【第七話】逃走 ⑦

「カァーッカッカッカッカッカッカッ!!火柱が見えたんで、てっきりウチの逃亡兵かと思ったんだが、まさかこんな大物がいるとは思わなかったぜ、ええおい?まさかまさかでとんだ掘り出し物に出くわしたもんだ」



男はそう言うと、手を広げてビスに歩み寄った。


恭司のことは眼中に無いらしい。


ビスは怒りを抑えられないのかプルプルと身を震わせている。


そして、


不服そうに、名残惜しそうに、ナイフの矛先をその男に向けた。


恭司からすれば訳が分からない状況だ。


いきなりの第三者介入で、状況の整理がまるで出来ていない中、展開だけが進んでいる。


しかし、


ビスはその男に照準を変えていて、男自身はやる気満々の様子だ。


他に追手はまだ来ていないようだし、恭司にとっては都合が良い。


大チャンスだ。



「何故だ……。何故……貴様のような大物が、こんな所に……」


「カッカッカッカッ。まぁ、そうカリカリするなよ。成り行きさァ。別の奴探してる時に、"たまたま"見つけたんだ」


「たまたま……?たまたまだと……?」


「カカカカ!!そうさァ!!そうなのさァ!!いやね?うちの大事な仲間がちょっとばかしオイタが過ぎたんで追ってきたんだが見つからなくてねぇぇぇぇ。もう帰ろうかと思ってたんだが、そんな時に香ばしい戦闘の臭いが漂ってくるじゃねぇか。そりゃあ行くだろ?行くしかねぇだろ?もしかしたらそいつかもしれないし、仕方なかったのさ、カッカッカッカッ!!」



言ってる内容のほとんどは意味不明だったが、要は人探しでこの森に来た際、その人物と思わしき戦闘があったから来たということだった。


言動は軽く、話し方は気持ち悪くて、この展開も結局は道楽や暇潰しのようなイメージしか持てなかったが、それでも尚、この男自身の放つオーラは異常だ。


不気味や悍ましいだけでは説明がつかない。


見れば見るほど目を背けたくなり、声を聞けば聞くほど耳を塞ぎたくなる。


まるで邪神や悪魔のような男だ。


生理的に受け付けられなかった。



「まぁ?元々の目的だった奴は未だどこに隠れてるのか分からねぇが、"たまたま"見つけたコレは極上だァ!!なんせあのミッドカオスのバルキー近衛部隊の隊長様だからなァ!!そいつが見つからなくてもお釣りがくるよ!!サイコーだよ!!運命だよ!!こうなってはもうそんな奴どうでも良くなってくるくらいさァ!!ホンットーにありがたいと思ってるよ!!カァーッカカカカカカカカッ!!」



男の言葉に、ビスは相変わらず身を震わせながら、一瞬俯いた。


何かを我慢しているようだが、既に限界は越えていたのだろう。


プツンと何か切れたような音が聞こえたかと思うと、ビスは堰を切ったように顔を上げ、怒りを爆発させた。

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