【第六話】王族狩り ⑥


「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!アヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



笑う度に、シェルの剣撃は重く鋭くなっていった。


より精密に、より力強く、より鋭利的に、より狂気的になっていった。


シェルは大口を開け、雄叫びを上げる。


いつもの皇太子としてじゃない。


素のシェル・ローズが、そこにいた。



「楽しイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…………ッ!!楽しいなァ、王族狩りィ……ッ!!こんな興奮めったと味わえないッ!!まさかこの僕とッ!!1対1で渡り合うなんて…………ッ!!」


「気色悪い……ッ!!さっさと死ね、この戦闘狂がッ!!」



王族狩りは怒りに声を荒げつつ、目にも留まらぬ連撃を仕掛け続けた。


刀身など傍からは一切見受けられず、それどころか王族狩り本人の姿すら見えない。


瞬動で風のように動き回る上に超高速な技を常に連撃しているのだ。


普通なら、もう数えきれないほど殺している。



(くそ…………ッ!!くそくそくそくそくそ……ッ!!何をヘラヘラしているッ!!何をゲラゲラと笑っている……ッ!!俺が……ッ!!俺が、この時をどれだけ待っていたと思っているんだッ!!)



王族狩りの攻撃は苛烈さを増すばかりだった。


力強さはどんどん増していき、速さもまたどんどんどんどん速くなっていく。


シェルも流石に手傷を負い始めたが、それでもシェルの笑みは消えなかった。


より不気味に、より気持ち悪く、より悪魔的になっていった。


王族狩りに合わせてシェルの剣身もまた速く動き、力強くなって、雷迅の速度も上がっていく。


────シェルは、この戦闘で成長を始めていた。



(あぁ……ッ!!この時間が…………ッ!!もっともっと長く続けば良いのに……ッ!!)



高鳴る鼓動────。


蓄積される経験値────。


この殺し合いの中、シェルのテンションは上がる一方だった。


いなかったのだ。


今まで。


シェルと渡り合える人間は────。


幼き頃から天才で、武力だろうと学力だろうと権力だろうと誰も叶わない存在であることに、シェルはいつも退屈を感じていた。


渡り合えるのはディオラスの『ティアル・サーライト』か、メルセデスの『ウィズ・ローゼス』くらいだと思っていた。


でも違った。


ここにいた、宿敵は────。


シェルはさらなる雷を纏い、攻撃する。


次の段階だ。



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!興奮がァ……ッ!!興奮がもう……ッ!!止まらないイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」



すると…………


シェルを纏う雷の量が急激に増加した。


雷迅で既に纏われていた雷がさらにその密度と大きさを増し、凄まじい圧力と衝撃が走る。


足からもそれは放出され、地面にも多くの雷が走り回った。


王族狩りはそれを見て上に跳び、一旦木の枝に着地する。


あからさまに危険な気配がした。



「コレは褒美だ……ッ!!雷の本当の恐ろしさを見せてやるッ!!まだ誰にも使ったことがない"トッテオキ"の技だッ!!」



すると、


シェルの体を纏っていた雷が少しずつ空気中に浮かび始めた。


丸い球体の姿で空気中に浮かび上がるその姿は、まるで雷で出来たシャボン玉のようだ。


それは徐々に数を増やしていき、シェルの周りはその球体で埋め尽くされていく。


その使い道は明白だった。



「チ…………ッ!!」



王族狩りはそれを見ると、すぐに刀を振り、攻撃を放った。


枝の上から放たれるは大量の大三日月。


即座に用意されたその数は20にも及ぶかもしれない。


シェルは構わずに剣を王族狩りに向けると、球体はその全てが凄まじい速度で宙を走った。


狙いはもちろん王族狩りだ。


球体と三日月は互いが凄まじい速度で接近し合い、そのちょうど中間辺りで、衝突する。


球体は三日月にぶつかると、その瞬間に破裂の連鎖を始めた。



「ハハァァアアアアアアアッ!!やるねッ!!」



雷の球体と風の三日月は戦場の至る所で激しくぶつかり合うと、パパパパパパッと強烈な破裂音が鳴り響いた。


同時に球体は目を覆うほどの白い光を放ち、景色がいきなりホワイトアウトする。


────普通なら混乱する場面だ。


辺りに響き渡るほどの巨大な破裂音は両者の耳を塞ぎ…………


目を覆うほどの白い光は両者の視界をも奪っている。


耳と視界が回復するまで、『一旦待つ』のが通常の判断────


"普通"の考え方────。


そう、


"だからこそ"…………


両者は仕掛けた。



ガァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!



よりにもよって破裂する球体の下で鳴った轟音────。


剣と刀が強い力でぶつかり合った音────。


両者は、そこにいた。



「ハッハァ……ッ!!考えることは同じかァッ!!」


「チッ!!」



シェルと王族狩りは地に足を着けて刃をぶつけ合っていた。


視界も音も塞がれた状況で、互いに奇襲を仕掛けたのだ。


最も危険なルートを敢えて選ぶ辺りも同じだった。



「興奮するね……ッ!!僕たち気が合うじゃないかッ!!」


「うるさいッ!!」



刃同士がぶつかり合うと、両者はそれぞれが後ろに下がり、再び刃の切っ先を向け合った。


そして、


放たれるは風撃砲と雷撃砲。


ほぼ一瞬の交錯の中で、即座に打った次策まで一緒だった。


それを見てシェルは笑い、王族狩りは怒る。


両者の戦いはそこからさらに激しさを増し、再び刃同士のぶつかる音が至る所で響き合った。


瞬動と雷迅で空中を意のままに移動する両者は、凄まじい速度と共に何度も刃を交わし合う。


そこに三日月と球体が新たに生み出され、ぶつかり合って、状況は既に人の域を超えていた。


破裂と剣撃の音が混ざり合い、衝撃と金属音が重なって、この戦場にはもはやどこにも逃げ場が無いときている。


風神と雷神が喧嘩しているかのような光景だった。

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