【第四話】三谷恭司 ⑦

「何…………でだ…………。何で…………」



辿り着いた先には、相変わらずの真っ黒な広場が広がっていた。


黒い焦げ跡が地面一帯を覆い、その上に大量の血液が至る所に振り撒かれている。


赤くて黒いその光景はドス黒く、あまり長く見ていると吐き気がしそうだった。



「何でなんだ…………。何で何で何で何で何で…………」



そんな広場の真ん中には、もはや夥しいほどの人間の死体が溢れかえっていた。


そのほとんどはミッドカオス兵で、奥にいくほど数が多くなっている。


一番奥では、死体が多すぎて山になっているほどだった。


バラバラになった人間の肢体が散らばり、


血は地面に池を作るほど流れ落ち、


血による赤色が、地面の黒色を見えなくしている。


そして、


その中でも最も大きい山の頂上に、"それ"はあった。



「何でそんなお姿になられているんですかッ!!父上えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」



一本の剣の柄に吊るされた、恭一郎の首。


剣は他の仲間の背中に突き刺された状態で、恭一郎の髪を無理矢理引っ張って柄に括り付けたようだった。


恭司は一も二もなくそこに駆け寄り、首だけとなった父を抱きしめる。


首だけとなった父親はとても軽くて、切り口から血が溢れるように流れ出てきた。


無論、死んでることは間違いなく、こんなことをしているくらいだから、死んだ後にも弄ばれたのだろう。



「嘘だ…………嘘だァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………」



よく見てみれば、その周りは三谷一族だらけだった。


女性も老人も多く混じっている。


皆刀を持って倒れているが、女性は全員裸にされていた。


一糸纏わぬ状態で、刀も取り上げられている。


どういうことをされていたかは想像に難くなかった。


ここで、陵辱されたのだーー。



「何故だ…………何故なんだ…………」



またしても口から零れ落ちる。


死体の数を見るに、三谷一族は100人ほどしかいなかった。


対して、ミッドカオス側の死体は10万を超えている。


元がどれだけだったかは分からないが、恭一郎たちはこの"数"にやられたのだと、恭司にはすぐに分かった。


ビスみたいな能力者も、決して1人や2人ではなかっただろう。


あのバルキーのことだから、もっと沢山いたはずだ。


ただの兵が10万程度なら、恭一郎の率いる三谷100人で負けるはずがない。


父や皆は、多くの強者と兵で、嬲り殺しにされたのだ。



「何で…………何…………で…………」



あまりに多くの涙を流した目から、今度は血が流れ出る。


「何で」を繰り返すばかりだった口が、ようやく次の言葉を思い出した。


あの時、皆が叫んでいた呪いの名ーー。


この事態を引き起こした悪魔の国ーー。


恭司は呟く。



「『ミッドカオス』…………」



声が怨嗟に満ち満ちる。


静かだが激しい感情がこもっていた。


この戦争で、恭司は独りになったのだ。


もう三谷はおろか、日本国民自体、誰も生き残ってはいないだろう。


皆死に、恭司以外は誰も残っていない。


今になって、修吾の言葉を思い出す。



【恭司君…………。長らく君を見てきて…………私は…………俺は、確信している。君こそが…………お前…………こそが…………三谷の王たる器だ。三谷の祖先に、最も祝福された者だ。


だから…………お前が証明してくれ。三谷は、間違って、いなかったことを…………。三谷は、最強であることを。


お前が…………お前が、やらなければならない。三谷の、日本国の祖先たちに最も愛された、お前、こそ、が、三谷の最強を証明、しなければならないのだ…………。


辛く険しい道のりも…………お前なら、きっと、成し遂げられる。長きに渡る三谷の"怨念"を引き継ぐお前なら…………きっと、きっと叶えられる。


待っているぞ…………その時を…………。皆と、一緒に、あの…………世で…………ずっと、見て…………いる。


頼んだ…………ぞ…………三谷、恭…………司…………】



「そうだ…………。約束した。約束…………したんだ…………」



この戦争で、日本国の三谷の誇りは既にズタズタに引き裂かれた。


何もかもを持っていかれた。


『最強』を奪われーー。


『仲間』を奪われーー。


日本国が誇っていた地位や名誉も失った。



「許さない…………許せない…………」



黒い感情が湧き出てくる。


血が沸騰しそうに熱い。


怒りが憎しみが抑えられない。


もう恭一郎も修吾も優香もいないのだ。


独りなのだ。


誰もいない。


皆死んだ。


復讐しないといけない。


皆の仇を討たなければいけない。


そして、


三谷の『最強』を、もう一度教え込まないといけないーー。


恭司は血で紅く染まった目を見開き、叫ぶ。



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!許さんッ!!決して許さんぞォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!ミッドカオスッ!!!!貴様らを滅するまでッ!!俺は死なないッ!!いつまでも追いかけてやる!!いつまでも…………ッ!!いつまでも殺し続けてやるッ!!貴様らの国に属していた者全てッ!!一族郎党の全てを皆殺しにするまでッ!!俺は死なない!!地を這ってでも貴様らを追い詰メ!!コロシテヤルゾォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



ーーこうして、ミッドカオスと日本国の戦いは終結し、日本国は消滅の時を迎えた。


日本国消滅の報せに世界中が歓喜し、近隣の諸国は心から胸を撫でおろしたのだ。


ミッドカオスは三谷を『全滅』させたことも強調し、それは世界を安堵させると同時に、ミッドカオスの強さも際立たせた。


次の標的になりたくない国々はこぞってミッドカオスの傘下に降っていき、ミッドカオスはさらに強大な国へと躍進していくことになる。



ーーーーだが、


世間はまだ知らなかった。


生き残りがいたことを。


三谷はまだ、終わっていなかったことを。


世間はまだ、誰も知る由もなかった。



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