scene5
「ああ……さっきの今で、気まずいなぁ……」
「あははは……まあ、しょうがないさ」
こうして、一行は再びコニウムへ。村の入り口でまごつくカレリアをよそに、ギルドナは妙に張り切っていた。
「さて、村長に話をつけねばな。俺が代表して、カレリアを連れて行ってくるとしよう。貴様らはその辺で待っているがいい」
「ああ。頼むよ、ギルドナ」
数時間前とほぼ同じやり取りを交わしながら、アルドは苦笑いする。つくづく、今日は忙しない一日になってしまった。
「どうした、カレリア? 早く行くぞ」
「えっと……これから、アルテナやミュルスたちとも会うじゃないですか? そう思ったら、なんと言うか……。ついさっき、あんな別れ方をしたばっかりなのに、二人に申し訳なくて……」
「この期に及んで何を言うか……。お前たちは同じ村で暮らす仲間になるのだ。そんな些細なことを気にしてどうする?」
「そ、そうでしょうか……」
「いいから行くぞ。今日から貴様は、この村の一員だ」
「は……はい!」
歩いていく二人の背中を見送りながら、アルドはぼそりと呟いた。
「……本当に、これでよかったんだよな」
「と言うより、盤上この一手でござろう」
「善悪はさておき、カレリアさんを救ける方法は……こうする以外になかったと思われマス」
「うん……。やっぱりそうだよな」
アルドはすでに、後悔してはいない。善行を為したと実感しているわけでもなく、ただカレリアのこの村での未来が明るいものであればいいなと願っていた。
その時不意に、エイミが思い出したように口を開いた。
「そういえば……さっき、アルテナとお茶を飲んでた時のことなんだけどね」
「ん……? いきなり、なんの話だ?」
アルドが首を傾げると、エイミはどこかとぼけた調子で話を続ける。
「アルテナにこっそり聞いてみたんだけど……カレリアって名前の魔獣、この島にはいないらしいわよ?」
「えっ、そうなのか?」
「うん。島の外からやってきた人の中にも、いなかったみたい」
「そ、そっか……。じゃあ、本を書いたカレリアって魔獣は、すごく昔の人なのかな?」
「もしくは、これから生まれる赤子がそう名付けられるのかもしれんでござるなぁ」
「将来、コニウムに引っ越してくる人かもしれマセンネ」
アルド、サイラス、リィカはそれぞれに考えを口にしたが、エイミは難しい顔のまま。
「うーん……そうかもしれないけどね。この状況を見てると……あのカレリアがこれから書く日記が、未来に残ることになるんじゃないかって思えちゃって……」
「あ……」
「な、ナルホド……!」
「そういうことでござったか……!!」
さらにエイミは、彼女の考えを淡々と語っていく。
「でもさ……だとしたら疑問が残るのよね。カレリアが読んだ本の作者が本人だったとして、『一番最初の本は誰が書いたのか?』って」
「んん……? それ、どういう意味だ?」
「だから……。カレリアがこうして過去にやってきたのは、そもそも本を読んだことで魔獣に興味を持つようになったのがきっかけでしょ? つまり、本を読まなかったら、過去には来ていない」
「まあ、そうだろうなぁ」
「じゃあ、最初の一冊は誰が書いたの? カレリアが過去に戻るより先に、本がなかったらおかしいでしょ?」
「……あれ? 確かに変だな……」
「もしカレリアさんが本を読まなければ、過去に来ることもありマセンデシタ。デスガ、それでは未来に本が残るはずもありマセン、ノデ……」
「ええ……? それじゃ結局、オレたちが何もしなくても、カレリアはいずれ過去に来ることになってた……のか? それとも……うーん、どういうことなんだろう……?」
「卵が先か、鶏が先か、もはやわからぬでござるな……」
「うん……オレ、頭が痛くなってきた」
「……ね? これって、私たちが関わったせいで、変な時空のねじれを引き起こしちゃったんじゃないの?」
「え……ええぇ……?」
「その可能性はかなり高いかもしれマセンが……。この際、神のミソ・スープ……というコトに、しておきたいところデス!」
「うむ。拙者も、同感でござる!」
「…………」
考えが言葉にならなかったアルドは、エイミに無言で困った顔を向ける。彼女もアルドを責めるつもりはなかったようで、苦笑いを返すだけだった。
「言っとくけど、私は別に、カレリアを未来に連れ戻したいわけじゃないからね。ここで暮らすのが、あの子にとっても一番かなって思うし……」
「そ……そうだよな。とりあえず、カレリアは幸せそうにしてるし、追手を気にするもなくなったわけだし……」
そう言いながらも、後ろめたい気持ちになったアルドは、一旦は俯いた。
「正直、すっごくモヤモヤしたものは残るけど……」
ただ、すぐに顔を上げると、いつもの台詞を口にしていた。
「……ま、いっか!」
卵が先か、鶏が先か 朽葉 しゃむ @kuchiba
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