【第十五話】鋼鉄山 ⑦

「フハハハハハハ……ッ!!"邪悪"に……"悍ましい"……ねェ……?クククク……貴様のような輩がよくぞそんなことを言えたものだ。このワシの方こそ、貴様以上に薄汚い人間は見たことがないぞ。他人のことを言う前に、まずは自分のことを見つめ直したらどうだ?」


「……………………」



スパイルは敢えて返答せず、先に状況を見回すことにした。


ホワイトウッドの目の前で、2対2で面と向かっているこの状況ーー。


退路はなく、ホワイトウッドの光で視界も明るいーー。


逃げることなど出来るはずはないし、恭司はそもそも、ビスを前にして逃げるつもりなどないだろう。


ビスを殺すまで、絶対にここを離れないはずだ。


スパイルはどうしたものかと色々と解決策を考えてみるが、アイデアは一向に何も思い付かない。


というより、


もっと大きな疑問が邪魔をして、上手く思考が回らないと言う方が正しかった。


ディオラスもミッドカオスも、ついさっき見た通り、今はドラルスにいるはずなのだ。


それなのに……


何故その両国の顔役が、こんな所に並んでいるというのかーー。



「フハハハハハハハハハハッ!!だが、まぁいいッ!!ワシにとって、この状況は正にチャンスだからなァ!!最初"成り行き"でこうなった時はずいぶん気に食わない命を受けたと思っていたものだが……ッ!!まさかここにお前がいるなどとは夢にも思ってなかったぞッ!!ようやくこのワシにも、運が回ってきたということだなァァァァァァァッ!!」



ドーバーはそう言って急にテンションを上げると、途端に強烈な殺気を放ってきた。


刺々しく、悍ましくて不気味で不穏な殺意ーー。



「「ッ!!」」



恭司とスパイルは揃って身構える。


体を突き刺すような鋭利な殺意が場を包み、殺伐とした雰囲気が山を呑み込んでいた。


もはや問答無用の空気だ。


こうなっては、有無を言わさずに戦闘を始めるつもりなのだろう。


会話など必要ないと言わんばかりだ。


そして、


そんな中、


恭司もまた、スパイルの制止の手を押し退け、前に出る。



「ドーバー・シブリス……。お前は今、"成り行き"と言ったな……?つまり、俺たちがいると分かってきたわけじゃないってことだ……。一体何の目的で来たのか、早急に答えろ」



こういう時は、スパイルよりも直情型の恭司の方が話を進めやすかった。


下手に言葉で様子見など挟まなければ、相手を見て空気も読まないが故に、恭司の思考は基本的にシンプルだ。


殺るのか殺らないのかーー。


元々、それにしか興味が無い。


ドーバーはそんな恭司を見ると、スパイルに向けて進めていた足を止めた。

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