【第七話】逃走 ②

(取り急ぎは、それが第一目標だな……)



恭司は一旦の段取りをつける。


すると、


目当ての物を一つ見つけた。



「あった……」



カササギ草だった。


草から放出される成分で、出血を一時的に止める効果がある。


恭司はそこで足を止めると、手早く摘み取った。


即座に衣服を引きちぎり、包帯代わりにして、カササギ草を固定する。


これで、少しの間出血を止められるはずだ。



「……急がないと」



素早く処置を終え、恭司は再度走り出した。


止血出来たのは良いが、一時的なものに過ぎない上、他はまだ何も解決していない。


だが、


首都ともある程度離れたからか、求めていた薬草がチラホラと散見できるようになってきた。


恭司は再度足を止める。


今度はマルドキノコだ。


基本的には毒キノコだが、ちゃんと処置をして必要な所だけを使えば、頭痛や目眩などの症状を緩和できる。


恭司は手早くキノコの処置を行った。



(敵はいつ来るか分からない。まだ時間的に余裕はあるだろうが、瞬動が使えない今、急がないとな……)



恭司は再び走り出す。


このペースで走れば、一旦の目的地である『ヒューゴ村』には2~3日ほどだろうか。


瞬動の使えない今の現状がもどかしい。


今はただ、こうやって地道に走っていくしかないのだ。


ある程度離れたら休憩も取らなければならない。


今の体力ではずっと走り続けることは不可能だ。


なるべく離れた所で、体を休めなければならない。


そこが正念場だ。



(願わくば、敵の追手が愚鈍な兵士どもだと助かるんだが……)



休憩で足を止めた時点で、ミッドカオスから放たれた追手とは確実にぶつかる。


その時こそ勝負だ。


木の陰に身を潜め、何とかやり過ごすしかない。


しかし、


そんなことを思っている恭司の耳に、微かだが音が聞こえてきた。


キィィィィンと、空気を裂いて進むような音で、それはどんどん大きくなってくる。


恭司はギョッとして後ろを振り返った。


まだ走り始めてから1時間と経っちゃいない。


まさかこんなに早いとは、流石に思わなかった。



「クックックックックッ!!さぁて、どこかなァ?どこかなァ!?」



見ると、宙を滑走するナイフに足を置いた、『ビス・ヨルゲン』がそこにいた。


ビスは森の木々の上から、楽しそうな笑顔で森を見回している。


恭司は胸がザワつくのを感じた。


どうりでこんなに早かったわけだ。


ビスのことは恭司も知っている。


まだ幼かった、"あの時"ーー。


全てを失ったあの戦争前に、自分たちの前に2度も現れた男だ。


ナイフを湯水の如く宙に生み出し、空中を飛ばすことのできる超能力者で、最後は陰陽術まで行使していた。


そして……


そして何より、



(修吾おじさんの仇……ッ!!)



父の側近であり、優香の父親。


自分のことについても、産まれた頃から何度も世話を焼いてくれた人だった。


思わず自分の胸ぐらをグッと掴む。


思い出したら抑えきれなくなってきた。


コロシタクテシカタガナイーー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る