Extra Story

EX16 いざ、氷の大地に向けて


「あっちぃですわねぇ……」


 アタクシは空を見上げながら言った。

 空には夏の美味しそうな雲が浮いている。

 アタクシの名はクラリス・リデル・ハウザクト。

 ハウザクト王国の第一王女で、13歳。

 王国内の貴族学園に通っているけれど、今は夏休み。

 学園に通い始めて二度目の夏。

 去年はミアの国が神聖連邦と戦争したり、色々と大変だったけれど、今年はかなり平和。


「姉様! もっと水かける!? 我が呪いを受けし汚れた水だがな!」


 弟のアランが池の水をアタクシにバシャバシャとかける。

 あー、冷たくて気持ちいいですわぁ。

 ちなみに、アタクシは2人の弟と一緒にお城の池で水浴び中。

 服装は平民が着るような薄手の汚れてもいい服。

 もっとこう、水に入るのに適した服はないのかしら?


「あー、俺様はもう池から出たくないな」


 ジェイドは仰向けで池に浮いている。

 この池はあまり深くないが、水は澄んでいて綺麗だ。

 アタクシたちが水遊びをすると知っているので、庭師がキチンと管理しているのだ。


「アタクシもですわ」


 アタクシは池に座っているけれど、水は首ぐらいまで。


「姉様はでも、もうすぐミアと氷の大地に行くんでしょ?」


 アランが少し拗ねた風に言った。


「俺様たちも行きたかったよなぁ、アラン?」


 ジェイドが浮くのを止めて、池に座り直した。


「行きたかった! そう、しかしそれは、雲を掴むが如く難しかった!」


「あんたの言葉の使い方の方が難しいですわ」やれやれ、とアタクシが言う。「それに遊びに行くわけじゃ、ありませんのよ?」


「冒険だろう?」ジェイドが言う。「将来、冒険者になる前の予行演習」


「オレも冒険者になろうかな」とアラン。


「アランは軍の司令官になるんだろう?」ジェイドが言う。「俺様を支えてくれよ?」


 アランは肩を竦めた。


「そもそも、周囲が許しませんわよ」クラリスが言う。「第二王子が冒険者になることも、氷の大地に行くことも」


 氷の大地は危険の最先端!

 冒険者と一部の業者しか滞在していない。


「氷の竜が頻繁にその辺を歩いているような土地だしな」


 ジェイドが両手を広げた。


「別にミアがいたら危険じゃないと思うけどなぁ」とアラン。


「その考えがそもそも間違ってますわ」アタクシがお姉ちゃんっぽく言う。「ミアに頼りっきりでは、冒険者になれませんわ。今回、ミアはアタクシの補佐役ですわ」


 そう、主役はこのアタクシ!

 15歳になって、学園を卒業したらアタクシは冒険者になる!

 ミアとの冒険はそのための予行演習。

 とはいえ、ミアとの初の冒険なので、楽しむつもりだけれど。


「まぁ、俺様たちの中じゃ、姉上が一番強いしな……」

「それにレックスもいるしね!」


 あぁ、そういえばレックスも来るんでしたわね。

 修行がてら、だったかしら?

 あの子、かなり強いのよねぇ。

 将来は騎士になる予定らしいけれど、冒険者になるのもアリだわねぇ。


「アランはレックスと……ってゆーか、みんなと仲がいいよな?」ジェイドが言う。「特にあのローレッタまでアランに甘い。なぜだ?」


「さぁ?」とアランが首を傾げた。


 ジェイドに比べて素直だから、とアタクシは思ったけど言わなかった。

 純粋に可愛いのよね。

 もちろん、ジェイドのことだって、アタクシは可愛いですけれども。



 ローレッタ・ローズ、9歳の夏。

 お姉様とクラリス、そしてレックスの3人がもうすぐ氷の大地に出立します。

 あたしも行きたかったけれど、無理でした!

 あたしとお姉様が同時に長期休暇を取ってしまうと、宰相のスヴェンが死にます!

 そうです、過労死です!


 それだけは避けなければいけません。

 なんせ、スヴェンはすごぉく優秀ですから!

