13話 私は悪役だもんね


 ポルフィリー・ゾーリンの髪色は乳白色で、髪型はゆるふわパーマ。

 実際には癖っ毛だけどね。

 長さは耳が隠れるぐらい。

 ポルフィリーは教皇用の綺麗な祭服に身を包んだ。

 白と紫の祭服で、所々、宝石でキラキラしている。

 ああ、眩しいっ!

 教皇の服なのに、なんて俗っぽいんだろうね!


「それで?」


 ポルフィリーがベッドに腰掛けて脚を組んだ。

 動作までイケメンなんだけど。

 なにこいつ、攻略対象者でもよくね?

 攻略対象者?

 あれ?

 こいつ、続編の対象者じゃね?

 私、続編は未プレイで死んじゃったけども。


 広告だけ見て、イケメンの教皇がいるのか、へぇ、って思ったかも!

 年齢も38歳ぐらいで、珍しく歳いってんなぁって。

 今まで完璧に忘れてたけど、そうだ、こいつ『愛と革命のゆりかご2~聖なる祈り~』の攻略対象者だ。

 そうそう、続編は攻略できる男子の年齢の幅が広がったんだよ!

 10代から40代までいるんだよね。

 30代と40代はさすがに1人ずつだけどさ。

 あー、プレイしたかったなぁ!


「おい、なぜ何も言わん?」


 ポルフィリーが首を傾げる。

 クッソ!

 イケメンやんけ!

 攻略対象者なら仕方ないけどね。

 そっかそっか、続編は神聖連邦での革命がメイン軸なんだね。

 腐敗した神殿組織での革命。

 ってことは、ユグユグの言ったとおり、放っておいても神殿は崩れる。

 そんで、ポルフィリーは多くのルートで死ぬだろう。

 たぶん。


 ラスボスでは、たぶんないけど、ポルフィリーのルート以外では死にそう。

 てか名前長いから以下ポルポルって略そう。

 たぶん無印と同じく、ラスボスは女性だったはず。

 んで、各攻略対象者にライバル令嬢がいる。

 ライバル令嬢は基本いい子で、ラスボスだけが悪党。

 そう、この私のように!


「我は暇ではないぞ、ローズ大公」


 ポルポルが少しイラッとした様子で言った。


「あ、えっと、どうも」

「ああ、どうも」


 私が慌てて挨拶すると、ポルポルもそれに釣られる。

 しばし沈黙。

 ポルポルが頭を押さえた。

 たぶん、釣られたのが恥ずかしかったのだ。


「今、うちと戦争してるのは知ってる?」

「もちろんだ。クソ生意気なガキが大公で、とにかく神殿を舐めているから、聖戦で分からせる、とみなが息巻いていたからな」

「じゃあ、君自身は戦争にはさほど乗り気ではない?」


「いいや?」ポルポルが極悪に笑う。「我は全世界を我の前に跪かせたいと思っているからな! 神だとかユグドラシルだとか、知ったことか! 我に刃向かうなら痛い目に遭うべきなのだ!」


 おおう、嫌な奴だなぁ。

 まぁでも、攻略対象者って心に傷を負っていたり、性格がねじ曲がっている奴が多いんだよね。

 だってヒロインがその心を癒やす役割を持っているからね。


「そうか。残念だよ」私も負けずと悪っぽく笑う。「じゃあ、分からせてあげるね?」


 私はヒロインじゃないんだよなぁ!

 私は拳銃を仮創造。

 ポルポルの肩を狙って撃った。

 しかし弾丸はポルポルの前で見えない壁に弾かれる。


「我の属性を知らんのか?」ポルポルが立ち上がる。「我の属性は【加護】である。いついかなる時も、我自身の魔力によって我は守られている」


 ほほう。

 知ってはいたけど、そういう感じなのね?


「ユグユグが君をあらゆる攻撃から守る、ってイメージかな?」


 魔法を使うにはイメージも必要だからね。


「少し違う」ポルポルが言う。「この世界の頂点に君臨するこの我を、いずれ我の配下となるユグドラシルが守っている、というイメージだ」


 こいつ、ユグユグに会ったこと、ないんだなぁ。

 あれは私でも敵わない。

 てゆーか、今の時点ならアスラですらユグユグには勝てないと思う。


「教皇様なのに、創造主様を下に見ているんだね、君は」

「はんっ! 我こそがこの世界の唯一の支配者である! 創造主!? 所詮は神話だろう!? 実在せんよ!」


 いや、実在するよ?

