【第七話】逃走 ①

「はぁ……はぁ……」



恭司は森の中をひたすら走っていた。


もうほとんど三谷の技は使えないし、疲労困憊な上に満身創痍で、意識は朦朧として目眩もする。


既に何度コケそうになったかも分からない。


このまま倒れればきっとそのままだ。


起きられる自信がない。


しかし、


そんな状況の中でも、恭司は足を止めなかった。


ここで死ぬわけにはいかない。


生き残って回復してから、また戻ってくるのだ。


この程度で諦められるほど、怨みも憎しみも浅くない。



「畜生……ッ!!畜生ォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」



だが、


悔しさはどうしたってつのる。


結局の所、恭司はシェルを始末は勿論、勝つことすら出来なかったのだ。


三谷の価値観的に、死んでないからまだ決定的な敗北というわけではないが、それもこのままだと危うい所だ。


今もなお血は止まらないし、頭痛や吐き気も絶え間なく襲ってくる。


体に力が入らなくなってくるのも時間の問題だろう。


何か手を打たなければならない。



(幸い、ここは森の中だ……。使える薬草は全て頭に入っている。それで凌ぐしかない)



昔の知識が役に立っていた。


まだ三谷として日本国にいた頃、止血に使える草木や、薬の材料になるものは全て頭に叩き込まれている。


これまでの10年間の修練も山の中で行ってきたし、森の中での生活は恭司にとって容易だった。


しかし、



(今は重傷を負っていて、三谷の技も使えない。そのうち追手もやってくるだろう。つまり、回復と隠密を常に並行して行わなければならないということだ……。なんて厄介なんだ……)



恭司は頭の中でそんなことを思いつつ、足だけは止めなかった。


それと同時に視線も動かし、良い物がないか探る。


このまままっすぐ行けば、隣国の『ディオラス』だ。


そして、


その前に右へ曲がれば、『中立都市』である『ドラルス』に入れる。


そこまで行けば、追手を躱して治療を受けることも可能だろう。


今の目標はそれだ。


だが……



(それまで、俺の体力がもたない)



どれだけ根性を振り絞ろうとも、現実的な肉体的損傷はどうしようもなかった。


薬草がタイミングよく見つかったとしても、それだけじゃダメだ。


症状を緩和するだけで、根本的な回復は望めない。


追手に見つからないよう身を隠しつつ、一時的にでも回復する必要がある。



(となれば……もう一択だな)



略奪と偽装ーー。


民家に紛れ、住民を殺して家に潜伏しつつ、治療に使えそうな物をいただくしかない。


病院や治療院なら尚ベストだ。


恭司は頭の中に地図を描き出す。


確か、ディオラスとの国境付近に"村"があったはずだ。

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