12話 教皇に会おう!

 夜。

 月が綺麗な夜だった。

 私は星空の下に浮いていて、あまりに綺麗な空に「ほわぁ」なんて暢気な声を上げてしまう。

 ってゆーか。

 時間経過しすぎっ!

 すでに戦闘終わってるし!

 はい、また明日ってね!

 まぁ夜襲とかも、あるかもだけどさ!

 私は慌てて要衝ブラレルの防衛司令部に戻った。

 そうすると、めっちゃ心配された。


「お姉様がいきなり消えたので、本当に驚きました!」


 ローレッタは半泣きで私に抱き付いた。

 ブラレル防衛の司令官も、あからさまに安堵の息を吐く。

 その他、詰めている軍人たちも安心した様子だった。

 そして。


「いやぁ、危なかったんだよ? 君が戦車と一緒に消えたからさぁ、神聖騎士団はその隙に猛攻撃さ!」


 椅子に座ってお茶を飲んでいるアスラが言った。

 1人だけ私がどうなったのか知っていたので、まったく心配していない様子。


「それは確かにそうですが……」


 ローレッタは私から離れて、苦い表情を浮かべる。

 あれ?

 もしかして私がいない間に、戦線崩されちゃった?

 空から見た感じ、ブラレルが被害を受けた様子はなかったけど……。


「感謝したまえよ君」


 アスラがニヤニヤと言った。

 あー、こいつ介入したな?


「ちょっとだけだよ」アスラが言う。「君がいない間に崩されるのも可哀想だし、軽く、本当に軽く撫でる程度で防衛を手伝ったってだけ」


「神聖騎士の半分をぶち殺すことを、撫でるというのでしたら、そうでしょうね」


 ローレッタが引きつった表情で言った。


「大丈夫、サービスだから無料だよ?」とアスラ。


 勝手に介入されてお金まで取られたら、それこそ悲しすぎる。

 まぁ払わないけどさ。


「まぁ助かったのは事実です」


 軍人の1人が言った。


「なるほど。ありがとう」私が言う。「友情の証と受け取っておくよ」


「ああ、私ら友達だからね」アスラは楽しそうに言った。「それで? 創造主様と会った感想は?」


 アスラが言うと、ローレッタや軍人たちが酷く驚いた風に目を丸くした。


「お姉様!? ユグドラシルと会ったんですか!?」

「うん、まぁそうだね」


 私が言うと、室内がざわついた。

 うーん。

 創造主に会ったとなると、やっぱ凄いことなのかな?

 あんまり実感ないけど。


「会ってどうなったんです?」


 ローレッタはかなり食い付いた。

 私はアスラの件だけ伏せて、みんなにユグユグとの会話を掻い摘まんで説明した。


「なるほど。要約すると」ローレッタが言う。「その1、お姉様の兵器は強すぎるから個人利用に留めろ、と」


 私はコクンと頷く。

 ちなみに、現代兵器という名前は使わずに説明した。

 転生とかの話まですると面倒だからね。


「その2」


 ローレッタが指を2本立てる。

 ピースみたいで可愛い。

 写真に収めたいね。


「神殿は潰してもいいと」


 私が再び頷く。


「では潰しましょう」


 ローレッタが両手を叩いた。


「そ、そんな簡単に……」と司令官。


「大丈夫だよ」私が言う。「とりあえず教皇を殴って軍を引かせる」


「潰さないのかい?」とアスラ。


「必要ないかな。ローズ軍の練度上げならもう十分だしね」私は肩を竦めた。「海戦もやったし、上陸戦もやったし、陸戦もやった。これ以上は必要ないよ」


「ふぅん」アスラは少し退屈そうに言った。「じゃあ、私はもう帰るよ。あーあ、つまんなーい」


 アスラはサッと窓の方に移動。

 そしてゆっくりと窓を開けて、窓枠に足を掛ける。


「じゃあね。いつか、もっと大きな戦争で会おう」


 アスラは凶悪に笑ってから飛び去った。

 アスラの笑顔が凶悪すぎて、みんな少しビビっている様子。

 うん、私も実はちょっとビビった!


「まるでお姉様のように笑いますね、あの人」

「いやいや!? 私はあそこまで凶悪な顔してないよ!!」


 さすがに一緒にされたら悲しいなぁ!


