【第十五話】鋼鉄山 ②
「あぁ、奴らは頭がいいから、よっぽど上にまで行かねぇと、俺たちには襲い掛かってこないと思うぜ?基本的に自分より強そうな奴には襲い掛からないんだ」
「ほぉー……知性があるのか?」
「あるぜ?言葉は分からねぇが、あいつらなりにコミュニケーションは取ってるっぽいしな。食う物が無くなると、たまに徒党を組んで街を襲ってくることもある」
「なるほど。それで危険……ってわけか」
「まぁ……そうは言ってもディオラスであいつらに遅れを取る奴なんて早々いねぇから、大概は臨時の食料として見られてるんだけどな……。この山の上の方にいる奴は強いとは言っても、それは他の奴に食事を持って来させているからであって、よほど腹が減ってねぇ限り、俺たちには襲い掛からないはずだ。ある意味、俺たちにとっては安全な山かもな」
「なるほど……」
そんなことを話しながら、恭司とスパイルは着々と上に上がっていった。
進んでいくほどに急斜面や崖などが多くなり、少しばかりハードルは上がっていったが、特に苦戦もせず、順調に行程を消化する。
ノンストップで進み続けたおかげで、夕方には山の中腹くらいにまで来た。
「よし、そろそろここで野営の準備に取り掛かろう。この山は夜になるとすげえ暗くなるからな……。下手したら木にぶつかって大怪我しかねないし、あんま無理しない方がいい」
スパイルはそう言うと、少し開けた所で立ち止まった。
恭司は不思議そうな顔をしている。
恭司にはまだまだ問題ないからだ。
「そうか……?まだまだ明るいと思うが……」
「夜目のきくお前と俺を一緒にするんじゃねぇよ……。この山の木は人の肉なんてザクザク斬っちまうんだから、それが常識なんだ」
スパイルはため息混じりに答える。
恭司は頷くことにした。
「なるほど。そういうことなら仕方ないな。まさか……お前に常識を諭される時がくるとは思わなかったが……」
「俺はいつだってお前よりはマシだよ……」
そうして、
相変わらずのスパイルの火で焚き火を燃やすと、2人は地面に座って、缶詰を食べ始めた。
ドラルスに向かう道中でずっとお世話になっていたこともあり、今ではちょっとだけ愛着も湧いてきている。
缶詰は、食べてみると意外に美味しいのだ。
「しかし……ホントに何も襲ってこねぇんだな……。麓からここまでだいぶ進んできたってのに……未だに1匹も見かけねぇとは……」
恭司はそう言って辺りを見回した。
2人の周りは静かなもので、木々以外は全くと言っていいほど何もない。
本当に獣がいるのか疑わしいほどだった。
「だから言ったろ?俺たちには無害だって。せめて頂上付近までは、そんなバカなことする奴は出てこねぇさ」
そう言って、スパイルは地に横になった。
ここの木ではもたれると背中が切れてしまうため、地べたに寝転がるしかないのだ。
恭司もまた、それに続く。
「まぁ、面倒がなくて何よりだ。退屈ではあるがな……。やることもないし、さっさと寝てしまおう」
「あぁ、そうだな。とりあえず今は、寝ぼけて山を転がってしまわないかだけ注意しとけよ。怪我するからな」
「あぁ、分かった。気をつけるよ」
「おう。なら、お休み……」
「お休み」
そうして、
ドラルス初日の夜は過ぎていった。
雲が月を覆い隠し、真っ暗になる。
そんな中でも、
ここでは特に見張りを置く必要はない。
襲ってこないというスパイルの言葉を、恭司もまた、信じているからだ。
出会った頃とは雲泥の信頼関係ーー。
恭司とスパイルは、もうすっかり仲間になってきている。
そして、
程なくして、2人は揃って寝息を立てた。
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