【第十一話】ティアル・サーライト 16
「~~~~~~ッ!!」
声は出せない。
出せば気付かれる。
ティアルは五体全てが超人的な感覚器官になっているため、ホンの少しの音だって聞き逃さないのだ。
本当に化け物だ。
本当に人間じゃない。
巨大で強大な殺意は未だ止まることを知らず、いつまでも背中にヒリヒリと感じ続けている。
だが、
ーーふと、衝撃波が止んだ。
あのプレッシャーが弱まった。
スパイルを完全に見失ったのだろうか?
そう思ったその瞬間、
上から何か気配を感じた。
「ッ!!」
スパイルは咄嗟に横へと跳ぶ。
その途端、
巨大な瓦礫が屋根を突き破って落ちてきた。
スパイルがさっきまでいた所を的確に、そのコンクリートの塊は降ってきたのだ。
ゾッと寒気が込み上げる。
ティアルは戦法を変えてきた。
民家の中だから状況は見えないが、予想はできる。
ティアルは、家を砕いて広範囲に投げてきているのだ。
(何でもアリか、あの野郎……ッ!!)
ティアルに住民を想う気持ちなんて無い。
さっきから民家を通っているにもかかわらず誰にも会わないが、皆ティアルのことを知っているため、早々に逃げ出しているのだ。
だからという訳でもないだろうが、ティアルには住民の家がどうなろうと関係なかった。
砕いてソイツが困った所で、ティアルに感じるものは何もないのだ。
スパイルも全く人のことは言えないが、コレが皇太子かと思うと、やるせなかった。
(いつか恩義を返すからなッ!!)
少したりとも感じてない感謝を旨に、スパイルは再び民家の中を走る。
もういくつの家を通ってきたのか分からない。
不法侵入もここまで堂々としたものはなかなか無いだろう。
だが、
スパイルがそんなことを考えている間にも瓦礫は再び飛んでくる。
スパイルの方向に飛んできているのは未だ居場所を掴まれているのか、それともただ広範囲に投げまくっているのかーー。
どっちとも考えられるが、スパイルはそれを考えないことにした。
こんな状況の中では、考えなくていいことは考えないに限る。
もうそろそろミッドカオス側の森も近い。
取り急ぎはそこまで行くのがゴールだ。
(急げ急げ急げ……ッ!!ティアルは絶対にまだ諦めてなどいない……ッ!!)
すると、
民家の中を通るさながら、キッチンを通った。
いくつも家を通ってきたが、キッチンを通ったのは初めてだ。
ふと見えたソレを、スパイルは瞬時に判断し、樽ごと担ぐ。
走る速度が落ちてしまうが、もうゴールは近いし、仕方がない。
スパイルは最後の家を通ると、ディオラスから森に出る城壁まで来た。
ここまでずいぶん長かったように感じる。
だが、
そこには最後の関門が聳えていた。
スパイルの目前にある城壁の前には、数多の兵士たちと共に、ティアル・サーライトがそこにいたのだ。
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