【第十三話】ドラルスの街 ⑥

「いい?率直に言ってしまうとね……この街において、アナタたちのような客は珍しくも何ともないのよ。むしろ過半数だと言っても過言じゃないわ。理由は分かるわよね?」


「…………」



恭司は黙って頷いた。


何故なら、恭司とスパイルも"同じ穴のムジナ"だからだ。


この街の人口はそれなりに多いが、そのほとんどはディオラスやミッドカオスからの逃亡兵……あるいはかつての戦国時代の小国の生き残りで、多種多様な人種が当たり前に多く存在している。


その上、三大国のど真ん中にあるこの街はそれなりに商売をしやすく、ある程度の文化水準もクリアし、一般の商人や観光客にも人気な土壌を持っているのだ。


だからこそ"紛れやすく"、本当の所は2人のような、"後ろ暗い過去を持つ人間"こそが来やすい街になっている。


恭司は、スパイルの行動とこの店員の言っていることを、ようやく理解した。



「こんな街でお客様を他国に突き出したりしたら大事よぅ!!店の信用は地に落ちちゃうし、この『職人街』の主要客であるアナタたち"後ろ暗い人たち"に来てもらえなくなったら、こんな店、あっという間に潰れちゃうわァ!!その上、その噂が広がりようもんなら職人街からも追い出されちゃうし、何が悲しくってそんな自殺行為しなくちゃいけないのよッ!!」



店員の声は大きかった。


この職人街にとって、店員の言うことはまさに生命線なのだろう。


この街はそういう後ろ暗い者たちにとっての巣窟になっている一方で、そういう後ろ暗い者たちによって支えられている街でもあるのだ。


繁華街の明るさがこの街の光だとすれば、この職人街は闇の部分だと言える。


皆分かった上で、暗黙に了解した上で、この街は発展してきたのだ。



「なるほどな……。お互い持ちつ持たれつだからこそ、アンタらが俺たちを突き出すこともないし、逆にそう聞いていた方が要望にも応えやすいってことか」


「その通りよッ!!だから余計な心配なんてしないでほしいわね!!私なんて、ここを追い出されたら"風俗街"くらいしか行き場所無くなっちゃうんだからッッッ!!」


「………………」


「………………」



風俗街からは相手にされないだろう。


恭司とスパイルは、敢えて何も言わなかった。

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