 優秀であるが故に、1日や2日なら、あたしとお姉様が一緒に休暇を取っても大丈夫だったりします。

 しかしまぁ、1日や2日で氷の大地の探検が終わるはずもなく。


「地下迷宮、楽しみだなぁ」


 お姉様はまだ見ぬ迷宮に思いを馳せています。

 ここはローズ公国、大公城、あたしたちの執務室。

 晴天な午後。

 窓から見える空は綺麗で、入ってくる風が気持ちいい。


「ふむ。私も若ければ、一度ぐらいは見たいですなぁ、氷に覆われた土地というのを」


 書類を捌きながらスヴェンが言った。


「あたしも見たいですね。それに地下迷宮も」


 冒険者たちは今、主に地下迷宮を探索しているらしいですね。

 氷の大地そのものも、まだ未踏の地域が多いので、そっちも地図を作っているようです。


「地下迷宮なんてロマンだよねぇ」お姉様が楽しそうに言う。「お宝があったら、とりあえず持って帰るよ」


「資金はいくらあっても、いいですからなぁ」とスヴェン。


 ちなみに、うちの国は相当なお金持ちです。

 神聖連邦の賠償金が大きいですが、国家運営が非常に安定していますから。

 お姉様の【全能】があれば、適材適所が一発で分かりますし。

 我がローズ公国はたぶん、世界でも上位の発展を遂げていると思います。

 まぁそれはそれとして。


「とはいえお姉様、今回の冒険はクラリスとレックスのレベル上げでしょう?」

「そうだよ。クラリスは冒険者として、レックスは単純に戦闘能力を上げるためだね。ノエルも誘ったんだけど、予定が合わなかったんだよねぇ」

「まぁ、長期ですからねぇ」


 むしろレックスの暇さにあたしは驚いたぐらいですよ。

 もちろん、レックスがいた方がいいですけれど。

 なぜって?

 お姉様とクラリスを2人きりになど、できませんって!

 2人とも年齢2桁ですよ!?


 大人ですよ!?

 間違いが起こる可能性もあるじゃないですか!

 そもそもお姉様がちょっと異性関係……クラリスは同性ですけれど、その辺りが緩いんですよね。

 最近はいきなり抱き付く、なんてことは減りましたけれど。



「速いですわね!」


 バイパーゼロの後部座席で、クラリスが楽しそうに言った。

 バイパーゼロ、またはF-2Rと呼ばれる戦闘機に乗って、私たちは氷の大地を目指していた。

 Rはローズ公国のR!

 無理やり3人乗りに改造してる!

 そして私たち、というのは、私ことミアとクラリス、そしてレックスの3人。


「速い、怖い、狭い」とレックス。


 狭いのは仕方ない。

 後部座席を強引に2人座れるようにしたからね。

 ちなみに私は航空機の操縦はできない。

 でもこれ、魔法だから!

 操縦は自動!

 ついでに言うと、加速度とかも全部消してる。

 だから鍛えてなくても誰でも乗れる。

 それに機体の強度も高めているので、どんな機動をしても平気。


「音よりも速く飛んでるからね!」

「よく分かりませんわ!」


 だよねぇ。

 さて私たちは戦闘服を着ていて、膝の上でバックパックを抱いている。

 私はどうせ仮創造するので、武器は持っていない。

 しかしレックスとクラリスは武器を持ってきている。

 レックスは普通の子供用の剣。

 クラリスは宝剣アルマス。

 今後のクラリスのメイン武器である。


 魔獣ルーナリアンが氷の大地で見つけて、いらないからと冒険者ギルドに寄付した代物だね。

 で、冒険者ギルドが戦闘大会の目玉賞品にしたんだよねぇ。

 懐かしいなぁ。

 しばらく空の旅を楽しんだのち、私は機体を逆さまにした。

 眼下にキラキラと輝く氷の大陸が浮かんでいる。


「わぁ!」


 クラリスが嬉しそうに言った。


「ミア! ドラゴンがいるぞ!」


 レックスもハイテンションで言った。

 確かに氷のドラゴンがノシノシと歩いている。


「よぉし! ドラゴン退治といこう! あそこに降下するよ!」


 私は機体をクルッと回して通常の状態に戻した。

 それから座席のレバーを引く。

 そうすると、まずキャノピーが吹っ飛んだ。

 それから後部座席が射出。

 次に私の席が射出され、自動的に座席が切り離され、パラシュートが開く。

 私たちはドラゴンの近くへと降下したのだった。

 ん?

 F-2Rはどうなったかって?

 仮創造だから私が射出された時点で消しているよ。


「さぁ! 冒険の始まりですわ!」

 

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