向こう側 *
先生が泊まるホテルの部屋に着くなり2人してバスルームへ直行した。そこでの行為が終わると、ほとんど濡れたまま今度はベッドになだれ込む。
浴室で充分過ぎる程解され蜜を垂らす入り口は簡単に先生のモノを受け入れる。
「奥……んぁ、気持ちッよぉ……たくさん、突いて」
ようやく欲していたモノを受け入れ、身体中が歓喜するのが分かった。
「そんな事言って……後悔しても遅いぞ」
「後悔、なんてッしないよ?」
「可愛いヤツ」
「ずっと、んんッ……こうしたかったんだ、もん」
お互いで掻き立て合って会話をする内に、突然上下が逆転した。
「じゃあ、コッチの方が良いかもな」
先生の身体に跨る体勢を取らされると、すぐ様自らで奥の良い所に当たるよう腰を回して秘部を押し付ける。
「ふ、う……気持い?先生」
耳元で吐息混じりに聞きながらわざと中を締め上げる。すると、先生は顔をしかめて応えた。
「ん、あぁ良いよ。気持ち良い」
「まだ、んッ……イっちゃダメ、だよ?」
「意地悪、だな」
そう言うと先生は、私の腰を掴んで下から突き上げ始める。
「だって、いっぱいッあ……シたいの。もっと、ぐちゃぐちゃにッして」
この言葉に煽られる様にして先生の動きが激しくなった。
「ね…せんせッ名前、呼んで」
「里有」
「ぁん……あッ、ああ……せんせぇ、すき」
こんな場面の告白でも、先生はまたあの返事をする。
「うん、知ってる」
それから何度も身体を重ね合わせる途中で、私は深い眠りに落ちて行った。
◆❖◇◇❖◆
翌朝目を覚ますと脱ぎ散らかした服、乾かしていないはずの髪や濡れていた身体は綺麗に整えられ、先生のシャツを羽織っていた。記憶にある限りでは色々とぐちゃぐちゃだったはずなのに。
ベッドから降り気持ちを切り替えたくて、歯磨きをしながら自分の服へと着替える。
口を濯ぎ顔も洗い終え洗面所から出た丁度その時、部屋のドアが開き先生がコンビニの袋と飲み物が入っているであろうカップを持ち戻って来た。
「おはよう」
私を見つけるなりフッと微笑んで朝の挨拶をする先生。今まで知ってた教師の言い方じゃなくて、ぎこちなく返してしまう。
「お、はようございます……」
「煙草買いに行ったついでに、はい。何が良いか分かんなかったからカフェラテな」
手渡されたカップは私に買ってきたものだった。
「有難うございます」
「悪いな、コンビニので」
「ううん。好きです、このカフェラテ」
私が一口飲むのを見届けて、先生が切り出す。
「なら良かった。……あのさ、付き合わない? 俺と」
思いもよらないセリフが飛び出して、内心困惑した。悟られない様に冷静な口調で振る舞う。
「先生、結婚してるでしょ」
「もうずっと、妻とは上手くいってない」
ドラマや映画でよく耳にするアレだ、なんて思いながらも反射的に言い返していた。
「それって不倫相手に言う常套句」
「なかなか手強いね」
「場数だけは踏んでますんで。でも、不倫はした事無いなぁ」
「なら、経験値積むつもりで良いんじゃない?」
あまりに軽い言い回しで若干たじろいでしまう。
「ゲーム感覚で簡単に言いますねぇ」
「そのくらいの方が楽しいだろ、恋愛なんて」
「うん、まぁそれはそうと思う。でもなぁ、だってなぁ……」
だって、気付いてしまったんだ。
叶わない恋って…叶わないままの方が良いんだよね、きっと。
黙り込む私の顔を先生が気遣わしげに覗き込む。
「どうかしたのか?」
「ううん、何でもないです。……ただ、先生とは、付き合えないや」
声が震えないようにゆっくり喋った。
「そうか、残念だな。相性良いと思うんだけどな、俺達」
いつまでも冷静な先生に心が揺さぶられる。それが伝わってはいけないから、わざと冗談めいた事を口にする。
「ん〜? それは身体の相性がってことかな?」
「まぁ、それもあるけど性格も」
「私、重いですよ?」
先生がニヤリと口角を上げる。とても良い事を思い付いた表情だ。
「体重が?」
「だーまーれー」
笑いながら隣に座る先生をベッドへと押し倒す。
「そう言えば押し倒してなかったなぁと思って」
視線が絡まり合うと自然な流れでキスをした。
「……んッ、ふ……んぁ」
段々と深くなっていくキスでそれ以上求めてしまいそうになる。それを必死に堪えて、唇を離した。
たった今付き合えないと断ったくせに。
また求めてしまいそうになる自分を目の当たりにして、人間とはこういった欲望にこんなにも弱いものなのだと身に染みて分かった。
「こういう関係だけも続けられない?」
私の葛藤に勘づいたのか、先生から危うい誘い文句が出る。
「どうしよっかな。……分かんないって言っときましょう」
先生の上から退いて、悪戯っぽく笑ってみせた。
「何それ、ズルいね」
ベッドから起きがりながら、先生が拗ねたような声を出したのですかさず指摘する。
「お互い様でしょう?」
「うん、否定出来ない自分がいる」
図星を突かれてうなだれる先生を見て表情を緩めつつ、ちょっと冷えてしまったカフェラテを飲み切る。
「私、そろそろ行きますね」
「朝飯一緒に食って帰れば良いのに」
「だって、長くそばにいたら離れたくなくなりますもん」
深いため息を吐いた先生から意外な発言。
「またそんな可愛いことを」
「これで忘れ難くなった?」
「なったよ」
敢えて無邪気にやったね、と両掌を掲げて立ち上がる。
「じゃあ……バイバイ、先生」
返って来る言葉は待たず扉を閉める。足早にホテルを出た後、少し泣いた。
身体の関係を持ったから冷めてしまったという訳じゃない。むしろ、結ばれたからこそ思いは深くなってしまった。だからこれ以上踏み込んでは駄目だと自分に言い聞かせた。
それでも『身体の関係だけ』に対して曖昧な返答をしてしまったのは、心のどこかで生じた迷いと、あやふやにすれば先生の頭の片隅に私という存在が刻まれるかも……、なんてヘビーな女の本性が顔を出してしまったから。
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