【第十五話】鋼鉄山 ③

朝ーー。


出会ってからもう何度目になるかのそれを、今日もまた迎える。


それだけ、2人で過ごしていることに馴染んできたということだろう。


だが、


今日の朝はいつもと様子が違った。


急に、体がピクリと震え、跳ね起きる。


突如感じた"異変"ーー。


2人が起きたのは、ほぼ同時のことだった。



「恭司……」


「あぁ、分かってる……」



ビリビリと、強く激しい殺気を感じた。


ここにいる2人に対してじゃない。


もっと遠くーー。


さっきまで2人がいた下の方から、それはヒシヒシと感じられた。


鮮烈で激しくありながらも、どこかねっとりしたような雰囲気ーー。


粘り気のある強い気配ーー。


それが、ここからずっと遠い所からまとわりつくように肌に付いてくる。


間違いなく、ミッドカオスとディオラスの連合軍隊だろう。



「いよいよご到着ってわけか……。嫌になるねぇ……。こんな所まで気配を滲ませてくるとは……」


「………………」



恭司とスパイルは、揃って山の下の方を見つめた。


木々に遮られて見えるはずはないものの、流石に気になるのだ。


仮に、避難するのがあと1日遅れていたとしたら、今頃2人はあの軍勢と真っ向からぶつかり合うことになっていただろう。


その辺りについては、正にウィクシル様々だ。


2人にとってはもはや、救世主とすら言える。


思わず、スパイルはため息を吐き出した。



「ウィクシルと出会わなかったら正直ヤバかったかもな……。奴らが手を組んだことも分からなかったし、俺たちの体も普通はこんな風に完治はしていなかったはずだ……。出来過ぎだよ。どっかで神様が俺たちのこと応援してくれてんのかと思うほどだ……」


「……………………」



恭司は沈黙する。


恭司は元々、神のことなど信じてはいなかった。


仮にいたのだとすれば、何故、日本国を滅ぼし、ミッドカオスなどという国をのさばらせたのかと延々に問い詰めることになるだろう。


この世界においては、善人がいい思いをすることなんてほとんどない。


悪人かすごい悪人しか成功者なんていないのだ。


恭司は、結局スパイルの言ったことに返答はしなかった。


代わりに、別の話をする。



「こうなれば急いだ方が良さそうだな……。出来れば上から奴らの様子も見てみたいし、少し歩くペースを上げよう」


「そうだな。それが良さそうだ。ここから先は一応、獣のことも警戒しといた方がいいぜ。無いとは思うが、一応……な」


「あぁ。分かった」



そうして、


2人は再び歩き始めた。


昨日よりもペースを上げ、早歩きでどんどんどんどん上へと上がっていく。


道も上へ行くに応じて険しさを増していったが、2人にとってはそこも相変わらず問題はなかった。


順調に山を登っていくと、とうとう山の頂上にも近づいてくる。


本来、この世界一高くて危険とされるディオドラス鉱山を踏破しようと思えば、上級者でも最低1ヶ月はかかると言われているのだが、2人は約2日でそれを可能としていた。


世界でもトップクラスの実力を持つ2人だからこそ、なし得た快挙だ。


当の2人にその自覚はまるでないものの、一応、世界レベルで賞賛されるほどの話だった。

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