【第十一話】ティアル・サーライト 17
「よぉぉぉぉぉ、ずいぶん長~い鬼ごっこだったなァ、スパァァァァァイル?ここに来ると思っていたぞ」
スパイルがティアルの屋敷に奇襲を仕掛けてからけっこうな時間が経っている。
あれだけ派手な技を行使した上に、ティアルの屋敷にいた人間はおろか、周りの民家も巻き添えにしたのだ。
さらにはティアルとの戦闘で恐ろしく沢山の人間の住処すら奪ってきた。
こんな対処が来るのは当然だろう。
罪状はとっくに確定しているし、もはやNo.4の権力どうこうの話ではない。
捕まれば処刑場一直線だ。
この場にはティアル以外にもNo.3やNo.5以下のほとんどが揃っており、ルドルフを除けば、ディオラスでも最高の戦力が集められている。
どうりで途中から思考する時間があったわけだ。
ティアルは途中から追うのを止め、待ち構える方向にシフトチェンジしたのだ。
全ては、スパイルをここで確実に始末するために。
「もう逃げられないぜぇぇぇぇ?俺様からは勿論、ここにいる奴全員がお前の敵だぁぁぁぁ。大人しく観念するんだなァ?スパァァァァァイル?」
ティアルはそう言って、集団の中から歩み寄ってきた。
冷静そうにしているが、まだ怒りが収まっていないのだろう。
顔は凄まじい形相で、舌舐めずりをしている。
ティアルはスパイルを、食うつもりだ。
「ハハッ!!ディオラス中の実力者がこうも勢揃いとは圧巻の一言だ!!嬉しいねぇ!?No.4に就任して早々、大人気だ!!」
スパイルは声を張り上げた。
虚勢の意味もある。
こんな、ディオラス中の強者をかき集めたかのようなオールスター相手に、勝てるはずもない。
(チッ……。やっぱりアイツも来ているか……)
よく見れば、いくつかの人間は静かにスパイルの背後へと回りこんでいた。
その中には、ディオラスのNo.3『ドーバー・シブリス』の姿もある。
スパイルの頬にも、思わず汗が滴り落ちた。
ティアルとドーバーだけでも死ぬほど厄介なのに、No.5以下の人間たちだって到底侮れる存在じゃない。
なんせ、他国に行けばその日中に役職持ちになれる実力者ばかりなのだ。
そりゃあ冷や汗も滴り落ちる。
スパイルは冷静に観察を続けた。
「おい……。テメェ、何のつもりだ?」
ふと、ティアルの冷たく、低い声が聞こえて来た。
警戒しているのだーー。
スパイルはニヤリと笑った。
「何……とは……?」
ティアルも他の人間も、囲んだだけですぐには襲ってこなかった。
ジリジリと距離を詰めてはいるものの、あくまでも慎重に事を為そうとしている。
それは勿論、
スパイルの持っている"樽"が気になるからだ。
「惚けるんじゃねぇ……。まさかとは思うが……この期に及んでまだ諦めてねぇっていうのか?まさかまさかとは思うが、この状況から逃げられるとでも思ってるっていうのか?正直、ここまで往生際が悪いとは思わなかったぞ……」
ティアルは相変わらずの低い声で、脅し混じりに話しかけてくる。
やはり鬼の形相になっているのはそのままだが、スパイルの能力と合わせ、どうしても気になるのだろう。
なんせ、
狙いは見たまんまだからだ。
「ハハッ!!人ってのは生きているから尊いんだぜ?死んだらそれまでだ。だから、俺は最後まで生きるために足掻くさ……。元々、お前みたいな奴に目をつけられちまった時点でッ!!俺の生き場所は失われちまってんだからなァァァアアアアアアアアアアアア!!」
スパイルは樽を放り投げた。
それは城壁に向かって。
城壁の前にいる人間たちの上にだ。
スパイルはすぐさま炎の槍を樽に向けて放つ。
すると、
ドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオン……ッ!!
樽から強烈な爆発が引き起こされた。
樽の中身は、大量の油だったのだ。
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