【第一章】日本国

【第一話】日本国 ①

時は戦国時代ーー。


世界に数多と存在する国々が、互いの領土を巡って日々戦争を繰り返していた時代。


『日本国』も、その中の一つだった。


剣でも銃でもなく『刀』を主軸にして戦う彼らは、戦場では鬼のような強さを誇った。


人口も領土もそれほど多い国ではないが、個人技だけでなく集団としての戦略も卓越していた彼らは、他の国々からは正しく畏怖の対象だった。


日本国はいくつかの部族の集まりで、国の中にも様々な文化や権力、領土があったが、その関係性は概ね良好で、どの部族もそれぞれの持ち味を生かした戦術を持っている。


歩兵戦術が得意な侍の部族や、作戦や戦略を立てるのが上手い部族、暗殺や陽動が得意な忍者の部族など、日本国は文化が統一されてない代わりに、組み合わせ次第でありとあらゆる戦法を可能にしていた。


だが……


日本国の本当の強さの原点はそこではない。


いかに多種多様な戦法を可能にする部族が集まっていようと、それらが1つにまとまっていないと、結局戦力としては機能しないからだ。


日本国の強さーー。


それは偏に、部族同士の強靭な仲間意識にあった。


彼らは常に日本国のために戦っていて、それがどんな状況でも一切覆らないーー。


個の利益ではなく、あくまでも集団ーー

国としての誇りこそを大事にするーー。


そんな、ある意味宗教じみた集団意識こそが、日本国の持つ最強の武器だった。


とはいえ、


各部族の長たちをまとめるリーダー的存在も勿論必要だ。


日本国ではある部族がその日本国を代表するリーダー的存在に収まっていたが、その部族こそが、他のどの部族よりも一際強い仲間意識を持っていた。


その部族の名は『三谷一族』ーー。


元々は忍者一族で、戦場では死神と揶揄される彼らだが、彼らこそが、日本国随一の団結力を誇っていた。


とにかく仲が良いのだ。


誰しもが全員、一族のことを思いやりーー。


誰しもが全員、一族皆の顔と名前を覚えている。


喧嘩の一つすら珍しく、設立されてから何百年も経つ今でも、三谷一族はこれまでにたったの1人ですら裏切り者を出したことが無かった。


まるで『呪い』であるかのように、そんな人間自体、いつでも存在したことがなかったのだ。


存在自体していないのだから、当然対策の一つもない。


また、三谷一族は、仲間の死を決して許さない部族でもあった。


仲間に対する強い思いやりの裏側には、仲間以外の人間に対する強い敵対心が隠れている。


殺したのが誰であろうと……例え戦争の中での出来事だとしても、仲間を殺した奴は、三谷は絶対に許さない。


対称者の家族も関係者も彼女も友達も同罪だ。


殺せる人間は全て殺し尽くしてしまう。


だからこそ、


三谷は世界中から忌み嫌われ、恐れられていた。


三谷に手を出したが最後。


残るは殲滅ーー。


逃げられないーー。


そんな三谷一族が日本国のリーダーに収まったのも、理由は当然そこにあった。


三谷は兼ねてよりの悪評で、世界中から避けられている。


その三谷が筆頭となって動く国は、他国にとってはやはり攻めにくいという精神的な側面が否定できないため、他の部族が揃って三谷を推したのだ。


そしてそれは、世界中に強烈な影響を及ぼした。


三谷は元々、部族の段階から世界中で『最強』と噂される一族だ。


それは勿論、集団としての攻撃力や戦略も関係しているが、一番の理由は、三谷の驚異的な『隠密性』と『しつこさ』にあった。


三谷一族に戦争を仕掛けて、勝った国は今までにもある。


三谷は『生き残る』ことを最低限必要なものと考えるため、旗色が悪くなれば早めに撤退することも珍しくないのだ。


しかし、


その後が酷い。


本来、三谷の本領は暗殺や裏工作だ。


三谷に戦争を仕掛けて勝った国は、これまでの全ての場合において、仕返しで殲滅させられてきた。


その場で形式上勝っても意味が無いのだ。


三谷は何度でも秘密裏に仕掛けてきては、戦力をゴソリゴソリと削ぎ落としていく。


下手に三谷を下したがために、全滅の憂き目を見た国は1つや2つではなかった。


だからこそ、


そんな三谷一族が一国のリーダーポジションに収まったというのは衝撃的だった。


あくまでもリーダーポジションであってトップではないが、日本国は三谷に限りなく近い属性を持った部族の集まりだ。


他の部族が三谷を推した理由の中には、一族に対する強い共感と憧れも入っている。


そんな彼らが、三谷を陣頭指揮にして世界の舞台に踊り出てきたのだ。


恐怖に慄く国も少なくなかった。


だが……


そんな日本国に、最近戦争を仕掛けてきた国があった。


毎日世界中のどこかで戦争の起きている世の中ではあるが、日本国に仕掛けた国は久々だった。


それくらい日本国を脅威に感じている国が多いということでもあるが、やはり世間一般では仕掛けた方にこそ注目が集まる。


その国の名は、『ミッドカオス』。


日本国と同じで領土はそれほど多い国ではないが、ミッドカオスは2年前に大きな革命が起こったことで有名だった。


元々は平凡な小国だったこの国が、ある1人の革命家によって王位を奪われ、それからは毎日のように戦争を仕掛け続けているのだ。


その戦績は常勝無敗。


天才的軍略を持つ独裁者の手によって、ミッドカオスはこの2年でかなり大きくなった。


戦って負けた国は次々とミッドカオスの傘下に置かれ、奴隷制度を積極的に利用するミッドカオスは、敗戦国の兵士や住民を悉く奴隷化していった。


戦争で先槍に立たされるのもいつも奴隷だ。


特に囮や陽動は常に奴隷に任せられ、場合によっては主力ですら奴隷で構成される時もある。


奴隷の中でも使える者は隊長や特殊部隊に配属されるが、それ以外は常に使い潰しが当たり前だった。


そんな国が、先日とうとう日本国に戦争を仕掛けたのだ。


どちらも世界中から注目されていた国だが、下馬評では日本国が圧倒的首位だった。


ミッドカオスの強さは奴隷と資金力を活用した物量戦法だが、日本国は今までそういった国々の力を幾度も跳ね除けてきたのだ。


戦争に投入できる人数で言えばミッドカオスの方が圧倒的に上だが、現実的な個々の戦力や連携力、経験値や実績など、ミッドカオスと日本国では積み重ねてきたモノが違う。


しかし、


そんな、誰もが日本国の勝利を予想していた中だが、初戦は意外にもミッドカオスに軍杯が上がっていた。



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