【第十五話】鋼鉄山 ⑤

「すげぇだろ?この木の名は『ホワイトウッド』ーー。世界で一番大きな木だ」



神のことを信じない恭司だが、この光景には目を奪われた。


神々しく、神聖な雰囲気が漂い、この世の物ではないような気にすらさせられる。


世界にはこんな景色もあるのだと、少し感慨深かった。



「頂上が見えないな……。まさか、こんな木があったとは……」


「ハハハ。敢えて黙っていた甲斐もあったな。この木は年中発光してるから、夜になってもかなり明るいんだぜ?だから、奇襲や夜襲にも対応しやすい」


「なるほどな……。ならしばらくは、ここでアイツらがどう出るかを見守っておくとするか」


「あぁ、そうだな」



そうして、


2人はホワイトウッドにもたれかかった。


目の前に広がる絶景を見ながら、久方ぶりにのんびりと体を休める。


五体満足で平和に誰かと過ごすなど、かつての恭司には考えられなかったことだ。


復讐心で満たされた心が、ここにきてほぐれていくような心地すら感じるーー。


思わず、口を開いた。



「スパイル……」


「ん?」



恭司に呼びかけられて、スパイルは顔を向けた。


風がいい感じに吹き去って、穏やかな空気が流れている。


まるで告白でもされそうな雰囲気だ。


スパイルは不思議そうな表情で、その言葉に耳を傾けた。



「お前と出会えて良かったよ。お前となら……もしかしたら俺も"変われる"かもしれないな……。復讐は止められないが、こんな風に俺が日本国の人間以外と一緒に連れそう日がくるとは思わなかった。だから……感謝している」



スパイルと出会ってからというもの、恭司には色々と変化があった。


スパイルの忠告を素直に聞いたり、他人を案じてその通りにしてあげたりと、以前までの恭司では考えられなかったことが、ここ最近になって明らかに増えてきているのだ。


変化の時期を考えても、おそらく恭司はスパイルのことを、"信頼しつつある"ということなのだろう。


それは、日本国以外の人間を受け入れられない恭司……いや、三谷一族には、非常に珍しいことだった。


恭司がスパイルと戦った時に感じた感覚は、間違っていなかったということなのだろう。


スパイルはポリポリと頭を描く。


こんな風に面と向かって言われると、正直、照れ臭かった。



「よせよ……。なんか小っ恥ずかしいわ……。まぁ、なんだかんだで俺ら相性いいのかもな。お前といると退屈もしねぇし、なんだ……今後とも宜しく……だな」


「あぁ、そうだな……」



優しい雰囲気が流れこむ。


どこまでも心地よく、温かな気持ちが胸を占めていた。


コレが、『仲間といる』ということなのだろう。


恭司にとっては、三谷一族で過ごしていた時以来、久しぶりのことだった。


このままそんな時間が続けばいいと、そんな風にすら思った。


だが……



「「ッ!!」」



そんな穏やかなひと時は、そう長くは続かなかった。


突然感じた、『異質』な気配ーー。


ほのかに混じる殺意ーー。


2人は即座に立ち上がり、構えた。


さっきとは違って、今回は明確に2人に向けて敵意を放たれている。


突然感じたということは、それまでは気配を消していたのだろう。


恭司は霧の向こう側を睨み付けた。

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