 私、昨日会ったし。

 まぁでも、言っても仕方ない。

 私は拳銃を消して、20式小銃を仮創造。

 しばらく射撃してみたけど、やっぱり弾丸は見えない壁に弾かれる。


「無駄だ大公。我を殺せば戦争が終わると思ったのかもしれんが、それでは終わらん」

「だろうね。だから私は、君を殺さず、君が自分から『侵略を止めたい』と言えばいいと思ってるんだよね。もちろん、君らの敗退だから、戦後賠償も分捕るけどね!」


 私は20式小銃を消して、今度は『01式軽対戦車誘導弾R』を仮創造。

 もちろんRはローズ公国のR!

 本物の01式は赤外線誘導で、撃ちっ放しでオッケー。

 タイプRは私が認識した相手を追尾するように変更している。


「これは個人利用だろう?」


 私は誘導弾を発射する。

 狙いはもちろん、ポルポルである。

 見えない壁に誘導弾が命中するが、それでもポルポルは無傷だった。

 あっれー?

 これで透明な壁、壊せるかと思ったんだけど?


「ローズ大公、お前が素晴らしい属性を持っていて、魔力量も多いというのは有名だ」ポルポルが2歩、前に出る。「しかし、我の魔力もまた、常人より多い」


 それは情報になかったなぁ!

 私より魔力多かったら、ちょっと厳しいよ?

 周囲が騒がしくなり、大神殿護衛の神聖騎士たちが集まって来た。

 ポルポルは騎士たちを片手で制し、私を見下ろす。


「聞いて驚け大公、我の魔力は1200だ!」


 ポルポルは胸を張って、凄まじいドヤ顔で言った。

 いや、分かるよ?

 1200ってめっちゃ凄いからね?

 無印のゲームだと999までしかないしね。

 ってことは、続編だと数値増えてるっぽいね。


「それ聞いて安心したよ」


 私はもっと単純にいくことにした。

 魔法の目的は、ポルポルを守ってる壁の破壊。

 イメージは、ユグユグの一撃。


「私の魔力は3000あるから」


 魔法の名前はそうだなぁ、そのまんまでいいか。


「ユグユグの一撃!」


 巨大な木の枝が出現し、鞭のようにしなってポルポルを攻撃。

 私の魔力がゴッソリと削れたけれど、枝の一撃はポルポルの壁を完璧に砕いた。

 まるでガラスが砕けるような感じだった。

 ポルポルが酷く焦ったような表情を見せた。

 同じ防御魔法をもう一度使われる前に、制圧するっ!


「男って倒しやすいよね!」


 私は速攻で間合いを詰めて、ポルポルの股間にアッパーカット。

 ポルポルが凄まじい悲鳴を上げて、その場にうずくまった。


「「教皇聖下!!」」


 騎士たちが一斉に剣を抜いたけど、まぁだから何って感じ。

 私は20式小銃を仮創造。

 騎士たちの脚を撃って、戦闘不能にした。

 個人利用、個人利用♪


「聖下って言い方かっこいいよね」


 私はニヤニヤとしながら、うずくまるポルポルの前に立った。


「ちょ……待て……大公……」

「待たないよ?」


 私、ヒロインじゃないもーん!



「誠に申し訳ございませんでした……」


 ポルポルは大神殿の政治用の大きな会議室で、私に謝罪した。

 その様子を、大神殿の関係者たちが黙って見ている。

 ポルポルはすでにローズ公国攻略を止めるよう、前線に指示を出している。


「戦争賠償金は大金貨3000枚ね」


 大金貨1枚は金貨10枚分の価値がある。

 金貨は日本円だと、だいたい100万円ぐらいかな。

 だからまぁ、今回の賠償金は300億円ぐらい。


「はい……いくらでも支払います……」


 ポルポルはすでに何の戦意もない。


「ぶ、分割で……」と枢機卿の1人が言った。


 たぶん金を管理しているのだろう。


「いいだろう」私が言う。「今後、ローズ公国に神殿を作ってもいいけど、建築費用は君ら持ちだし、毎年、土地の利用料を支払って貰う。いいね?」


「もちろんですミア様」とポルポル。


「それと、各国で君ら聖職者が犯した罪を裁けるようにする。要するに、君らに特権がなくなる」


 ポルポル以外は少し嫌そうな表情を浮かべたけど、まぁ関係ない。


「あと、枢機卿以上の人間は全員その立場を捨てて貰う。私が新しく、清廉な人間を選ぶ」


「そんなっ!」と枢機卿の1人。


「嫌なら死ぬかい?」


 私は20式小銃を仮創造して、天井を何度か撃った。

 枢機卿たちは目線を床に向ける。


「もちろん教皇も、落ち着いたら私が新たに選ぶ」


 私が言うと、ポルポルは素直に頷いた。

 素直になりすぎてちょっと気持ち悪い。

 ……やりすぎたかな?

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