【第四話】三谷恭司 ⑥
「ん…………」
目が覚めた。
あまりに沢山の焼死体の中で、恭司はボンヤリと意識を覚醒した。
体はうつ伏せの状態で、手を地面に付き、そのまま這いつくばるように倒れている。
気怠さや痛みは特になく、健康そのものだった。
恭司はゆっくりと体を起こし、状況を確認する。
目が覚めたばかりで、何が何なのかまったく分からなかった。
何をどうしていたかもイマイチ思い出せない。
しかし、
周りを見渡して子どもたちの死体を見た瞬間に、恭司は全てを思い出した。
自分たちは、ミッドカオス兵ともども数多の砲撃で攻撃されたのだ。
「そ、そうだッ!!優香はッ!!」
恭司はすぐに確認する。
自分の倒れていた方向を、そこに向かっていたはずの視線の先をーー。
恭司は急いで確認する。
だが…………
「ハ、ハハハ…………。まぁ…………分かるわけ…………ないよな…………」
確認しても、あったのは黒々と炭化した焼死体の山だけだった。
あの時の時点で、優香の体は既に無かったのだ。
顔だけが炙られていた。
それらしい原型は既になく、他の数多ある焼死体の山の中に埋もれてしまっているようだった。
「くそ…………ッ!!畜生…………ッ!!!!俺が…………ッ!!俺が不甲斐なかったばかりに…………ッ!!」
自責の念が胸を覆い尽くす。
後悔や懺悔、悲しみや怒りが一気に溢れ出し、恭司は泣いた。
静かに、染み込むように、恭司は立ったまま涙を流し続けた。
仲間がいないーー。
修吾がいないーー。
優香がいないーー。
今までずっと一緒だったのに。
これからも一緒だと思っていたのに。
やはり涙は止まらない。
止め方が分からない。
今まで泣いたことなんてほとんどなかったから、どうしたらいいのか分からなかった。
「ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!皆ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!何で死んだんだ!!ずっと一緒だったのにッ!!これからも一緒のはずだったのにッ!!いつも…………ッ!!いつも一緒だったのにッ!!!!」
流れ出る涙は地面を濡らし、足元に黒いシミを作っていった。
もう返ってこない皆のことを想って、涙は服をビショビショにするほど流れ続けた。
声は木々を揺らすほど大きく、心に抉るような痛みが走る。
楽しかった頃の思い出がフラッシュバックし、辛くて苦しくて狂い出しそうだった。
もう死んでもいいと思った。
それくらい、恭司にとっては大切で当たり前で、かけがえの無いものだったのだ。
「はぁ…………はぁ…………。そうだ…………皆のお墓作らないと…………」
恭司はひとしきり泣き終えると、近くに墓を作り始めた。
今は簡単な物しか作れないが、父や他の生き残りと合流した後、立派な物を作ろうと、心に誓った。
皆の遺体を分かる範囲でなるべく多く集め、地面に埋めなければならない。
しかし、
そこで気付いた。
ようやく気が付いた。
あれだけ酷かった自分の体が、回復していることにーー。
「は…………?ど、どういうことだ?俺はあの時、ほとんど死にかけだったんだぞッ!?」
意識を朦朧とさせるくらい夥しかった出血が消えているーー。
体中を蝕んでいた酷い火傷も。
潰れていた内臓もーー。
焼け爛れた頭皮もーー。
全てが回復している。
皆のことばかりに意識が集中して、気が付かなかった。
「い、いや、おかしいだろう!!何で俺だけなんだ!!何でこんなことになっているんだ!!何で…………ッ!!何で俺だけなんだッ!!」
気付いてからはパニックだった。
あれから一体どれだけ経っていたのかは分からないが、こんな化け物じみた回復力など、恭司は持っていなかった。
本当だったら、あの時自分も皆と同じように死ねていたはずだったのにーー。
「何が起きているんだ…………何が…………」
状況を把握しようとすればするほど混乱した。
通常ではあり得ないことが起きている。
何かがあったのだ。
恭司の意識が無いうちに、ここで何かが行われた。
恭司はそんな中でもひとまず皆の墓を作り、動き出すことにした。
至急、確認しなければならないことが出来たからだ。
「俺は一体どれほど眠っていたんだ!!戦況は今、どうなっているッ!?」
改めて見てみると、あれだけの人数を殺した爆炎は、既に消えた状態となっていた。
死体はそのほとんどが灰になり、誰が誰なのか確認が難しいほど、"完全に終わった後"の状態になっているのだ。
自分が生きていることが一番の疑問だが、あれだけの火が森の中であれほど燃え盛ったにもかかわらず、ここまで綺麗に鎮火されているなどおかしすぎる。
人為的なものとしか思えないが、恭司が気を失っている間に一体どれほど経ったというのか。
(俺の意識がまだ残っていた時、父上の指揮のもと、日本国とミッドカオスの最後の激戦が行われていたはずだ。アレはどうなった?父や皆は無事なのか?)
悪い予感が次々と胸を打ち、止まることを知らなかった。
焦りが一気に吹き出し、足が勝手に急ぎ出す。
瞬動はほぼ自動的に発動され、恭司は森の中を一心不乱に駆け抜けた。
距離が離れていたのが憎らしい。
恭司は風のような速度で木々の間を突っ切り、急ぎに急いだ。
「くそッ!!くそくそくそ…………ッ!!何故俺はこんなにも遅いッ!!何故俺はもっと速く走れないんだッ!!」
ふと、恭一郎と修吾の背中が目に浮かぶ。
2人はもっと速かった。
こんなにゆっくりではなく、目に留めるのが難しいほど速くて早くて疾かった。
恭司は雄叫びを上げながら、足が千切れんばかりに全力で疾走し、しばらくして戦場に辿り着いた。
森の中で黒い広場になったそこに足を踏み入れ、息を切らしながら顔を上げる。
誰でもいいから、
ただそこにいることを、願っていた。
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