【第六話】王族狩り ⑦
「ハハハハ…………ッ!!ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!イイゾォオオオオオオオオオオッ!!この感じ……ッ!!最高だァッ!!もっと楽しませろよッ!!もっとヤらせろよッ!!もっともっとくれよ……ッ!!」
シェルはテンションが高まるあまり、もはや皇太子としての高潔さはどこかにやってしまっているようだった。
戦いの集中は鋭くなる一方で、空気がバチバチと弾け飛ぶ。
王族狩りは相変わらずイラついた様子で、いつまでも決着がつかないこの状況に怒りと憎しみが止まらなかった。
三谷の技をここまで駆使しておきながら倒せないなど、"あってはならない"。
「クソがァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!いつまでも笑ってんじゃねぇぞォ…………ッ!!何で死なねぇんだッ!!」
王族狩りは叫びながら、移動中に分身を作っていった。
三日月と斬撃を絶え間なく繰り出しながら、自分と全く同じ見た目の存在をいくつも生み出していく。
王族狩りの後ろに王族狩りが続き、傍から見れば妖術にしか見えない光景だ。
これこそ、三谷の基本技が一つ、『殺影』────。
「刻んでやるぞ、シェル・ローズ…………ッ!!惨殺だッ!!」
1人の声が分身全てからも発される。
本来は1つしか作れない分身を、王族狩りは4つ作ってみせた。
誰にでも出来ることじゃない。
彼だから出来た。
幼い頃から神童と呼ばれるほどの才覚があり、歴代最強と呼ばれたほどの男に育てられた、彼だからこそ出来たのだ。
王族狩りは分身を使い、シェルに直接向かわせる。
4人の分身と王族狩りはそれぞれ全く違うフォームでシェルに斬りかかり、合計5人の王族狩りは一斉に攻撃を仕掛けた。
殺影は今回初めて使ったし、この極限の中でのイレギュラーだ。
"普通なら"…………慌てふためく。
"普通なら"…………どれが本物か迷う。
だが、
シェルは、本物の王族狩りだけを見ると、間髪入れずにいきなり球体を放ってきた。
「な……ッ!?」
予想外の出来事────。
予想外の切り返し────。
分身を完全に無視した動きに、王族狩りは対処しきれなかった。
今も尚、分身はシェルに攻撃を仕掛けているが、シェルは全く意にも介していない。
虚をつかれた王族狩りは、球体によって弾き飛ばされ、木の幹に背中からぶつかった。
「がはァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
口から血が飛び出し、危うく意識を失いかける。
あの不意打ち以来、初のクリーンヒット────。
体中が電撃を帯び、ほとんどマトモに食らってしまった。
王族狩りは前を見ると、シェルが剣の切っ先をこちらに向けている。
何をする気かはすぐに分かった。
「デデデでェェエエエエエエエエエエエエエエエん(電)ッ!!」
剣の切っ先から放たれる『雷撃砲』────。
横向きの雷は王族狩りにまっすぐ向かい、王族狩りは瞬動を使って瞬時に横へ避けた。
代わりに木が薙ぎ倒される中、王族狩りは辛くも体制を整える。
頭はパニック状態だった。
(何故、他が偽物だと分かった……ッ!?)
殺影で作り出した分身に見た目の違いは全く無い。
構えている武器から着物に付いたヨゴレまで、その全てが完全に同じ状態で作られるのだ。
見破られる要素はなかったはずだ。
「フハハハ……ッ!!ようやく攻撃が当たったかッ!!最初に受けた奇襲の借りは返せたかなッ!?」
シェルはその間に雷の球体を大量に作り、王族狩りに向かわせる。
高速で移動するそれらに、王族狩りはただ逃げることしか出来なかった。
まだ、反撃できるほど体が回復していない。
「特別に解説してあげようッ!!コレは僕の一番のお気に入りの技なんだッ!!僕は地面や木に微弱な電力を流して、敵の位置を瞬時に把握することができるッッッ!!」
王族狩りは逃げるさながら、体をピクリと動かした。
それには、覚えがある。
ありすぎている。
それは、その技は…………
「フハハハハハハハハハハハッ!!そうさァ……ッ!!覚えがあるだろうッ!?ありまくってるだろうッ!?"あの時"もコレが役に立ったんだッ!!お前らのようなコソコソ奇襲を狙う"卑怯者"には、正に効果抜群だったよッ!!」
一瞬、思考が止まった。
シェルが何を言っているのか分からなかった。
感情があまりに先立ち、言葉を上手く理解できない。
コイツハ、ナニヲイッテイル────?
「ま、待て…………。い、一体…………何を……」
「そうッ!!あの時もォォォオオオオオオオオオオオッ!!貴様らを追い詰めるのは容易い"作業"だったよッ!!僕はまだ子どもだったからコレだけに集中させられて、とても退屈だったんだッ!!父や皆が羨ましかったよッ!!弱者をコソコソ追い回すことしかできない強者気取りの"バカども"を蹂躙するなんて……ッ!!とても唆るじゃないかァッ!!」
プツンと、何かがキレる音がした。
心が割れるようだった。
ドス黒い感情が爆発して渦を巻き、体中が熱で燃え上がって、呼吸すら止めてしまいそうだった。
コイツの…………コイツノセイデ────。
「だからこそォォォオオオオオオオオオオッ!!お前ら"負け犬"を取り逃がしていたことがッ!!僕には耐えられないッ!!せっかく言いつけ通りにしてやったというのになんてザマだッ!!もう『三谷は全滅させた』と世界中に言いふらしてしまったんだぞッ!!」
「シェル・ローズ……ッ!!貴様ッ!!貴様ァァアアアアアアアアアアアッ!!」
「アハァーッハハハハハハァァァアアアアアアアアアッ!!まぁ…………?男しかいない我が軍に、女どもだけは兵たちを存分に楽しませてくれたみたいだから、そこだけは感謝してやらなくっちゃなァ!!ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
ドォォォォオオオオオオオオオオオッ!!
その瞬間…………
王族狩りから強烈な殺意が放たれ、空気が凍り付いた。
息を吐く度に空気が震撼して、まるで時が止まったような錯覚すら覚える。
シェルがわざと言っていることくらいは分かっていた。
コレはわざとそう仕向けられているのだと、それくらいはちゃんと理解していた。
挑発されていることなど、百も承知だった。
シェルはそんな中でも攻撃を止めず、相変わらず笑いながら、容赦なく王族狩りに雷の球体を放ち続けてくる。
逃げに徹する王族狩りを仕留めるために…………
シェルは、攻撃のチャンスを待っているのだ。
怒りに身を任せた、王族狩りの渾身の大振りを、シェルはずっと待っていて、王族狩りは待たれていることすら分かっていた。
だが、
しかし、
でも、
「抑え切れるわけッ!!ないだろうがァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
王族狩りの周囲から強烈な大風が吹き荒れる。
"父"たちの気持ちが分かった。
"あの時"も、きっとそうだったのだろう。
きっと、苦渋の末に、我慢の末に、抑えきれなかったのだろう。
国を愛し、一族を愛し、仲間が大好きだった父にとって、それは身を裂くような決断だったに違いない。
王族狩りは、いや、"三谷恭司"は…………
ふと動きを止め、仮面を外す。
その奥には、秀麗で整った顔があった。
目も鼻も口も女性のように綺麗でありながらも、成人男性らしい男らしさも持っている。
その表情は、憎しみに完全に支配された…………鬼の形相だった。
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