【第三話】雷の悪夢 ③

「な……ッ!?」



再び飛び出る驚愕の声ーー。


雨雲の位置は自分たちの真上だ。


このままだと本部隊に直撃する。


恭一郎は力の限り叫んだ。



「全員退避ーーッ!!ここに落ちるぞォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」



その瞬間ーー。


目の前が真っ白に染まった。


あまりに一瞬な雷撃が空から降り落ち、日本国の仲間をあっという間に消し炭に変えたのだ。


残っているのは恭司やユウカに恭一郎、そして数少ない部族の人間たちくらいーー。


ほとんどはこの雷で死に絶え、家の庭は半壊した。


恭一郎は自戒のあまり口から盛大に血を噴き出す。


歯を噛みしだきすぎたのだ。


それでも、恭一郎は尚も叫ぶ。



「全員森へ逃げろーーッ!!隊列などない!!ただただ逃げるのだ!!」



もう分からなかった。


何が正解で、何が不正解なのかーー。


とりあえず分かったことは、敵は自然現象をも操れるということだ。


雷を意図的に発生させられるということだ。


こんな事が出来るのならもっと早くに壊滅させられていたはずだが、それをしなかったのは計略か隠蔽のためかーー。


どちらかと言えば後者の方が有力だろう。


雷を操るなど、おそらくミッドカオスにとって最大級の切り札のはずだ。


それをここで使ってきたのは、間違いなく日本国を根絶やしにするために違いない。


日本国の復讐を恐れたのだろう。


恭一郎は尚も歯をギシギシと噛み締め、延々と叫び続ける。


だが、


そうこうしている内に、再び次の雷雲が装填された。



「クソがッ!!何だコレは!!」



ついに驚愕が怒りへと変わる。


圧倒的理不尽ーー。


絶望的力の差ーー。


展開が早すぎて頭の回転が追いつかない。


どうすれば皆を助けられるのかーー。


何をどうするのがマシなのかーー。


それを思考する時間が足りない。


どんな状況でも相手の居所を正確に掴み、自然現象をも操って雷を発生させるなど、まるで神のような所業だ。


肉体能力のみで立ち向かう自分たちでは、到底太刀打ちできない。


勝てるイメージが浮かばない。


そして、


雷は再び降り落ちて、残った仲間をも消し炭に変えた。


もう目に見えて残っているのは恭司たちだけだ。


他の人間たちは皆散り散りになり、どこで何をしているのか分からない。


この短時間で、たった3回の攻撃で、日本国民はその半数以上が死に絶えたのだ。


他に残っている者もまだ何人かいるだろうが、雷が3回も連続して落ちた影響で煙が立ち込め、とても確認することなどできない。


声を出して居所を知らせれば良かったのかもしれないが、この急展開で皆混乱し、正常な判断など誰も出来ていなかった。


状況が、やり方が、戦力が、何もかもがあまりに違い過ぎる。


向こうは一方的にこちらの居所を把握していて、こちらからはその姿すら拝めていないのだ。


そこに、


雷という高火力の遠方攻撃を意のままに放ってこられては、もう成す術が無い。


とりあえず逃走しか選択肢がなく、避けることも防ぐことも反撃することもままならないこの状況は、正に地獄と言っても差し支えなかった。



「ち、畜生畜生……ッ!!なんてザマだ!!なんて醜態だ!!動くぞ、修吾ッ!!ここまで来たら死ねない!!もう死ねないッ!!ここまで来たらッ!!いつか奴らを根絶やしにするまでッ!!絶対に死ねないぞ!!」


「はっ!!」



怒る恭一郎に、修吾は冷静な表情で返答する。


修吾も恭一郎と同じ心境だったが、子どもたちの前で大人が2人揃って錯乱するわけにはいかなかった。


2人は子どもたちを抱えて、ただ走る。


森の中へ入り、木々の間を瞬動で駆けて、2人は木々の間をひたすら走った。


その間も後ろでは雷の音が鳴り響き、戦場を音で埋め尽くす有様だ。


もはや何度目になるのか分からない。


ミッドカオスの兵がいない中、自分たちだけが遠くから標的にされ、何十何百と命を刈り取られていくのだ。


もう、


何度足を止めそうになったか分からない。


何度引き返したくなったか分からない。


だが、


子どもたちのためにもそうは出来なかったから、


2人は走って走って、ただただ走って、


逃げ続けた。


瞬動で一塊になりながら、2人は森の中を、ひたすら駆け抜けた。


日本国の中でも最強の部族である三谷一族の、そのトップたる2人だ。


もちろん速い。


景色は瞬きする間に移り変わり、風のような速度であっという間に森の中を駆け抜けていく。


しかし、


一緒に付いてきている恭司と優香は既に限界だった。


いかに天才とはいえ、いかに勝手知ったる地とはいえ、2人はまだ幼いのだ。


天才だとか神童だとか言われていても、これだけの緊張の中走り続ければ、当然に限界はくる。


それを見た恭一郎と修吾はある程度の所まで走ると、森の中の少し開けた所で足を止めた。


休憩のためだ。



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