【第十三話】ドラルスの街 ⑨
「あー、まぁ、そういうことなら、アンタの言う通りオーダーメイドでいい。観察眼は確かにあるようだしな。それで進めてくれ」
「ええ……。分かったわ」
店員はそう言って紙を取り出すと、何事か色々と書いていった。
スパイルの採寸を記入しているのだろう。
記入が終わると、さっきから後ろの方でガタガタと震えていた従業員にそれを渡す。
一応、店には2人いたのだ。
「大至急で取り掛かって。方向性はそこに書いてある通りよ」
店員に言われ、従業員はかしこまった様子で返事を返すと、奥に入っていった。
これから作るのだろう。
店員は、次に恭司の方を向く。
「次はアナタね」
恭司の体がビクッと震えた。
さっきのことがあったばかりだが、コレはコレ、ソレはソレだ。
店員にも職人としてのプライドがある。
実力差が大きいからと引っ込んでいては、こんな商売はやっていけない。
店員はスパイルの時と同じように恭司の方に歩み寄ると、同じように体を撫で回した。
恭司の体が再びビクッと震える。
スパイルの時に一度見ていたから尚更ーー。
恭司の表情は、羞恥に悶えていた。
こんな事態は初めてのことなのだ。
今朝のラブホテルといいコレといい、ドラルスに着いてからというもの、ロクなことがない。
「ふむ……。アナタの場合は……そこの彼とは方向性を変えた方が良さそうね」
店員はそんなことを言いながら、再び紙に何事か書き込んでいく。
どうやら恭司の方も採寸は終わったらしい。
2人とも完了すると、店員は次に、奥へと入って大きな箱を持ってきた。
中には色々と小道具のような物が入っており、パッと見では何のための物か分からない。
スパイルも首を傾げていた。
「それは?」
スパイルが尋ねる。
「アナタたちは見た目の個性が強すぎるからね。相手の目を眩まそうと思えば、服だけじゃなく、全身をコーディネートしなきゃいけないの」
「……?全身を?」
スパイルは首を傾げる。
店員は頷いた。
「そうね……。まずアナタの場合、相手がどういう印象持っているかというと……『金髪』『高身長』『マッチョ』『野蛮』『ディオラス人』『危険な香りのする訳ありっぽい人』よ」
「おい。所々にお前の主観入ってないか?」
「入ってないわ。とにかく、『高身長』と『マッチョ』はともかく、他は頑張れば雰囲気くらいはクリア出来るはずよ。だから、色々と小細工してみるってわけ」
「ほぉー……」
「だから、ちょっと弄るわね」
「え?」
そう言って、あれよあれよと店員はスパイルの見た目を弄くり回した。
顔にメイクを施し、黒髪に見えるようカツラと頭髪を弄る。
メイクとカツラのおかげで、ほのかに紳士っぽくなった……ような気がした。
「おお……」
隣で恭司が感嘆の声を漏らす。
正直、予想外だ。
確かに、色々と変わった気がする。
金髪の野性味溢れる野蛮な戦闘狂が、黒髪の紳士?っぽい感じになったような気がしないこともないような気がしなくもない。
「コレ……ホントにイケてるのか?」
スパイルは不安そうに恭司を見た。
色々変わったことくらいは分かるが、どう変わったかまでは鏡を見ていないので分からないのだ。
恭司は目線を逸らした。
「さァ!!最後はコレよッ!!」
そう言って、奥からさっきの従業員が服を持ってきた。
黒いジャケットに白いシャツーー。
どう見てもスーツだ。
しかも、
どこかの屋敷の執事のような、キチッとしたオーダーメイドのスーツだった。
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