Walking in the night

ジョゼ

第1夜 おにぎりは生えてこない。

 今日も夜は冷える。

 ダウンに首をすぼめながら、家路についていた。

 夜になると、人がほとんど見当たらない。昼間には前を見ながら歩かなければいけないほどの人がいたのに、今なら夜空を見ながらでも誰にも怒られない自信がある。

 このご時世ではお店も閉まっていていつもなら心強い光すら少ない。疲れた体にあの光は少しくらい元気をくれていたのに、今はない。

 角を曲がると、オレンジ色の点滅が目に入ってきた。トラックだ。私とあまり背丈の変わらないお兄さんが荷台を押して荷物をお店の中に運び入れている。周りにはお兄さん以外いない。

 (こんな時間まで働いているんだ。大変だな。)。私はそう思った。あまり深く考えてはいなかったが、ふとさっき降りた最寄り駅で見かけたゴミを回収していたおじさんを思い出した。あの人も働いている。そういえば、電車って自動運転だっけ。

 電車は勝手に走らない。コンビニのおにぎりは生えてこない。ゴミは勝手に消えないし、自動販売機は飲み物を出産していない。私は見えない誰かに生活させてもらっている。会ったことも話したことも会うことも話すこともない人たちに。そのことに気づいていない。一人で生きているかのように錯覚している。


 昼間に、月は見えない。星も見えない。でも私は昼間に全てが見えているように感じている。

 夜には、月が見える。星も見える。でもその頃私は家の中にいる。月や星があることは想像できる。でも見えない。見えなければあることにはならない。これは私だけではないかもしれない。私の隣の人もすれ違う人もみんなそう思ってるかもしれない。

 昼間に感じる全能感は夜にはない。でも夜に欠けた分の全能感は自覚と感謝になっているのだろう。

 

 Walking in the night.

 

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