壊!」

 政彦は敗北に涙した。

「俺、先に泳ぎたいし」

「私もー」

「あー 私は少し 陽に当たってからにするよー」

「じゃあオレも」

 颯太と早苗は、プールへと向かった。


 準備運動で身体をほぐすと、真夏日の太陽に身体が熱せられる。

 隣では、ビキニで全身を柔軟体操させる早苗の肌色がクネクネとうごめいて、颯太は引っ張られる興味と意識との闘いを強いられていた。

「ふぅ…入ろっか」

「うん。冷た~い」

 爪先から入った早苗は、気温に比して冷たい水に、笑顔で喜ぶ。

「お約束 ほいっ!」

「きゃはっ、やったな~!」

 颯太がプールの水をザバっとかけたら、早苗は可愛い悲鳴を上げて、反撃をしてきた。

 全身ずぶ濡れになると、夏の日差しで熱せられた肌がヒンヤリとして、プールの水が気持ち良い。

 水面から出ている胸よりも上は太陽を浴びて熱いけれど、水の中は涼しい、この感じ。

「なんか、もう夏~ って感じだよなー」

「今年は暑いもんねー」

 楽しそうに笑う早苗は、バストよりも少し上からが水面で、折角のビキニも水中なのでユラユラと揺れて、形が見えない。

「往復で泳ぐとか、ちょっと難しそうだな」

「そうだねー。家族連れも 多いからねー」

 幼稚園児なら児童用の浅いプールで母親とかと楽しんでいるけれど、小学生にもなると、特に男子は、大人用のプールで普通に楽しんでいる。

 市民プールはなかなか広いけれど、真っ直ぐに泳いで往復できる程の余裕は、今日はなさそうだ。

「ねー上泉くん。潜りっこしないー?」

「いいよ。先に顔出した方が ジュース奢りで」

「いいよー」

 ルールは単純に、長く潜っていた方の勝ち。

 颯太的には、負けない自信があるし、水中で早苗のビキニが見られる嬉しいゲームでもあった。

 潜っている事が周囲にも解るように、プールサイドに手を着けたまま、潜る事にする。

「それじゃあ」

 大きく息を吸って。

「「せーのっ」」

 一緒に潜った。

 水中の籠った雑音の中、颯太は早苗のビキニ姿が見たくて、隣の早苗へと視線を向ける。

 と、颯太に向いている早苗から、肌色の脚がニュっと伸びてくる。

「?」

 肌色にちょっと焦った颯太の剥き出しな脇腹が、早苗の脚の爪先で、ツンツンと突っつかれた。

「ぶふっ!」

 くすぐったくて、思わず息を吐いてしまい、颯太は十秒と待たずに水面へ。

「ぶはっ–あはははは!」

「ぷは…私の勝ちー♪」

 限りなくズルに近い気もする戦いだけど、女の子に触られたという事実の前に、男子の抵抗意識は白旗を掲げている。

「あーいうのアリか?」

「うん。上泉くんも アリだよー」

「ああ そう…」

 と言われても、出来ない。

「どーするー? もう一回戦 するー?」

 勝利者である早苗は、余裕でニヤニヤしている。

「お触り無しなら」

「なんか言い方 Hだねー」

 再選決定。

「それじゃ」

「「せーのっ」」

 再び二人で一緒に潜った。

(今度は脇腹とか死守する!)

 早苗の行動に注意をしていたら、今度は全身で近寄ってくる。

(?)

 近づいて来ると、早苗のビキニ姿が、よりハッキリと見えた。

 平均よりも起伏に恵まれる早苗の全身が、可愛いしセクシー。

 と少し慌てながら、早苗が何をする気なのかと思って注意していたら、愛顔を目の前まで接近させての、水中変顔。

「ぶぶぶっ!」

 想像もしていなかった早苗の特技に、颯太は堪えていた息を盛大に吐き出す。

 無数の吐息が泡となって、早苗の媚顔に直撃をした。

「ぶはっはははははっ!」

 水中から上がっても、颯太の笑いは止まらない。

「ぷは、二連勝~♪」

 連覇の早苗は、嬉しそうに笑顔でピースだ。

「折原、あ、あんな特技 あったんだなー」

「えっへへ~♪ 男子では、上泉くんにしか 見せてないけどね~」

 なんかキュンとする事をさり気なく言う早苗である。

 とりあえず、ジュース二本奢りは確実になった。

 それにしても、変顔、なかなか可愛い。

 とか、あらためて思い出す。

「どーするー? もう一回戦 するー?」

 ニヤニヤしている早苗は、まだ何か秘策がありそうだ。

「いや、降参。なんか 勝てる気しないわ」

「いぇ~い♪」


                        ~第十二話 終わり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る