14話 勝利のあとのお寿司


 ローズ公国と神聖連邦の戦争は、ローズ公国の勝利で幕を下ろした。

 これは歴史上、最大規模のジャイアントキリングとして後世に語られることになる。


「いやぁ、実にウハウハだね!」

「まったくその通りですね!」


 私とローレッタはローズ公国財務大臣の報告書を見ながら言った。

 賠償金が毎月入ってくるので、お金に全然困らない!

 元から困ってなかったので、完全に余剰資金。

 更に国を良くするのに全ブッパしてる!


「戦勝はいいものですなぁ」


 宰相のスヴェンも非常に気分が良さそうだった。

 あの戦争からすでに数ヶ月が経過している。

 ローズ公国の首都ロージアに、最近やっと神殿が完成した。

 もちろん、金を出したのは神殿側だし、毎年、土地の利用料も入る。


「ミア様、ローレッタ様、スヴェン様、お茶の時間ですよぉ」


 フィリスがカートを押して私たちの執務室に入ってきた。


「ありがとうフィリス」


 私が言うと、フィリスがニコニコとみんなにお茶とお菓子を配った。

 フィリスはローレッタの側仕えなので、仕事中も基本的にはローレッタの近くにいる。

 なので、執務室にフィリス用の椅子も置いてある。


「お茶のあとは、ミア様の新料理、寿司のお披露目会です」フィリスが言う。「あと、明日は神殿の司祭となる人物が挨拶に来ます」


 別に頼んではいないけれど、フィリスはローレッタの秘書みたいなこともやっている。

 ローレッタ的にはかなり助かっているようだね。

 私もそろそろ秘書官付けようかな。

 そんなことを考えながらお茶を飲んだ。

 うん、美味しい。


 あーあ、ポータルのことユグユグに聞けば良かったなぁ。

 色々あったから完全に忘れてたんだよねぇ。

 ローズ領とローズ公国の私の家を繋ぐワープポータルのこと。

 それがあれば、セシリアをまた私の側仕えにできるんだけどなぁ。

 セシリアにしか使わせないから、個人利用の範疇に入りそうだけど。

 まぁそれはそれとして。

 やっと寿司を披露できるっ!



 ローズ城の会議室に、大臣たちが集まった。

 私が簡単な挨拶を済ますと、料理人たちがカートを押して入室。

 料理人の見習いとして、ザカライアもいる。

 ザカライアはあれから、我が家の料理人見習いとして修行に励んでいる。

 アカデミーが完成したら、1期生として入学してもらう予定。

 教育を受けたい者は何歳でも入学できるようにしている。

 もちろん、入試はあるけどね!

 料理人たちが寿司を大臣たちの前に配る。


「おお、これはおにぎりと刺身の合体ですな」と外務大臣。

「まぁ近いね」と私。


 いや近くないのかな?

 分からないや。

 私は食べ方を説明し、最初にパクッと食べる。

 うーん、寿司だぁぁぁ!

 美味い!

 寿司うめぇぇぇ!

 ああ、次はカレーを紹介できるといいなぁ!

 ガチで目指そう食の大国!


「うむ。これは実に美味いな」


 そう言ったのは幼い少女だった。

 浅緑の髪をワンサイドアップに括っている少女である。

 え?

 なんでいるのっ!?


「お姉様、あの子は……誰でしたっけ?」


 ローレッタがキョトンとした感じで言った。

 スヴェンもユグユグをジッと見ている。

 大臣たちもユグユグが誰か分かっていない様子。

 そりゃそうだよね!


「おかわりは、ないのかの?」


 寿司を食べ終えたユグユグが言った。


「今日はあくまで試食会だから……」


 私は呆れ口調で言った。

 来るなら来るって言ってよね!

 てゆーか、コッソリ食べて帰るんじゃなかったの!?

 ローレッタ以下、大臣たちが私に視線を寄越す。

 この子誰ですか?

 という意味の視線。

 たぶん大臣たちは、また私がゲストを呼んだのだろう、程度の認識。

 前の刺身の試食会の時、ノエルいたしね。

 コホン、と私は咳払い。


「えー、その少女はユグドラシル……創造主様です、はい」


 私はウッカリ敬語で言ってしまった。

 私の発言に、室内が凍り付いた。


「ミア様、それは何かの冗談……」と国家運営大臣。


 私は首を横に振る。


「なぁに、気にせんでええぞ」ユグユグが言う。「妾は食ったからもう帰る。美味かったぞ。食の大国、楽しみにしておるぞ! さらばだ!」


 ユグユグはパッと消えてしまった。

 そう、本当にパッと消えたのだ。

 最初から存在しなかったみたいに。

 そんなすぐ帰るなら、コッソリ食ってコッソリ帰れよぉぉぉぉ!

