【第十一話】ティアル・サーライト ⑧
「お前も不幸な男だなァ、スパイル!!お前は別に何もしてねェのに!!何も悪いことなんてしちゃいないのにッ!!ただお前が生きてるってだけで困る奴がこんなにも沢山いるんだッ!!俺様がここまでしてお前を殺そうとした理由を話してやろうか!?きっと絶望するぞッ!!」
「いや、予想できるから遠慮しておくよ」
「カァーッカカカカカカカカカカカカカカカッ!!いやまァ、そう言うなよ!!俺様だって悪いとは思ってたんだ!!初対面なのにあんなにズケズケ言っちまって悪かったと思ってるんだよッ!!でも仕方ねぇだろう!?こんな弱肉強食の権化のような国でも、少しくらいは国としてのメンツもあるんだ!!いや、むしろコレが唯一と言ってもいいのかねェ!?こればっかりは流石の親父も許すわけにはいかなかっただろうさッ!!例えッ!!一度"見逃した"んだとしてもなァ!!」
「…………」
遠慮すると言ったのに勝手に話し出すティアルに、スパイルは閉口する。
スパイルは、叙勲式の玉座の間でのやり取りを思い出していた。
あの時……
ティアルがスパイルに詰め寄った時、ルドルフはティアルのことを"嗜めた"のだ。
自分に向かってくる奴だけを相手しろと、つまりは弱い者イジメをするなと、ティアルにそう注意した。
この、『弱肉強食』の国の創始者が、だ。
「あの一件でピーンときたね!!あぁ、こりゃ何かあるなってな!!調べてみたら案の定だった!!聞いてみたらすぐ答えたよ!!まぁ、特に隠してもなかったんだろうなァ!!あんな対応してたくせに、俺に言われたらすぐに認めたよッ!!そして俺に言ったんだ!!『殺したいか?なら構わない』ってなァ!!俺たちの父親は人の子だが、心は悪魔らしいぜッ!!子どものことなんて、ハナから大して気にしちゃいないのさ!!」
スパイルは思わず目を閉じる。
スパイルは昔から、ルドルフに憧れて育ってきた。
この国の創始者で、力の象徴のような圧倒的存在ーー。
ティアルの体と、スパイルの炎を併せ持つ化け物ーー。
その絶対的強さを追って、スパイルはここまで来たのだ。
今でも別に憎んでない。
こんな話を聞かされても、別段それで憎むほど、スパイルは苦しい思いをしたわけでもなければ、関わりがあったわけでもないのだ。
ただただ、
ルドルフの武勇伝に一方的な感情を持っていただけーー。
でも、
だからだろう。
だから、
悲しみの一方で、納得することも出来た。
この弱肉強食の国の創始者であるルドルフが、王自ら弱者と子を成してしまったことなんて、認めていいはずがないのだ。
「俺様も流石にその話には涙が出そうだったよ!!あぁ、なんて可哀想なんだと同情したさッ!!時と場合によっちゃあお前はもしかしたら皇太子だったかもしれねぇんだ!!母親さえ強けりゃ俺様とも張り合えただろうッ!!だが、コレが事実だ!!コレが結論だッ!!お前は結局カスみたいな平民の子で、俺は王族の子だッ!!このディオラスにおいて身分は飾りでも……ッ!!血は違うッ!!圧倒的才能に裏付けされた実力はッ!!全て血が物語るのさ!!お前じゃ俺には勝てねぇ!!そういう血が流れてねぇ!!所詮お前は!!弱者の子d」
「黙れッ!!」
ダァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
スパイルは咄嗟に炎の槍を放った。
ティアルの顔面に直撃したソレはティアルの口を塞ぎ、それ以上の言葉を押し留める。
スパイルの息遣いは荒くなっていた。
これ以上は聞きたくない。
これ以上は、抑えがきかなくなってしまう。
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