第八話 そいや、名前の由来ってさー


 金曜日の放課後。

 帰りに早苗のおつかいを手伝う約束をしている颯太は、校門の傍らで、ボンヤリと早苗を待っていた。

 教室から一緒に下駄箱へと降りて来たところで、早苗が洗面所へと向かったので、既にシューズへと履き替えていた颯太は校門で待っている状態である。

「あー 上泉くんが校門で立ってるー」

 と、穏やかに声をかけて来たのは、涼子だ。

「へー颯太、肛門で勃つのかー」

 と、ワザと曲解している政彦も一緒だ。

「試した事はないけどなー。見たら本能でそうなるかもなー」

「うむ、漢の中の男よ」

「あー 何の話ー?」

 涼子には理解できないっぽい。

 少し遅れて、早苗が小走りで追いついてきた。

「お待たせー。あ、涼子ちゃんたちも 一緒に帰ろー」

 いつもの四人で、駅前のストアへと向かった。


 下校の車道は、金曜日のわりに空いていて、いつもは大して注目もしない過ぎ去る車に、なんだか意識が傾いたり。

「そいやさー、駅の向こうにさー、外車の販売店 出来たよな」

「ああ、ディーラーってヤツだっけ? 飾ってあった車、結構 格好良かったよなー」

「あー まーくんも上泉くんも、やっぱ男子って 車好きだよねー」

「うちの弟も、車 好きなんだよねー」

「あー 護くん、結構ミニカー 持ってるもんねー」

 涼子は、早苗の弟の護くんと遊んであげる事も多いらしい。

「そー。一番好きなの、なんだっけ…あ、あれー」

 指さしたタイミングで、一台の外車が前方から走り去る。

「何だっけー、あの車ー」

 車名を思い出そうとする早苗に、颯太が助け船を出そうとして、その瞬間に思い出したらしい。

「あれ? ああ、フェ–」

「フェラーリだ! 好きなんだよねーフェラーリ!」

「「ふぇらーりがすき」」

「んー? なになにー?」

「「いや何でも」」

 少女の疑問を受け流す男子二人。


 コンビニの前を通りかかると、新しいのぼりが立てられている事に、政彦が気づく。

「おー新作のドリンク出てるゼ! 飲みたいプリーズ!」

「あー まーくん、新作は逃さないもんねー」

 颯太は、ドリンクには政彦ほどの興味はない。

「こののぼり、そうなんかー」

「あー 新作は、マンゴージュースだねー」

「「まんごーじゅーす」」

「あー なにー?」

「「いや別に」」

 四人それぞれ、颯太はアイスカフェオレ、早苗は抹茶オレとあんまん、涼子はアイスティーとウインナー、政彦はマンゴージュースを購入した。

 涼子的には、新発売のスウィーツも気になったらしい。

「アップルパイ、今度食べてみようかなー。まーくんのおごりで」

「求む代替!」

 アップルパイと聞いて、颯太は思い出した。

「そいや昨日さー、ネットで昔のアイドルのグラビアとか、なんとなく見ちゃってさー。リンゴ一つだけのヌードとか、あったんだよなー」

 早苗も知っているらしい。

「あー私も見た事あるよー。なんかこー、こんなのだよねー」

 と言いつつ、あんまんを両手で持って、腰の前でポーズ。

「そうそう、そんなの」

「あー あたしも知ってるー。あれ なんか不思議なシュチュだよねー」

「? オレの知らないトコロで情報交換がなされている孤独よ」

「あれ、政彦 知らない? 女優さんだっけ? けっこう有名な写真だけど」

「あー まーくんには後で 教えてあげるからー」

「代替成立コングラチュレイッション!」

 幼馴染みの提案に納得をした政彦は、颯太と頷く。

「「ところで、あっぷるぱい」」

「え、なにー?」

「「いや特に」」

 アイドルの話になって、涼子的には思うところがあるらしい。

「あー でもさー。ヌードになって有名になれるならともかくだけどー、それでも売れなくなっちゃったりすると、大変だよねー」

「アイドル業界の浮き沈みとは、まるで潜水艦の如くなり」

 政彦が、オレ良い事行った気分に浸っていると。

「そうだよねー。沈んだり潜ったりー?」

「それは沈没と言うのじゃ!」

 早苗の間違いを、政彦が突っ込んで。

「あー または沈降ー?」

 と、ウインナーを咥えながらの涼子。

「「ういんなーとちんこう」」

「んー? どうしたのー?」

「「いやまあね」」


 駅前近くまで歩いて来ると、ラーメン屋さんから、美味しそうな油系の匂いが漂ってきた。

「おーラーメン。美味そうな匂いだなー」

「ちょっと腹減るよなー」

「ねー」

「あー あたし豚骨好きー」

「篠田、意外とガッツリ食べるよなー」

「涼子ちゃん、大人っぽいから意外だよねー」

「あー 子供の頃から、まーくんと一緒に食べる事 多いからねー」

「オゥ リョッコのー ガツリィはー ミーのせい?」

 と、英語訛りの小ボケを発して、政彦は何かを思いついた感じだ。

「らーめんろっぱい!」

 渾身らしいネタだけど、誰にも響かない。

「男が言ってもなー」

「言って気づいた!」

「あー「何がー?」」

「「いやこっちの話」」


 駅前に到着すると、新しく建設されたマンションの分譲販売が行われていた。

「へー、このマンション 完成したんだなー」

「あー 駅前って、便利だもんねー」

 販売価格を見ても、そもそも適正価格とか、男子高校生ではあまりピンと来ない。

「あっ、ねーねー、見学会に来ると、マスコット貰えるんだってー!」

 早苗は、このマンションを扱っている建設会社のマスコットキャラが、気に入っているらしい。

 立て看板の広告によると、今度の日曜日に見学会へ来れば、マスコットキャラの掌サイズなヌイグルミが貰える。とある。

「ねー上泉くんー、来ようよー」

「高校生が来ても、完全冷やかしにしか ならないんじゃね? っていうか、それでもマスコット くれるのかな?」

「それを試す意味でもさー」

 女子に袖を引っ張られると、男子的には断りづらい感じがする。

「まあ、来るだけ来るか?」

「うん! きっとくれるよー。この会社、太っ腹みたいだしさー。ほら、取り扱い物件、一万戸って書いてあるしー」

「「いちまんこ」」

「えー? なになにー?」

「「いや ありがとうございます」」

 フと、颯太は思い出す。

「そいや、名前の由来ってさー『万(まん)』物の生まれ出ずる『孔(こう)』から略して…って事らしいぜー」

 颯太の蘊蓄に、政彦が納得。

「へー」

「「へー」」

 女子二人も納得。

「「って、ずっと解って言ってたのかよ」」


                      ~第八話 終わり~

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