 室内が激しくざわついた。


「ユグドラシル様の祝福を受けたぞ!」と農林水産大臣。

「アカデミーの料理コースを更に充実させる計画を立てねば!」と教育庁長官。


 ああん!

 どうすんのこれ!

 みんなテンション上がりまくってんじゃん!


「お姉様! ユグドラシルはあたしたちと同じような見た目なんですね! 本当は木なのに!」


 ローレッタもテンションが高い。

 ああんっ!

 ユグユグは祝福とかするタイプじゃないのにぃぃ!

 どう収拾しよう?



 翌日。


「あー、疲れが取れてないなぁ」


 私はローズ城の外務省の客室で言った。

 ソファにだらぁっと座っている状態である。

 昨日のみんなのハイテンションを収めるのに、少し苦労したのだ。


「大丈夫ですか?」


 隣に座っているローレッタが心配そうに言った。


「まぁ、なんとかね」


 今日は神殿の司祭が会いに来る。

 まぁ、今の神殿は私が【全能】人事で選んだ枢機卿たちと教皇が運営しているので、どんどん自浄している。

 実にいいことだね。


「ミア様、司祭様をお連れしました!」


 ドアをノックしてから、外務省の職員が言った。


「了解。入っていいよ!」


 私が言うと、職員がドアを開ける。

 そうすると、司祭と助祭がゆっくりとした足取りで入ってくる。

 私はぼんやりとしていたので、司祭たちの顔を確認しなかった、

 職員がドアを閉めて、ローレッタが立ち上がる。

 私は立つのを忘れていて、慌てて立ち上がった。


「どうも初めまして」ローレッタが言う。「あたしは小公爵のローレッタ・ローズです。そしてこちらが、ローズ公国大公、ミア・ローズ閣下です」


 ローレッタの言葉が終わると同時に、私は一礼。


「やぁミア! 我だぞ!」


 妙に明るい声で、司祭が言った。

 そして私は、この声を聴いたことがある。

 あっれー?

 私は司祭の顔を確認。

 ニコニコと笑っている司祭は。


「ポルポルじゃん!!」

「うむ。我は司祭からやり直すことにしたのだ。ふはははは! 我は生まれも育ちも神殿! 今更神殿の外には出れぬからな!」


 確かに教皇は辞職させたけど、神殿から出ろとは言ってないね私。


「お姉様、知り合いですか?」とローレッタ。


「あー、えっと、元教皇のポルフィリー・ゾーリンだよ」


 私が言うと、ローレッタがポルポルを睨み付けた。


「クソ野郎が何で我が国の神殿に?」


 ローレッタが辛辣な口調で言った。

 そうすると、なぜかポルポルは頬を染めた。


「ああっ、素敵な罵倒だ……。気持ちいい、来て良かった」


 え?

 ええ!?

 コホン、とポルポルが咳払い。


「勘違いして欲しくないのだが、我は女性たちを虐待していたわけではないぞ」ポルポルが言う。「そういう噂が立っていたようだが、アレはそういう趣味の女性たちと遊んでいただけだ。合意の上のプレイに過ぎんのだ」


 あっれー?

 それは情報になかったなぁ。

 情報ギルドのヨーナに、あとで少し文句言ってやろう。


「我もまぁ、女性をいじめるのが好きだと勘違いしていたしな」


「勘違いというと?」と私。


「うむ。ミアの拷問で我は自分の真の性癖に目覚めたのだ!」


 ぎゃぁぁぁぁぁ!

 私のせい!?

 私のせいで攻略対象者がおかしくなったぁぁぁぁ!

 まぁ、割と手加減してたからね私!

 こう、殺す気はなかったし、戦争を止めたいって言うか、負けを認めさせたかっただけだしね!


「お姉様、こいつは危険です!」


 キッとローレッタがポルポルを睨む。


「そんな目で見られたら興奮する。ミアのせいで、我は特に幼い少女にいじめられたいと思うようになったのだ」

「し、司祭様……」


 助祭の女性が引きつった表情を浮かべた。


「心配するな。仕事はきちんとする。あくまで我の趣味の話である!」


 言ったあと、ポルポルが私を真剣な表情で見詰める。

 あ、やっぱイケメン!


「ミア、結婚して欲しい」

「処理しましょうお姉様! 埋めてしまえば分かりません!」

「いやいや、殺しちゃダメだよローレッタ!?」

「では半殺しに!」

「それはきっと喜ぶよ! ほら、めっちゃ嬉しそうな顔してる!」


 まぁでも、と私は思う。

 拡張主義の危険な教皇よりは、少女にいじめられたいドM司祭の方がいいんじゃない?

 たぶん!

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