「そうですか? まぁいいですけど」ローレッタが肩を竦める。「えっと、要約その3です」


 ローレッタが指を3本立てる。

 私はその指をパクッと口に含んだ。


「ひゃぁ!」


 ローレッタが可愛い悲鳴を上げつつ、指を引っ込めた。


「ごめん、つい」と私。


「お、お姉様!? 大丈夫ですか!? 疲れているなら、休みますか!?」


 だって、なんだか美味しそうに見えたんだもーん!

 って、そっか!


「私、お腹空いてるんだよローレッタ!」

「誰か夜食をお願いします! あたしの指が食べられる前に!」


 ローレッタが言うと、軍人の1人が「自分にお任せを!」と言って部屋を出た。

 コホン、と仕切り直すローレッタ可愛い。


「えっとその3ですね。食の大国は大歓迎、ユグドラシルも食べに来る、と」


 ローレッタがやや神妙な雰囲気で言った。

 周囲の軍人たちも、ゴクリと唾を呑んだ。

 まぁ創造主がご飯食べに来るって、割と一大事かも。


「そうみたいだね」


 私は小さく肩を竦めた。


「大変です!」ローレッタが慌てて言う。「宰相に連絡して、ユグドラシル歓迎パーティの用意を!」


「そそそ、それなら自分が!」と司令官。


「いや待って落ち着いて」私も少し焦ってしまう。「たぶん、コッソリ食べてコッソリ帰ると思うよ! あんまり気にしなくていいから! 賓客として迎えるわけじゃないから! あと、今すぐの話でもないしね!」


 私が言うと、ローレッタも他の者たちも落ち着きを取り戻す。


「あたしとしたことが、スケールの大きな話につい……」


 ローレッタが小さく首を振った。

 ああ可愛い!


「まぁ仕方ないよ。とにかく、私は明日の朝一番で教皇を殴りに行くから、ローレッタはここの指揮をお願い」

「分かりました。本当は一緒に行きたいですけど……」


「ここを守る者がいるからねぇ」私が言う。「教皇が軍を引くと言っても、それが前線に伝わるまでに時間差がある。1日か2日か、とにかく明日は私なしで防衛する必要があるから」


「分かってますよぉ。あたしは小公爵ですから!」


 どん、と自分の小さな胸を叩くローレッタ。

 ああんっ!

 めっちゃ可愛いやんけぇぇ!!

 もっかい食べちゃおっかな!!


「ミア様、お食事です!」


 さっき出て行った軍人が、カートを押して戻った。


「やったぁ! 食事だぁ!」


 私は嬉しくなってカートに飛び付きそうになったけど、さすがに途中で思い留まった。

 引っくり返って私の食事が台無しになったら困るし。



 教皇であるポルフィリー・ゾーリンは33歳の男性である。

 腐敗の元であり、堕落的であり、最高に性格の悪い奴である。

 人々の前では丁寧に喋って、聖職者っぽさを出しているが、裏では女の子を虐待するのが大好き。


 まぁ、男に対しても容赦ないし、本当に心からのゲス野郎なんだよね。

 少なくとも、情報ギルドのヨーナから得た情報ではそうだった。

 そして、それはたぶん間違っていない。

 私が問題だと思ったことは、たった1つだけ。

 あのね。

 なんでお前そんなイケメンなんだよっ!!


「これはこれは、可愛い侵入者だ」


 クックッ、と笑う姿はマフィアのボスみたいだけれども!

 でも顔面偏差値高いんだよ!

 本当に33歳!?

 ここはユグドラシル聖教の総本山、ユグドラシル大神殿。

 教皇の私室。

 豪華絢爛な室内に、同じように豪華絢爛な大きなベッドがある。

 ベッドには教皇ポルフィリーと、女の子が3人。


「お前たちは下がれ」


 ポルフィリーは女の子にそう命令した。

 女の子たちは服を着替えようとしたが、「さっさとしろ! また痛い目に遭いたいのか!?」というポルフィリーの台詞で、裸のまま部屋を出た。

 彼女らの裸は、虐待を受けた痕が残っている。


「服を着る時間ぐらい、あげればいいのに」と私。


「いやいや、わざわざローズ大公が会いに来てくれたのに、ゴミのような女どもを側に置いておくわけにも、いかんだろう?」


 ポルフィリーが半裸で立ち上がる。

 よく私だって分かったね!

 まぁでもそんなことより。


「まずは服を着て!」


 ああもう!

 ムカつく野郎なのに、イケメンで半裸は私の本能が反応してしまう!

 理性と本能は別なんだよね!


「ククッ、可愛らしいことだ」

 

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