11話 三千世界を踏み越えて


「だいたいのところ、理解したよ」


 私は神妙な感じで頷いた。


「お主、無理に真面目な顔せんでもええぞ?」

「あ、はい」


 私は表情を崩した。


「秒で崩す奴もなかなか、おらんがのぉ」

「えへへ」

「さて、せっかくじゃから――」


 ユグユグが指をパチンと鳴らすと、私の前に紅茶が出現した。


「――3つの質問に答えよう。知りたいことが、あるじゃろう?」

「え? 別にないけど?」


 私は紅茶に手を伸ばしながら言った。


「ないのか!?」ユグユグが驚いて言う。「妾は創造主じゃぞ!? 妾の悩み相談は知的生命体に大人気なのじゃぞ!?」


 そりゃまぁ、普通の人類は創造主様と話ができたら嬉しいだろうさ。

 その上、悩みまで聞いてくれるんだから。

 だが残念!

 私は悩み事などないのじゃ!

 あ、口癖が移っちゃった。


「……べ、別に悩みじゃなくてもよいぞ?」

「そう? じゃあ、なんでジュニアなの? 親がいるの?」

「うむ! よくぞ聞いてくれた!」


 ユグユグはとっても嬉しそうに言った。

 あ、これもしかしたら長くなるかも。

 私はゆっくりと紅茶に口を付けた。

 あ、めっちゃ美味しい。


「そもそも妾の母親であるユグちゃんもまた、別の惑星で創造主をやっておったのじゃ。しかし母の惑星は別の創造主に譲って貰ったものなのじゃ」


 スケール大きくてよく分からないなぁ。


「地球の話じゃぞ?」

「地球!?」


 それ私の前世の世界!

 でもそんな大きな木はなかったよ!


「地球と言っても、無数に存在する地球の1つ、じゃが」

「何それ、難しい話なら私寝るけど?」

「……お主、もうちょい妾と話せる有り難みとか……いや、いい」


 ユグユグは諦めた風に溜息を吐いた。


「まぁ、難しい話は省く」ユグユグが言う。「とある地球を創造したアヌンナキという最初の創造主は、途中でリディヤミさんに創造主を譲り、リディヤミさんは妾の母を創造し、やがて創造主を譲ったのじゃ」


 やっぱりスケールがちょっと大きいなぁ。

 アヌンナキとかリディヤミさんとか知らない名前も出てきたし。


「リディヤミさんは2人で1人の創造主で、妾の祖母たちじゃ」

「急に分かり易くなった!」


「正確にはリディアと優闇。人間とオートドール。朽ちた世界で永遠に続く夢を見た者たち。今や存在の次元が違い過ぎて、そのまま会ってしまうと妾ですら消し飛ぶっていう超越存在じゃ」


 何それ怖い。


「そんな自慢の祖母たちに作られた自慢の母が、元祖ユグドラシルなのじゃ!!」


 ユグユグは後ろに引っくり返るのかと思うほど、胸を反らした。


「そして元祖ユグユグは種子を飛ばし、君が生まれた?」

「うむ! ちゃんと神話を勉強しておるようじゃの」

「まぁね。てゆーか、神話が事実でビックリ」

「ちなみに妾を飛ばした理由は、ゼロから世界作ってみたいと思ったからじゃな」


 理由が軽いのか重いのかすら、もう分からないね!

 神々の考えなんて、まぁ私には分からないか。


「さて、ではあと2つの質問に答えよう」

「……それ質問しないとダメ?」

「うむ。質問しないと帰さぬ!」


 ああんっ!

 何か聞きたいことないかな私!

 乙女ゲーのこと……は私の方が詳しいかもだしなぁ。

 あ、そうだ。

 私は閃いてしまった。


「アスラ・リョナと仲いいの?」

「いーや、全然」

「あ、そう……」


 まぁ、アスラは神様と仲良くするタイプじゃないか。


「あの者は少し特別じゃ。お主には軽く、教えておこう」


 ユグユグはかなり真面目な表情で言った。

 アスラは前世の時からめっちゃ特別な人間だったよ。

 少なくとも、私とは比べものにならないレベルで。


「初めて会った時、あやつは妾が『知的生命体には滅びる自由がある』と言ったら、死ぬほど嬉しそうな顔をして『あは♪ 人間が妄想している人間に都合のいい創造主様じゃなくて本当に良かった』と言ったんじゃ」


