第5話ウザい後輩はたじろぐ

翌日。

一年生のフロアを歩いていると後ろから元気な挨拶と共に強い衝撃が背中を襲う。

「おっはよう~弘貴」

押された勢いで転倒しそうになるが踏ん張り、回避した。

駆け寄り、手を握ろうとする水倉の手を振り払う。

「だいじょ......」

「忘れたのか、お前?昨日、俺が言ったこと」

俺は、いつもより数段低い声で訊ねる。

「い......いや、その......なっ、なんて......いうか......」

迫力に圧倒され、たじろぐ彼女。

小刻みに彼女の身体が震えている。

表情が固まっていく。

言い返すことができないようだ。

「あんだけ泣いてたのは演技か?本心は違うのか?」

「......え、えんっ......ぎじゃ、なっいぃ......うう、っうぐ、ぐすっ......」

俯く彼女の頬を伝い、雫がこぼれる。彼女は、両手で涙を拭う。

廊下にいる数人の生徒の視線が刺さる。

「昨日は、やり過ぎた。ごめん。次から気を付けてね。いいかな、

俺は、優しく頭を撫でながら、耳もとに口を近付けいつもの声音で囁く。

彼女は、小さく頷き謝る。

「ご、めん......弘貴ぃせんぱぁいぃ」

「泣かせるつもりはなかったんだ。水分補給しないと、好きな飲み物わかんないから着いてきてくれない?」

「う、うん。ひろ......き、せん──」

「今はいいよ。呼び捨てで」


一階の自動販売機で、スポーツドリンクとミルクティーを購入して、彼女にスポーツドリンクを渡す。

彼女はお礼を言い、半分近く飲み、キャップをしめる。

「またな、水倉」

「昨日の......おごってくれるって話は......」

彼女の控えめな叫びが後ろからした。

俺は、振り返り笑顔でこたえる。

「授業が終わったら来いよ。一緒に行かないとおごれないから」

俺は、教室に向かう。

朝のSHRが始まりそうな時刻になっていた。







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