第3話 むしろ このくらい


「駅前さー 新開発してたじゃん? ビルん中にボーリング場さー 出来たんだってよ。ちょっとさ、行ってみねー? リョッコ、今日ヒマだろー?」

 いつものような政彦の提案に、リョッコと素ばれた、幼馴染みでアクティブな涼子は乗る。

「あーたしか 一昨日オープンしたんだっけ! あーこれは 行っとかないとだよね!」

 小学生がそのまま高校生になったような政彦と、四人の中では一番大人っぽい涼子は、幼稚園の頃からの幼馴染みだ。

 高校一年の頃、政彦は颯太と、涼子は早苗と友達になり、一緒に出掛けたりする友達になった。

 そんないつもの四人で出かけようと思ったら、早苗は都合がつかないらしい。

「うわごめんー。今日はちょっと、混んだ買い物があってさー」

 拝み手で詫びる早苗に、颯太が訊ねる。

「なんか 重たい買い物でもすんの?」

「んー実はねー」

 今日は、早苗の父親の誕生日で、母親が駅前商店街の魚屋さんに、刺身の盛り合わせを注文しているという。

「へー、おめでとございます」

 さり気なく祝福する政彦に、早苗は社長のような返しで話を続ける。

「やーやーどーもどーもー。でさ、お刺身って大皿だしさー、お父さんお刺身 大好物だしさー、お母さんまだ仕事ださしー、護じゃ持てないからねー。私が受け取りに行くのよー」

