復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー
ノリオ
【第零章】プロローグ
【プロローグ】
世界は真っ赤に染まりきっていた。
空も、地面も、人も────。
何もかもが赤かった。
空は絵の具のような不気味な赤色に支配され────。
地面には斬られた人間の血が染み渡り────。
死体は焼かれ、紅蓮の炎が街中を覆っていた。
世界は既に、半死だった。
生きている人間は元々の何割にも満たないほど少数で、誰も彼もが絶望に打ちのめされている。
光はか細く…………闇は限りなく深い。
彼らの目には、世界を呑み込まんとする巨大な黒い竜巻と、世界に向けて放射される巨大な赤い炎が映っていた。
風が吹けば体を裂かれ、熱いと思えば体が焼かれる。
安息の地など、この世界中のどこにも存在していなかった。
どこにいても、風と炎が身を襲う恐怖からは逃れられないのだ。
死が常に側で待機している中で、殺される前に自殺を選んだ者も少なくない。
"その男"も…………この地獄の中で絶望する1人だった。
この地獄を引き起こした当人たちを前にして、男はただ…………ただ、見ていることしか出来なかった。
「なんだ…………これ…………」
男は呆然と呟いた。
男の目の前には無数の死体が転がっている。
死体は炎で焼かれ、地面は血で真っ赤に染め上がっていた。
人の肉が焼ける悪臭と血の鉄臭さで、状況としては最悪と言っていい。
死に溢れたこの世界で、男の意識は今にも狂いだしそうだった。
いや、もしかしたら既に狂っていたのかもしれない。
死んだ人間の中には自分の同僚や上司が沢山いたはずなのに、現実感が無さ過ぎて涙の1つすら出てこないのだ。
男はふと空を見上げ、この状況を作り出した元凶へと目を向ける。
黒い風を纏った死神────。
人を何万と殺した殺人鬼────。
歳は10代か20代か────。
あまりにも若いそいつは、長大な刀を手に持って、風で空を飛んでいた。
目は爛々と赤く光り、人間離れしたオーラを放っている。
そいつは…………その化け物は…………涙を流しながら、世界中に向けて刃の雨を降らせていた。
触れれば人を斬り裂く風の刃を何千何万と放ちながら、そいつは世界に向けて憎しみと怒りをぶつけていた。
男はその様子を、まるで他人事であるかのように見つめることしかできない。
浮世離れしたその現実を、悪夢の中にいるような心地で見ていることしかできない。
自分に順番が回ってくるのも時間の問題だ。
男は既に…………生きることを諦めていた。
「あり得ないだろう…………」
嫌に静かなこの戦場で、ポツリと呟かれる声────。
そんな中でもひたすら死を撒き散らすその死神は、赤い目を光らせながら、世界中の人間の命を無作為にどんどんどんどん刈り取っていく。
さっき、無数の刃を操る超能力者が死んだ。
さっき、石を操る魔法使いが死んだ。
さっき、雷を操る王子が死んだ。
世界を代表する猛者たちが、その死神の前ではゴミ同然に斬り捨てられてしまうのだ。
誰も勝てない────。
誰も救われない────。
ただただ一方的に殺され、破壊され、こちらにはそれに対して抗う術が無いときている。
絶望とは正にこういうことを言うのだろうと、男は呆然としながら考えていた。
そいつはもう、これで何万人殺したのだろうか。
10万だろうか、100万だろうか────。
桁が違いすぎて、想像もつかない。
史上最大、空前絶後の大殺戮────。
男は目を瞑り、ただ祈ることしか出来なかった。
────ダレカタスケテクダサイ。
もう生きている人間自体少ないだろう。
世界はこのまま、こいつを残して終わるかもしれない。
こいつを殺せそうな実力者は、もうこの世界には残っていない。
「俺たちは…………何か間違っていたのか…………。何か…………」
それを言い終わらないうちに、男は涙を流し、そのまま倒れた。
背中から内臓ごと溢れ出る血液に、とうとう立っていられなくなったのだ。
男は最期にその死神の姿を目に焼き付けながら、悔しさと憎しみに歯を食い縛る。
「くそ…………。"あいつら"さえ…………『三谷一族』さえ…………この世に、いなければ…………」
強い怨念に支配された声────。
この世の理不尽を嘆く声────。
男は最期に呟くと、そのまま眠るように息を引き取った。
死神はそんな男のことなど記憶の1つにすら残さず、他の生きている人間の虐殺を続ける。
善も悪も関係ない────。
全て殺し続ける。
まるで、この世の全てが敵であるかのように────。
まるで、この世の全てに向けて復讐するかのように────。
死神は見たこともない人間の命を簡単に大量に壮絶に呆気なく刈り取っていく。
世界中の怒りと憎しみと悲しみと絶望を一身に浴びながら、死神はさらなる殺戮を繰り返していく。
その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』────。
その超絶で無双の強さは、正に『神』────。
だからこそ…………
後に人々は彼をこう呼んだ。
『鬼神』と────。
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