【第四話】三谷恭司 ③

一方その頃、


恭司たち子ども勢は、森の中を一塊になって動いていた。


今は恭一郎も修吾もいない。


恭一郎が行った後、一時的に修吾もその後を追い、恭司たちは森の中に取り残されたのだ。


修吾はすぐに戻ると言っていたが、先ほど恭一郎が叫んだ言葉は子どもたちにも聞こえていた。


不安はどうしたって拭えない。


恭一郎や修吾のことが心配でならないし、自分たちも力になりたいが、恭司と優香だけならともかく、他の子どもたちを置いていくわけにもいかなかった。


修吾もじきに戻ってくるだろうし、恭司たちはひとまず木から下に降りて、警戒体制のまま待機している。


ふと、子どもの1人が言った。



「お父さんにお母さん、今頃どうしてるだろ…………。皆、大丈夫なのかなぁ…………」


「………………」



ここにいる子どもは全員で6人で、恭司が10歳で優香が9歳ーー。


他は6歳や5歳ばかりだった。


本来なら戦争はおろか、戦いにも無関係でいい年頃だ。


恭司はその子の肩に手を置き、優しく語り掛ける。



「大丈夫だ。皆の強さは知っているだろう?きっと、何とかしてくれる」



恭司自身も不安で一杯だったが、ここでの恭司は一番の年長で、三谷の次期当主だ。


弱った姿は見せられない。


ここで皆を率いずして、何が次期当主だ。



「うん…………。ありがとう。そうだよね。信じないといけないよね」



三谷の子どもたちは、年齢問わず基本的に素直だ。


通常ではおかしなほど、仲間を信じることに対して"疑問を抱かない"。


不安で口から溢れることはあっても、本心は常に仲間を信じ切っていた。


まるで遺伝子状そうなっているかのようにーー。


まるで何かの"呪い"であるかのようにーー。


昔からそう決まっていた。



「良かった…………。無事だったか」



すると、


何もない所から、いきなり修吾が現れた。


瞬動で移動してきたことは予想に容易く、特に驚くこともないまま、皆揃って頷く。


修吾は返答する間も惜しいのか、恭司と優香を除く子どもたち4人をいきなり担ぐと、口早に指示を出した。



「状況は何となく察しているな…………?我らは今すぐこの場から撤退し、逃げ延びる。当主様たちのことは心配するな。じきに合流できる」



修吾の言葉には感情が乗っていなかった。


まるで言わなければならないことをただ言っているかのようで、恭司たちはただそれに対して、頷くしかなかった。



「なら行くぞ。そのうち追手もやって来る。だから、今のうちに…………。……ッ!!」



修吾はふと茂みの方を見ると、ピタリと体の動きを止め、担いだばかりの子どもたちを下ろす。


子どもたちは未だによく分かっていない様子だったが、その答えはすぐに分かることになった。


修吾の見つめていた茂みの奥から、人影が現れたのだ。


ビス・ヨルゲンだ。



「こんにちは~」


「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁたお前か、ビス・ヨルゲンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンッ!!」



もはや3度目の襲来ーー。


またと言いたくなるのも頷ける。


要所要所で現れるこの男に、修吾はもう辟易していた。


殺さなくてはならない。


そう、


すぐにでもーーーー。



「やっぱり三谷の御当主様は強いね~。流石に勝てなかった。アンタも相当だが、アレほどではないだろうよ。だから、いっちょリベンジにと参った次第だ」


「@#?*☆#☆ッ!!」


「おっと、言葉になってないぜ~。言いたいことは分かるがこっちも仕事なんだ。バルキーの旦那に命令されちまった以上、動かなけばならないのが雇われの辛い所よ」


「フザッッッッッけるなッ!!一体何度邪魔をすれば気が済む!!貴様はッ!!貴様だけはッ!!ここでッ!!ブチここここここここここここ殺す!!」



そう言って、修吾は瞬動ですぐさまビスとの間を詰めると、刀身を上段から振り下ろした。


ビスはナイフを数本そこに展開し、攻撃を防ぐ。


そして、


その瞬間に修吾の腹を蹴り飛ばした。



「ぐほォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」



後ろに飛ばされる修吾ーー。


ビスが直接の攻撃を行ってきたのは、コレが初めてのことだ。


ずっと遠距離からだけだったのに、今回は直接行ってきた。


ビスは背後に再びナイフを展開する。


その数は100本、200本……ーー。


どんどん増殖していき、瞬く間に視界を覆い尽くすほどになった。


ビスは呟く。



「こっちだって…………ッ!!こっちだってなぁ…………ッ!!1度ならず2度もお前らを仕留め損なってッ!!昇進が危うくなってんだよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!もう本気でやってやんぞッ!!」



そう言うと、


ビスは相変わらずナイフを修吾に向けて放ち、何百にも渡って蓮撃を仕掛けてきた。


ナイフを放つ間にもナイフは新しく展開され、もはや何千ものナイフが飛び交い続ける。


修吾は相変わらずナイフを三日月で弾き飛ばし、刃の嵐を潜り抜けていた。


時折子どもたちに向けられるナイフ群も余裕を持って弾き飛ばし、やはり相変わらず当然に、その身には届かない。


しかし、


今回のビスの攻撃は、これだけに止まらなかった。



「術式ッ!!火焔ッ!!」



突如、


修吾の周りに展開されるナイフの中で、4つのナイフがいきなり光り出し、その4つは修吾を囲む形で四角形に展開された。


危機を察した修吾は上に跳び、


その瞬間、


四角形の間で火が燃え上がる。


ナイフを術符代わりにし、"術"を放ってきたのだ。


修吾も肝を冷やした。



「避ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオけやがったかァ!!上手く隙を付いたと思ったのにィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!次いくぞォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」



そう言って、


ビスは相変わらずナイフを繰り出してくるさながら、ナイフに括り付けた術符をもとに何度も術式を繰り出してきた。


ビス・ヨルゲンは、ナイフを空中に展開できる超能力者であると同時に、術式を駆使する陰陽術師だったのだ。



「さぁさぁッ!!どんどん行くぜェ!!どんどんやるぜェ!?」



それからは圧倒的だった。


繰り出されるナイフ数百本でも十分すぎるほど厄介なのに、そこに陰陽術まで組み合わせてくるのだ。


何度も火が上がり、何度も無数の刃が襲う中、修吾は辛くも凌いでいた。


瞬動で移動しながら三日月でナイフを弾き、目にも止まらぬスピードで敵を撹乱する。


ビスの目にも焦りの色が見えてきた。



「くそォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!何故、死なねェ!?何で避け続けられる!?この化け物がッ!!なら、そこにいるお荷物から狙うまでだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



ビスは標的を子どもたちへと変えた。


ナイフが一斉に子どもたちへと向かい、恭司と優香は構える。


しかし、


修吾は瞬動と乱れ刃を駆使し、それすらも弾き返してしまった。


ビスはたまらず地団駄を踏む。



「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんだ、テメェはッ!!恭一郎の側仕えの分際でェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」



ふと、


ビスが怒っている最中、


修吾は恭司に近づくと、一つの巻物を手渡した。


その巻物は分厚く、厳重に封がなされていて、簡単には開かないようになっている。


恭司はよく分かっていない様子で、修吾の顔を見た。


今のはある意味攻撃のチャンスだったはずだ。


なのに、


わざわざ敵に背を向けてまで自分の所にきて、こんな物を渡してきた。


動転して言葉は出なかったが、恭司は修吾の目を見る。


その目は、これから行う全てのことを語っているようだった。

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