同窓会
また幾つか年月が流れ社会人になって数年目、25歳のある日。
電話番号の交換はしたものの、卒業後1度もやり取りをした事のない高校時代の同級生から突然連絡が来た。内容はと言えば同窓会の誘いだ。
正直、高校時代に楽しい思い出があまり無いので迷った。
いわゆる黒歴史というヤツ。
数日間悩んだ末、出席の返事を入れた。仕事に追われ疲弊していた上に恋人から突然別れを告げられた直後でもあり、気晴らしになればと言う理由で。
◆❖◇◇❖◆
1ヶ月程経って同窓会の日が訪れた。
ざわめく会場へ着くなり、直ぐ目に入ってきたのは兼吉先生だった。
「里有久しぶり〜!」
でも、比較的親しかった同じ部活だった子達から話し掛けられ、その姿も早々に見失う。
「久しぶりやね、皆。元気してた?」
「元気だよ。里有ちゃんも元気そうで良かった」
「ホント! 連絡しても全然返ってこないし心配してたんだから」
電話やメールの返事は大抵、後で良いかとそのままにしてどんどん溜まっていき面倒になるタイプである。仕事では几帳面に出来るのだが、プライベートでは相手に甘えが出るのか全くのズボラ。
「ごめんごめん。どうにも私はマメじゃないみたいで、すぐ返信忘れちゃうんよ」
「だろうと思った! あ、あっちにヒロカちゃんと
「お、会いたい! 挨拶もしとかなきゃだしね」
誘われるがまま顧問の先生方が居るテーブルへ向かい、しばらくは部活の思い出話に花を咲かせていた。が、特段何かがあった訳でもなく急な居心地の悪さに苛まれその場を離れる。
高校在学中、常に感じていたあの感覚が甦ったから。
恐らく、高校時代の死にたくなる程辛かった記憶が呼び起こしているのだろう。
と言うのも、男女問わない友達とバカ騒ぎをして死ぬ程楽しく過ごした中学時代の同級生の殆どと別の高校へ進学してしまい、全て歯車が狂ったのがきっかけ。それでも当時親友だった3人の内、1人とは同じ高校なのであんな辛い日々が訪れるなんて考えてもいなかった。だが、小学校から習っていたスポーツを中学校と同様に高校でも部活として続ける選択をしてしまう。
それがよろしく無かった。
同じ新入部員の子達から除け者にされ、上手な人間関係を築けなかったからだ。そんな状態のまま早朝は朝練、昼休みは部員全員で上級生の試合を録画したビデオを鑑賞してシュミレーションを行いながら昼食、放課後は言わずもがな部活。たった1人の親友とも段々疎遠になり、クラスで友人を作る機会すら見つけ出せないまま、自ら周りと距離を取って行き入学早々完全に学年で孤立した。
結局、その部活は数ヶ月で辞めてしまう。
孤立して自分以外の外界を遮断していた折に、執拗しつこい程話しかけて来て閉ざした心を無理矢理こじ開けてくれたのが、笹だった。そんな彼女の後押しでアットホームな環境の運動部に所属し、学校生活では笹に部活では優しい部員達に一時は救われた。けれどレギュラー争いの時期になると、入部の遅さ故の技術不足で皆とは気持ちを共有出来ない特殊なポジションを任され、またしても若干浮いた存在になりかける。だが今度は、自らで同級生の部員同士や先輩後輩の橋渡し的な立ち位置を見出しどうにか卒業まで続ける事が出来た。
しかし最初に周囲を断絶したせいなのか中立の立場を取ったせいなのか、何故か学校でも部活でもどのグループにも馴染めない居場所の無さを3年間絶えず感じた。
そういう経緯いきさつがあり、この居心地の悪さに支配されてしまう。大人になった今なら大丈夫かも……なんて期待をして来たものの、どうしたってこの中には入り込めないようだ。
おまけに笹とも私が原因で仲違いしてしまっていて、高校と自分とを繋ぐパイプ役の様な彼女の手助けがなければ、私はその入口にすら辿り着けない。
1番辛い時、手を差し伸べてくれた笹は暗い闇の中に現れた一筋の光だった。その彼女を失うとこんなにも孤独なんだと痛感した。
会場の壁にもたれ掛かって、久々の再会に盛り上がる同級生達を物憂げに見やる。
ぼんやりしている所に現れたのは高校時代唯一の男友達、
「
「お〜、まみやんお久しゅうございます」
彼のあだ名の由来は至ってシンプルで、英語の先生が〝あまみやん〟と呼んでいたのを周りで聞いていた私達がまみやん1文字省略したから。
「ハハッ久しぶり。相変わらずやね……あれ、もしかして疲れてる?」
まみやんの前ではキャラ崩壊が常なので、変な発言もだいたい華麗にスルーされる。けれど私の不調は見逃さなかった。
「人多い所苦手でさ」
「あ〜分かる。僕も人酔いするタイプだから」
こちらの異変を瞬時に察知して、全てに共感してくれる彼は類まれなる聞き上手。
「人酔い仲間じゃん。でもさこういうの、離れた場所から眺めてるの結構好きなんだよね。お祭りとか。賑わってるのをいつも遠くから見て楽しんでた」
「お〜それも分かるわ。盆踊り参加するのも楽しいけど、小高い所から観察するのも面白いんだよね。小学校であってたら滑り台とかジャングルジムの上に登って」
自分と同じ事をやっていた人間の存在を身近に発見し、独りしみじみした。
「流石まみやん、分かる男やわ」
「いや、多分僕らの価値観が合い過ぎなだけでしょ」
「確かに」
妙な納得を噛み締めながら談笑していると、派手目なグループの1人がこちらへ叫ぶ。
「天満〜! こっち来〜い!」
呼ばれた本人は静かに片手を挙げて返事をする。何を隠そう彼は人気者だ。可愛がられる系のキャラクターで特に男子達から愛でられていた。
「まみやんも相変わらずモテモテやね」
「みたいだね」
「否定しないんかい!」
「でも相手は男だからね?」
と、言いつつも喜ばしい様子のまみやん。
「同性から好かれるのは良い男の証なのだよ、天満正汰くん」
「急にフルネーム。分かった、その言葉を信じて己を貫くわ」
「是非そうして! 己を貫いて! いつまでも私にマイナスイオンを浴びせてくれるまみやんのままで居て!」
謎に熱の入る私を暖かく見守ってくれるまみやん。
「あ、僕市町さんの癒しだったのか。てかさ、市町さんも一緒に行かない?」
「う〜ん……まみやんと話せてだいぶ気分良くなったけど、やっぱちょっと外の空気吸ってくる」
「そうだね。うん、少し休んできた方が良いかも」
一切を語らずとも素早く察してくれるまみやん。彼は
どこを取ってもまるでオアシス。
「行ってらっしゃい」
「まみやんもね、行ってら」
お互いを送り合ってその場を離れた。
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