「言いそう」

「じゃからの? 妾は質問したのじゃ。もし、妾が人間に都合のいい創造主だったら、どうしたのか、と」

「殺すって言ったんだよね、どうせ」


 容易に想像できる。

 あの人は神様でも何でも、気に入らなければ簡単に敵に回す。

 それで自分が死んでも構わない、って思ってるんだよね。

 しかも心から。

 なんなら、神様に殺されるとか実に面白い、とか言いそう。


「うむ! 妾、創造主なのに脅されたのじゃ!」

「ご愁傷様」

「幼少期でアレか、と妾は思ったのぉ」

「幼少期? 誰が?」

「アスラじゃ」


 ユグユグの言葉に、私はキョトーンと首を傾げた。

 とりあえず紅茶を飲もう。

 うん、美味しい。


「あやつは、いずれ《滅びの使者》であり、《永遠者エターナル》になる」

「えっと?」

「今世でもそうじゃし、来世でも、その次も、そのまた次も、あやつは三千世界を踏み越えて、その全ての生において知的生命体に最後の変革を選ばせるのじゃ」


 何それスケールが大きすぎて怖い。


「即ち、最終戦争、終末戦争を許容するのか否か。世界を終わらせるのか否か。彼女は113億4千万歳になってもそれを続けている。涅槃に辿り着いた究極の俗物として、彼女は選択を迫るのじゃ」


 よく分からないけど、アスラを生かしておくのは危険ってこと?


「やがてその日が訪れる。彼女は全知的生命体にとってのラスボスなのじゃよ。まぁ、じゃが、な」

「別の話なら、私は気にしなくていい?」

「まさか。あやつの幼少期の終焉は今世じゃ。この惑星の知的生命体の、最期の戦争を始めるのはあやつじゃ」

「うわぁぁぁ! やりそう! あの人、本当にどうしょうもないぐらいイカレてるもん!」

「まぁ、数百年後のお話じゃから、お主がそれまで生きているかは、お主の選択じゃ」


 それまでには安らかに眠っていたいなぁ!

 こう、ローズ公国を素晴らしい食の大国にして!

 あと、色々とハーレムを築いてから!

 あ、最後の質問は食のことにしよっと。


「ま、妾が言いたいのは、お主の選択は未来に大きな影響を与える。良くも悪くも。そういう意味では、お主もある程度、特別な存在じゃ」

「気を付けるよ」


 私は肩を竦めた。

 少なくとも、現代兵器を並べて戦ったりは、もうしない。


「ちなみに、食の大国は好きにするといい。妾も食事に行こう」

「え!? 創造主って食べるの!? しかも植物なのに!?」

「なんだって可能じゃよ。お主だってそうであろうに」

「……【全能】なの?」

「どうかのぉ。少し違うと思うが、まぁ、近いかものぉ」


 ユグユグは両手を広げた。

 説明が難しいのか、説明したくないのか、どっちなのか分からない。

 まぁどっちでもいいけどさ。


「あ、そうじゃ」ユグユグが言う。「食材の生産にせよ加工にせよ料理にせよ、基本的には教えて大丈夫じゃ。どうせ近い将来、放っておいてもこの惑星のどこかで誰かが獲得することじゃしな。あ、この惑星に存在しない食材を産み出すのはダメじゃぞ」


 なるほどぉ、と私は頷いた。


「まぁ基本的には地球とほぼ同じ物があるがのぉ」


 色々セーフっぽいね。

 そして。


「あ、そうだ」閃いた。「今、魔力機関を研究させてるんだけど、大丈夫? 介入しない?」


 もしかしたら、割とすごい技術になるかもしれない。

 産業革命みたいなの起こるかも。

 魔力革命、みたいなの。


「質問は3つまでじゃ」

「私は食について、質問してないよ? ユグユグが勝手に私の心を読んだだけ。だからまだ質問は2つ」

「おおぅ、お主、割と屁理屈をこねるのぉ」


 ユグユグはやれやれと首を振ってから、小さく息を吐いた。


「まぁええじゃろ。お主が深く関わらなければ、大丈夫じゃ。この惑星の知的生命体が開発しておるんじゃろ? 発想はお主でも、開発が他の者なら、まぁええぞ」


 良かった。

 私はお金出してるだけだし!


「じゃあ、そろそろ帰りたいんだけど?」


「うむ。送ろう。最後にサービスじゃ」ユグユグが笑う。「神殿には勝ってもええぞ。近い将来、腐敗が酷すぎてどうせ潰れる。あ、現代兵器を並べるのはナシじゃぞ?」

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