第十話 名探偵登場(涙)!


 金曜日の放課後。

 颯太は掃除当番で、政彦は罰当番として掃除を手伝わされていた。

「くそうっ、なんで罰当番させられてるんだ善良なる模範生徒のこのオレ様はっ?」

「屋上の柵に登って跨って ロデオー とかやってたからじゃないのかー?」

 と、叱られて至極当然だとの返答をされても。

「納っっ得できんわボケェ~っ!」

 腕組み&しかめっ面でふんぞり返る政彦へ、廊下から担任教師の声がかけられる。

「そうかそうか。なら納得できるまで罰当番、何日でも続けてみるか?」

「担任教師殿っ、自分が間違っていたでありますっ!」

「わかれば良し」

 敬礼しながら速攻降伏をした政彦。


 掃除当番を終えて、二人が校門まで来ると、早苗と涼子が待っていてくれた。

「あ、上泉くーん。津山くーん」

「お待たせー」

 手を振る早苗に、颯太たちは軽く挨拶を返す。

「あー まーくんまだ罰当番ー?」

「はいインビジブル政彦様のご降臨ー」

 馬鹿なヤリトリをしながら、いつもの四人は帰路に就く。

 春が過ぎて少し暖かくなってきたこのごろは、颯太は学ランの下に半袖シャツを、政彦は半袖のワイシャツを着用している。

 早苗たちは半袖のセーラーだけど、涼子はニットを一枚、着込んでもいた。

「最近、少し暖かいよなー」

「ねー。私 どっちかって言うと暑がりだからー」

「へー」

 颯太が早苗を見ると、セーラーの襟元の狭い隙間から、白い肌と、薄い水色のブラ紐が僅かに覗けている。

 鎖骨あたりには薄く汗を纏っていて、なんだかセクシーな感じでもあった。

「あー 確かに暑そうだなー」

 見てしまって、少し罪悪感も感じて、颯太は視線を空と向ける。

「だよねー。雲も高いもんねー」

「あー そーゆー意味じゃないっぽいけどねー」

「えー?」

 颯太の視線に気づいていたらしい涼子がツッこむも、早苗は気づいていない様子。

「篠田に折原ー、コンビニで 何か飲もうか?」

 話題を逸らした颯太に、涼子が嬉しそうな確認を取る。

「あー 上泉くんの奢りー? ゴチでーす」

「ゴチでーす♪」

 早苗も乗っかってきて。

「ああ もう何でも好きなだけ、注文していいゼ。政彦もなー」

「おお友よ! 漢の中の男よ!」

「バッチリ来い! 請求書は政彦持ちだ!」

「オレのトキメキを払い戻せ!」

 などといつもの感じで、四人はコンビニに寄った。


「おー涼しいなー」

 店内は弱めに冷房が効いていて、ジワりと汗ばんでいた身体に心地よい。

 政彦は、ドリンクの棚で五百ミリ紙パックのイチゴミルクを選択。

「りょっこ 何飲むー?」

「あー アタシはむしろ アイス食べる的なー?」

 言いながら、二人はアイスボックスの前へ。

「折原は なに飲むん?」

「上泉くんはー?」

 颯太は特に考えていなかったので、店内で淹れるアイスコーヒーを購入。

「私はいーや。あ、大っきいサイズ 買った方がいいよー」

「? そう?」

 早苗がそう言って、三人はレジを済ませた。


 店から出ると、やっぱりそれなりに湿気が感じられる。

「折原、ホントになんも飲まないの?」

「んー、飲むつもりだけどー。飲まなくても良いけど飲むけどー」

 意味不明な事を言いながら、早苗はニコニコと颯太を見上げつつ、何やら思惑がありそうな、イタズラ笑顔。

「…!」

 小首をかしげて見上げる早苗は、ワザと首元を颯太に見せている。

 さっき見ていたのがバレてた。

 と、颯太はすぐに理解できた。

「折原、アイスコーヒー、一口飲む?」

「わーいありがとー」

 補導員に自首をする微犯罪少年の気分でアイスコーヒーを差し出すと、早苗は嬉しそうに受け取って、一口だけ飲んで返してきた。

「あー美味しー。はい」

「え、ホントに一口でいいの?」

「んー。特に喉とか 乾いてないしー」

「そーかー。まあ、また飲みたかったら 言ってくれなー」

「りょーかーい」

 そんなヤリトリを、目の前で当たり前みたいにしている二人に、涼子が訊ねる。

「あー 二人とも、やっぱり仲いーよねー」

「そー?」

「そうか?」

 よく弟の呑んでいるジュースを一口貰う早苗と、よく姉に珈琲を一口飲まれる颯太の間では、特別に意識するような事でもないっぽい。

 二人の感情とか関係なく、政彦が得意がった。

「ふっふっふ…まあ、オレ様とりょっこはぁっ…よく一緒に風呂だって入った仲っ、だもんなあああっ!」

 衝撃の事実。みたいに大げさな政彦。

「なんだとっ! 何て英雄なんだ政彦の幼稚園時代っ!」

「名探偵登場(涙)!」

 颯太に言い当てられて、地団駄な感じの政彦だ。

「あー 懐かしいよねー」

 過去の暴露話だけど、涼子は笑っている。

 ついでに思い出したらしい。

「まーくんよくさー お風呂の中でおしっこ漏らして、オバサンに怒られてたよねー」

「忘れられる権利っ!」

 余計な過去を掘り返されて、政彦は耳まで赤くして恥ずかしそうだ。

「でもまー、幼馴染みあるあるだよなー」

「上泉くんもさー、お姉さんと、子供の頃は一緒に入ってたでしょー?」

「まーそうだなー。折原も、護くんと そーなんだろー?」

 話題は、兄弟姉妹あるあるへと発展。

「そうだねー。でも最近はー、護のほうが一緒に入りたがらないんだよねー。男の子って そーなのー?」

 弟としての立場からの意見を聞きたいらしい。

「そりゃーなー。なんか物心つくと、姉ちゃんと一緒に風呂入ってるって、なんか甘ったれてるみたいで格好悪いもんなー」

「あー「そうなんだー」」

 早苗も涼子も、なるほどと感じたらしい。

「うむうむ。漢とはつまり、ガキの頃には母や姉に甘えていても、自我の確立と共に自立して、やがて別の女と風呂に入る生き物なのよのぉ…っ!」

 遠慮なく感動していいよ?

 みたいな得意顔の政彦だ。

「あー まーくんまた アタシと入りたいんだー」

「その挑戦、いつでも受けて立つ!」

 幼馴染み同士の決闘話を聞きながら、早苗が以前、颯太の家でシャワーを浴びた雨の日を、少年は思い出したり。

「…あれも決闘なのかな?」

 と呟く颯太に。

「だったんじゃないー? シャツ貸して貰ったから、引き分けかなー?」

 と、同じことを思い出していたらしい早苗は、ニコニコ笑顔だった。


                        ~第十話 終わり~

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