【第六話】王族狩り ⑤
「過去のことは知らん……ッ!!僕はまだ幼かったんだッ!!よく分かってなかったし仕方ないだろうッ!!」
王族狩りは素早く着地すると、体をワナワナと震わせた。
言葉を遮って攻撃してきた挙句にこの物言いに、我慢の限界はとうに飛び越えている。
王族狩りから放たれる殺気はより密度を増し、場は凍えるような殺意の嵐に呑まれた。
「もう死ね……ッ!!肉片すら残してやると思うなァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
三谷の奥義が一つ、『風撃砲』────。
王族狩りの刀の切っ先から横向きの竜巻が放たれる。
シェルもまた剣の切っ先を向け、横向きの雷を放った。
シェルの雷技が一つ、『雷撃砲』────。
ダァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!
両者の放った攻撃はちょうど中間地点でぶつかり合い、凄まじい衝突音と衝撃が響いた。
膠着したかに見えたその戦況はすぐに移り変わり、両者ともにその場から姿が消え、別の場所で剣と刀が鍔迫り合う。
『瞬動』と『雷迅』────。
両者とも同じ動きで牽制し合い、それは次なる戦いを呼んだ。
さっき放った風撃砲と雷撃砲が互いに破裂し合う中、両者は至る所で金属同士の衝突音を響かせる。
瞬動と雷迅による高速の斬り合いだった。
「まさかとは思うが、自分ばかりが不幸だとでも思っているのかッ!?貴様は既に……ッ!!僕が用意した精鋭500人を細切れにしたじゃないかッ!!お互い様だろうッ!!」
「黙れ……ッ!!」
もはや傍からは見えないほど圧倒的速度で戦う両者は、戦場を見るも無惨なほど無茶苦茶にしていた。
瞬動と雷迅に、風撃砲と雷撃砲────。
似たような技が両者ともに繰り出される中、地面が建物が次々と破壊されていく。
地形はあっという間に以前と別物になってしまい、決着はなかなか付かなかった。
轟音と衝撃が辺りに響き渡り、森がどんどん死滅していく。
さらには、
刀術と剣術の達人同士による、風と雷の乱舞で、ミッドカオスはかつてないほどの大地震に苛まれていた。
地面がガタガタと縦揺れし、空気が津波のように波打って、もはや景色が歪むかのような有様だ。
天災と言ってもいい。
自然現象をも操る両者の戦いにより、ミッドカオスは生まれて初の災厄による恐怖の只中にあった。
しかし、
シェルは"そんなこと"は意にも介さず、雷迅で王族狩りとの戦闘を継続しながら、"周り"の戦力を確認する。
森の中に配置していた"戦力"は、上手く機能しているようだった。
シェルは内心でほくそ笑む。
ミッドカオスの真骨頂は、あくまで"集団戦"だ。
「貴様に面白いものを見せてやろう……ッ!!単身で乗り込んできたことを後悔するがいいッ!!」
すると、
シェルはおもむろに手を上げ、その瞬間に森の中から数多のミッドカオス兵が出てきた。
「何…………?」
王族狩りは苛立ちの視線を彼らに向ける。
しかし、
次の瞬間にはその目を見開くこととなった。
100名以上いるであろう彼らの手には、その全員に『銃』が持たされていたのだ。
「ハハァ……ッ!!銃くらい見たことあるだろうが、これほどの数は初めてだろうッ!?」
途端、
兵たちの持つ銃から数多の弾丸が飛び出した。
銃の存在は知っていたが、これほどの数は確かに初めてだ。
銃は1つ製作するのに多大なコストと時間、労力が掛かり、"普通は"それほど用意できない。
だが、
ここには少なく見積もっても100は用意されている。
世界一の人口を持ち、奴隷制度を用いて何千という人間を使い潰しにするミッドカオスだからこそ出来る所業だった。
しかし、
「鬱陶しいわァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
王族狩りは自身から強大な烈風を放つと、それらを全て吹き飛ばしてしまった。
弾丸はそこらに弾け飛び、中には跳ね返って兵士を襲うものもあった。
だが、
シェルの狙いはここからだ。
銃が通じないことくらいは想定内────。
欲しかったのは、それを防いだことによる"隙"だ。
「ハハハハハハァァアアアア…………ッ!!もらったぞッ!!」
王族狩りが烈風を放った瞬間を狙った攻撃────。
最速の雷技。
雷撃砲────。
「……ッ!!」
王族狩りはすんでのところで気が付き、直接の刀身を雷撃砲にカチ当てた。
三日月ではなく直接の刀身なのだ。
勿論、そっちの方が強い。
王族狩りは雷撃砲を真っ二つに斬り捨てる。
そして、
嫌な予感がして即座にその場から移動した。
途端に背中から感じる気配────。
すると…………
ドォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!
王族狩りのいた所に、2度目の雷撃砲が通り過ぎた。
少しでも移動に時間をかけていれば死んでいただろう。
王族狩りは背後に回っていたシェルを睨み付ける。
銃も雷撃砲も囮だったのだ。
本命はシェル自らの背後からの奇襲だった。
「ほぉ…………」
シェルは思わず声が出るくらい、驚きを隠せなかった。
突然の第三者の介入に、100あまりの銃というサプライズ────。
タイミングも完璧だった。
お膳立てはしっかりしていた。
決まったと、そう思っていたのに────。
「ハハハ……ッ!!楽しませてくれるッ!!」
2人の戦いはそこからさらにヒートアップしていった。
再び瞬動と雷迅による高速戦闘が巻き起こり、現れた兵たちはその巻き添えで悉くが死に絶えていく。
血が湧き立ち、肉が踊り、常に命が危険に晒される中、シェルは頬の緩みを止められなかった。
こんなことは初めてだ。
こんな感情は今までになかった。
ヤればヤるほど、刃を交わせば交わすほど、シェルの股間はハチ切れそうなほどに膨らんでいく。
シェルは笑った。
「ハハ…………ッ!!ハハハハハハ…………ッ!!」
そう、
互角────。
互角だったのだ。
2人の戦いは益々苛烈なものとなっていき、衝撃と轟音はさらに加速と増加の一途を辿っていく。
それは目にも明らかなほど狂気的で破壊的になっていき、どんどん速く強くなっていった。
雷と風────。
皇太子と復讐者────。
剣と刀────。
相反する属性を持つ2人だが、戦闘における実力はほぼ同じだったのだ。
笑いが止まらない────。
兵たちが犠牲になったことなど頭の隅にもないのだろう。
今この時、
世界中でもよほど高いレベルで、2人の刃は激突し合っている。
その興奮に、
シェル・ローズは、ただただ笑った。
「ハハ…………ッ!!ハッ!!ハッ!!ハッ!!ハッ!!ハハハハハハハハハハハハ…………ッ!!イイねッ!!すごくイイ……ッ!!素晴らしいネッ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
「何を笑っている…………ッ!!」
激昂する王族狩りを前にしても、シェルは笑い続けた。
その声はひどく歪で、不気味で、気持ち悪くて、悍ましい。
いつもとはあまりに違っていた。
いつもの退屈なソレとは雲泥の差だった。
民衆に見せてきた、英雄的な笑い────。
大臣や官僚に見せてきた、余裕のある笑い────。
父や王族に見せてきた、王族としての笑い────。
全部違う。
コレがシェルの本来の姿。
ただの素の笑いが込み上げ、シェルは絶好調だった。
もう、オ サ エ キ レ ナ イ ───、。
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