【第十三話】ドラルスの街 ⑩
「完全に執事だな……」
服を見て、スパイルは呟く。
タキシードのような見た目をしているが、素材的には伸縮性や頑丈さをメインにしているのだろう。
スパイルが本気でも出さない限り、破れたりすることもなさそうだ。
スパイルはその場で服を脱ぎ、早速着てみることにする。
店員がずっとその様子を凝視していたことについては、敢えて気付かなかったことにした。
スパイルは袖を通してみたそれを見て、感嘆の息を漏らす。
「おお……。ピッタリだ……」
店員はただスパイルの体を下半身と筋肉中心に撫で回しただけで、メジャーなどの道具は使っていなかったはずだが、作られたスーツはスパイルの体にピッタリと馴染んでいた。
キッチリした格好なのに使用者に窮屈さを感じさせない仕上がりーー。
やろうと思えば、このまま戦闘にも使えるだろう。
既製品だとこうはいかなかったはずだ。
作成までのあり得ない速度を考えても、流石は"変装に通じた職人"ということなのだろう。
これだけの品をこのスピードで作ってこられては、認めざるを得ない。
「オーダーメイドにした方がいい理由がよく分かったよ……」
要はクライアントの事情に合わせるということなのだろうと思った。
人によって求める物は違うが、使用される場面や"シチュエーション"にも合わせてくれるという訳だ。
つまり、
「俺が執事ということは……恭司は貴族様か?」
スパイルは尋ねる。
だが、
店員は人差し指をチッチッチッと左右に動かした。
やはり鼻につく……。
「正解は見てもらった方が早いわッ!!そっちの彼は、流石にここじゃ宜しくないから試着室に入ってもらうわよ!!」
そうして、
またしてもあれよあれよと恭司は店の奥へと連行されていった。
恭司は「え?え?え?」と、されるがままに部屋へと連れて行かれ、もう一人の従業員がその部屋に服を持って行く。
スパイルに続いて、もう出来たということだろう。
「手際のいいことで……」
スパイルはそんなことを呟きながら、黒髪の執事姿で、その光景を見守ることにした。
店の奥の試着室に押し込まれていく恭司を、不憫そうな目で見つめる。
だが、
恭司が部屋に入れられてから30分ーー。
見た方が早いということだったが、見るまでにずいぶんと時間がかかっていた。
着にくい服だったのだろうかーー。
スパイルがそんなことを思っていると、やがて、恭司はやけに恥ずかしそうにしながら、その部屋から出てきた。
色白の肌と華奢な体付きが際立つーー。
そこにいたのは、見たこともないくらいの清楚で可憐な"美少女"だった。
「お、おおー………………」
「……笑いたきゃ笑え」
部屋から出た恭司は、見れば分かるほどに顔を真っ赤に染め上げていた。
その装いは完全にスカート姿で、豪華なロングスカートに煌びやかなネックレス、白い手袋に金髪なカツラとーー。
いつの間に施されたのか化粧までされていて、どこからどう見ても『貴族の令嬢』だった。
スパイルが『貴族』と言ったことも当たってはいるが、『令嬢』だ。
店員がチッチッチッとやったのはこういうことだったのだろう。
性別を変えるとは、予想外だった。
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