 参ったー。みたいな笑顔の早苗へ、颯太がナチュラルに提案をする。

「大皿かー。俺 持とうか?」

「えっ、いいの!?」

「んー」

「あー大皿のお刺身かー。アタシも見てみたいー」

「いいけど、ボーリング いいの?」

「あーうん。大皿のお刺身なんて映画とかじゃないと観れないしー。ボーリングは今度、まーくんのオゴリって事でー」

「図々しい話 拒否っ!」

 まーくんと呼ばれる政彦も付いてくる事になって、四人は放課後、駅前の魚屋さんへ向かう事になった。


「はいよ、早苗ちゃん。あ、お兄さんが持ってくのかい?」

 早苗の家の最寄り駅で降りると、魚屋さんはすぐ近くだった。

 魚屋のオバちゃんは早苗を子供の頃から知っているらしく、この商店街は昔の下町っぽい空気が色濃い感じ。

「はい…おお、確かに重いなー」

 お皿は両手でなければ持てないくらいの大きさで、颯太のカバンを政彦が持つ事になった。

「颯太さー 責任重大だべなー」

 とかニヤニヤする政彦。

「万が一にも落としたら政彦のイタズラ以外に原因はないから政彦の弁償な」

「証拠は? 証拠プリーズ」

 男子同士のバカな会話に、幼馴染の涼子も乗っかる。

「あーそん時はアタシが証人だよねー。まーくん 有罪ー」

「公平な裁判は死んだのか?」

「あはは」

 四人で早苗の家に向かう途中で、政彦がたこ焼き屋さんに気づいた。

「あ、たこ焼き屋さん。なんかさ、美味しそうなニオイじゃねー?」

「あーそうだけどー。お刺身 早く持って帰らないと、傷んじゃうじゃんー?」

「食いたい人ー、後で取り立てるから手を上げてー」

 人数分だけ買ってくるつもりらしい。

「あーまーくんの奢りならハーイ」

「あ、俺も」

「私もー」

「守銭奴ゲッタゥっ!」

 たこ焼きは政彦に任せて、三人は早苗の実家へと到着。

 早苗の実家は高層マンションで、部屋は四階の角だった。

「あーまーくん、早苗ん家 知らないんだっけー?」

「俺も初めて来たなー」

「そうだっけ?」

「あーでもいっかー。急いでお刺身届けて、みんなで公園 行こー」

 マンション裏の公園で、みんなでたこ焼きを食べる事になった。

 まずは三人で、早苗の家へとお刺身を届ける。

「津村くん、いいの?」

「あーへーきへーき。猿をウッカリ部屋に入れると 荒らされるから」

 幼馴染みの提言で、そう決まった。


「失礼しまーす」

「どーぞー」

 早苗の家は広くて綺麗で、白を基調とした室内空間だった。

「えっと、キッチン そっち?」

「こっちだよー」

 広いキッチンの大きな冷蔵庫に、大皿もスッポリ入る。

「よ…これでいいかな」

「ごくろー様でしたー」

 早苗の笑顔が、どこか誇らしく感じたりする颯太。

 一緒に上がった涼子のケータイが鳴っている。

「あーまーくん、下でボッチ生活 始まりそうだってー」

「よし 笑ってやりに行くか」

 三人はマンションの入り口で、たこ焼きを買ってきた政彦と再会した。

「あーボッチ見っけたー」

「三人でさー 折原ん家言ってさー。オレに冷たくね?」

「入ってすぐ出てきたけどな」

 言いながら、三人は政彦にたこ焼き代を払う。

「そういう問題じゃなくてさー」

「ジュース、アタシが奢ろっか?」

「そういう話なんだけどさー」

 ご機嫌な政彦だ。


 マンション裏の公園は、入り口に自販機があった。

「あーまーくんはホット汁粉でいいんだっけ?」

「ディスィズたこ焼ーきっ!」

 ポケットからサイフを取り出そうとしていた颯太に、早苗が声を掛ける。

「上泉くん何飲むー? 私、出すよー」」

「え、いいの?」

「うん。お刺身運んでもらったし、この間なんて 荷物持ってくれたのに私、奢って貰っちゃったし。むしろ このくらい」

「あー早苗ー? 上泉くんと出かけたのー?」

「っていうか、買い物先でバッタリ みたいな」

「へー」


 なんとなく男子たちが女子たちに奢って貰って、みんなで円形の遊具に腰かけて、それぞれのたこ焼きを戴く。

「フッフッフ。ドレがどの味なのかさー わかんねーぞー?」

「あー何さそれー?」

 たこ焼きは、ソース味と明太味とチーズ味とサワークリーム味の四種類らしい。

「あーまた余計な事してー。で、まーくんのはどんな味ー?」

 文句を言いつつ一番食いつく涼子に、政彦はたこ焼きの白いボックスの蓋をオープン。

「さー政彦様のたこ焼きは–」

「あー明太ソースかー」

「開けた瞬間に色で判別するルールブレイカー反対っ!」

「あー早苗はー?」

「私のは マンゴークリームみたい」

「あー黄色いソースのたこ焼きとか、なんか色も沈んでビミョーだねー。上泉くんはー?」

「普通に普通なソース味だなー。マンゴークリームといい 政彦のチョイスミスかな」

「たこ焼きを提案したオレのヒラメキを称賛しても罰は当たらないのですよ?」

「あーじゃあアタシのはチーズ味かー」

「「「「戴きます」」」」

 四人で熱々のたこ焼きを頬張る。

「んふ…ソース味、フツーだけど美味いよなー」

「あーチーズ美味しいよー」

「明太もなかなかだよなー」

 それぞれが味わう中で、早苗は微妙な表情だ。

「マンゴー、だめ?」

「んー、だめじゃーないけど…えい」

 片手にたこ焼き、片手に缶コーヒーを持っている颯太の口に、早苗がたこ焼きを食べさせる。

「あむ…んむ……んむむ……んくん…なるほどな…」

「ねー」

 微妙な顔の颯太と、困惑笑顔の早苗だ。

 そんな二人に、涼子が突っ込む。

「あー…早苗と上泉くんさー。なんか仲良ー?」

「え、そーお?」

「あー早苗さー、つまようじ そのまま使ったじゃんー?」

 言われて、早苗の爪楊枝で貰った事を、颯太も気付く。

「あぁ…まあ、俺は姉貴いるし、折原は弟いるし。なんか 慣れてる感じ?」

「あーそーかもー」

「へー…」

 涼子的には何かを察してる様子だけど、深くは追及しなかった。

「リョッコさー。オレにもチーズ味一つ 早く早く」

「一個につき一年 アタシの命令 なんでも聞く?」

 絶対君主のような涼子。

「奴隷制度は死んだんじゃないのか?」

「あーハラペコ男子に施してあげるよ」

 言いながら、たこ焼きの箱を差し出す涼子。

「食い終わったヤツじゃん!」

「そおだよ」


                         ~第三話 終わり~

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