第4話 乾燥機に靴下とか


 その日は突然、大雨が降ってきた。

 傘を持っていなかった颯太と早苗は、びしょ濡れな制服姿のまま、颯太の実家の玄関を潜る。

「うひゃあ、濡れたなー」

「ねー。ゴリラ豪雨だっけ?」

「そんなの降ったら 自衛隊の出動だな」

 二人とも全身がズブ濡れで、早苗のセーラー服などは、スカートから雨水が滴っているほどだ。

「とにかく、上がれよ」

「うん。オジャマしまーす」

 颯太が風呂場の脱衣所からバスタオルを持って来て、早苗に手渡す。

「とにかくスイッチ入れたから、すぐにシャワー 浴びちゃえよ」

「え、ありがとう。それじゃあ、遠慮なくー」

 二人ともカバンをキッチンに置くと、早苗はバスタオルでセミロングの髪を拭きながら、脱衣所へと向かった。

「あ、ちょっと待ってて。今 なんかシャツとか、持ってくるから」

 そう言って、颯太は二階の自室へと駆け上がる。

「あ、一緒にハンガー もらえると嬉しいなー」

「んー」

 階段の上から返答があって、しばらくして、洗ったばかりなTシャツとハンガーを手にした颯太が下りて来た。

「これでいー?」

「うん、ありがとー」

 受け取った早苗が、脱衣所に姿を消す。

『覗いちゃダメだからー』

「心得とりまーす」

 颯太は二人分のカバンを手にすると、二階の自室へと上がっていった。


 颯太の家の脱衣所で早苗は全裸になると、下着や靴下を乾燥機に入れて、スイッチをオン。

 脱いだセーラー服をハンガーにかけていると、乾燥機のなんとも言えない温かい香りが、脱衣所を満たす。

「ん~♪ この香り、好きー♡」

 ご機嫌な気持ちで、早苗は浴室へ入って、冷えた身体にシャワーの温かい湯を流した。

「ふんふんふん~♪」

 平均的な身長に、やや恵まれたボディライン。

 豊かな双乳が湯に濡れて、括れたウエストが湯を滑らせて、大きなヒップが湯を弾かせて艶めかせる。

 ひとしきり全身を石鹸で洗って温めると、脱衣所に戻って乾燥機をチェック。

「んー…まだダメっぽいやー」

 颯太のシャツは、白地に何やらの英語が書かれていて、前面いっぱいにリアルな虎のイラストが描かれている。

「干支?」

 頭から被ると、鎖骨が出るくらいに大きくて、丈も腿の中間くらいまで。

 姿見で見てみると、女性の身体に男性物のシャツというシュチュ。

「うわー、なんだかHっぽいー」

 髪もまだ濡れているので、余計にHな事を想像できそうだ。

 キッチンを覗いたらカバンが無かったので、颯太が自室に持って行ってくれたのだと解った。

 颯太の部屋に上がると、颯太はモニターとBDの準備を終えたところだった。

「お風呂、ありがとー」

「んー。シャツ、だいじょぶか?」

「うん。干支シャツ?」

「いやたまたま」

 カーテン式の物入れからシャツを取り出して、床に脱ぎ捨ててあったジャージの下を拾う颯太。

「じゃ、俺も温まってくるから、録画 先に見てて」

 放課後、早苗が颯太の家へと遊びに来たのは、昨夜に放送されて早苗が見逃した映画を、颯太が録画していたからだ。

「あ、じゃあ私、キッチンで珈琲 煎れてくるねー」

「おーサンキュ」

「お砂糖 三十杯だっけ?」

「溶けるの 見てみたいところだなー」

 とかバカな事を言いながら、二人で一階へ。

「じゃ、珈琲よろしくー」

「うん。あ、脱衣所に私の制服とー、乾燥機に靴下とか、まだ入ってるからー」

「りょーかーい」

 着替えを抱えた颯太が脱衣所に消えると、早苗はコーヒーメーカーで豆を挽いて、珈琲を淹れる。

「ああ~、珈琲の豆~、良い香りだ~♪」

 早苗の実家ではあまり珈琲は飲まないので、喫茶店の前などではない、家庭での珈琲豆の香りを嗅げるのは、幸せ気分だ。

 十数分と待つと、熱々な湯気をたたせる珈琲が二人分、出来上がる。

 丁度そのタイミングで、室内着に着替えた颯太が出てきた。

「あー温まったなー。お、珈琲 出来たん?」

「うん、丁度ー♪」

 二人でミルクと砂糖を入れて、再び二階の部屋へ。

 ベッドに並んで腰かけると、録画した映画を視聴開始。

 早苗は学校近くのコンビニでお菓子を購入していて、颯太と分けた。

「はいこれー」

「お、戴きまーす」

 買ってきたお菓子は、袋入りのお煎餅。

「んん…珈琲とお煎餅って、なんか不思議だねー」

「まあ折原が用意したんだけどな。ってか、俺は結構、何でも食べるけど」

 言いながら、シャツに下ジャージの颯太と、干支シャツ姿の早苗が、ベッドに並んで映画鑑賞。

 映画は、有名SFスペースオペラの最新作で、第三部の完結編という位置づけらしい。

「なんか話、無理矢理だよなー」

「あはは。私、さっぱり解らないよー」

「え、じゃあなんで観たいの?」

「んー。弟と一緒に、この前の二作、テレビで観ちゃってー。何か、観れるなら観ておいた方が スッキリするかなーって」

「へー」

 映画も終盤。

 敵側の大艦隊が攻めてきて、主人公たちの大ピンチ。

「こんな艦隊、どうやって作り上げたんだ? って話だよなー」

「お金持ちなんじゃないのー?」

「そういうレベルじゃないだろ」

 しかもライバルキャラの男性は死亡。

「あれー? 主人公の女の人と、恋愛関係になるんじゃないのー?」

 早苗的には、そういうロマンスを期待していた様子だけど、残念なことに映画は美男子の自己犠牲で終了。

「なんかさ、この男優さんが一番 光ってた気がするな、俺は」

「ふーん」

 そこもさほど、気にならない様子の早苗だ。

「でもさ、護くんも観てないんだろ? この映画」

「それがさー」

 颯太の降りに、早苗は思い出し怒り。

「アイツ、友達のとこでブルーレイで観て来たとか言ってさー。この前のヤツの時ー、一緒に見たいとか言って、私に録画させたくせにさー」

「あはは、そりゃまた」

 何とも言えない顛末だ。

 今どき珍しくエンドロールまで放送されたので、そこまで観ながら聞いてみる。

「で、折原的に、感想は?」

「最後、主人公 名前変えたんだねー」

「まあ そうだな」

 全二作も観ていてその感想なら、特に言う事もない颯太。

「ねーねーほかに何か、映画とか持ってないー?」

 早苗はベッドから膝立ちで下りて、モニターの下の収納ラックにワクワク顔を近づける。

「何本か入ってるけどなー」

 言いながらラックの引き出しを開けると、ディスクケースがいくつか収められている。

 四つん這いになって、楽しそうに覗き込む早苗。

「わ~。SF、ミュージカル…釣り? バス旅?」

 ジャンルに統一性は無し。

「なんか興味でた時は買ったりするけど、特にジャンルとかは絞ってないなー」

「Hなビデオ的な感じのとか、ないのー?」

「無いし、あったら隠してる」

「あ、隠してるんだ」

「あったらな」

「へー」

 とか納得をしながら、二人とも珈琲を一口。

「ってか、折原の恰好の方がHっぽいだろ」

「あー、私もそう思ったー」


                        ~第四話 終わり~

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