【第十五話】鋼鉄山 ④

「おっ、この辺なら、街の様子も見えるんじゃねぇか?」


「………………」



頂上へ到達する手前、スパイルはそう言って立ち止まった。


標高的にも、もう相当高い所まで来ている。


振り返ると、下界がかなり小さくなっていた。


普通なら遠すぎて見えないほどの距離だが、2人の目なら多少は視認できる。


そこには……


森を覆い尽くすほどの大量の影が列をなし、その先頭が数多く街中に入り込んでいる姿があった。


ミッドカオスとディオラスが、ドラルスへの侵略を開始したのだろう。


ウィクシルの言う通り、このまま街をメチャクチャにするということはないだろうが、街中には大勢の捜索員を放っているはずだ。


シェルやティアルなら、それを必ず実行する。


一度逃がした恭司とスパイルを、今度こそ確実に捕まえるためにーー。



「相変わらず、遠慮ってもんを知らねぇんだろうなぁ……あいつら。壊滅まではしないでも、ついでに略奪くらいは絶対やってるぞ……」



スパイルは呟く。


恭司も同意見だった。



「だろうな……。おそらく、家や店を全て調べ切ろうとしているはずだ。普通に考えて、俺もお前もあそこ以外に逃げ場所なんてないようなものだからな。徹底的に調べるだろう」


「ウィクシルもあの店にいて大丈夫なのかねぇ……?来てほしくない奴には魔法で認識すらさせねぇって話だったが、今回は流石にアイツもヤバいんじゃねぇか……?」


「あの女については心配するだけ無駄だろう。おそらく、相当な腕前の持ち主だ。俺たちを頼るのが不思議なほど……な」


「あー、まぁ、確かにな。俺はあれほど胡散臭ぇ奴に会ったのは生まれて初めてだったが、確かに腕だけは間違いなさそうだ。一応、俺たち"同志"らしいから、せいぜい無事を祈っとくとしようぜ」


「……そうだな」



そう言って、2人は残り少しの道のりを消化した。


麓からはボヤけていた山頂がクッキリと姿を現し始め、辺りに霧が出始める。


不審に思って、恭司は足を止めた。



「何だ……?」



ここまでの道中で、霧が出てきたのは初めてのことだ。


視界が急に悪くなり、恭司は警戒して周囲を見回す。



「あぁ、コレはいつものことだから気にすんな。"この先の木"の前には絶対に出るんだ」


「……?」



恭司はスパイルの言葉に訝しさを感じつつ、歩を進めることにした。


頂上に近づくにつれ、霧は濃くなり、木々は少なくなっているように思える。


しかし、


それをある程度進むと、その霧も嘘のように晴れ晴れとしてきた。


そして、



「うっ」



霧を抜けた途端、


2人は真っ白な強い光に包み込まれた。


眩しすぎて思わず目を瞑る。


ゆっくり目を開けると、そこにはあまりに巨大な、光り輝く一本の木が立っていた。


真っ白に輝くその大木は、常識では考えられないほどの凄まじい大きさを誇っている。


天辺が見えないほどだった。


恭司は再び足を止めて見つめる。



「これは…………凄いな……」



木自体の高さは勿論だが、太さも凄まじかった。


直径で3キロメートル以上はあるだろうかーー。


常識では考えられないほどのサイズ感に、白く発光するその姿は、正に神々しさすら感じる。


何故か、スパイルが自慢げになった。

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